夢枕獏(作家)×スガダイロー(ジャズピアニスト)【INTERVIEW】

2016.10.24 10:17 Vol.677

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CDブック『蝉丸−陰陽師の音−』でまさかのコラボが実現

 作家・夢枕獏の代表作である『陰陽師』はこれまで漫画、映画、ドラマに舞台とさまざまなジャンルで作品化されてきた。映画のメーンテーマをフィギュアスケートの羽生結弦が使用するなど、思いがけない広がりも見せている。そんな『陰陽師』も今年で30周年。今回、ジャズピアニストのスガダイローとのCDブック『蝉丸−陰陽師の音−』という思いがけないコラボレーションが実現した。

(撮影・蔦野裕)
(撮影・蔦野裕)
 まずこのCDブックが実現したきっかけは?

夢枕獏「30周年ということでジャズのレーベルをやっているうちのカミさんが“何かやろう”と言うので“じゃあやろうか”って話をしたのがきっかけです。本とCDとが合体したような、本屋にもCDショップにも置けるもの。未発表の小説に曲をつけてもらって、CDをつけてやろうっていうことを話していたら、実現しました」

 スガダイローはフリージャズのピアニスト。その超絶なテクニックと即興対決といった独特のスタイルは一度見たら絶対に忘れない。そんなピアノを弾く男。そもそも2人の接点は?

スガダイロー 「(奥さんが)ライブを見に来てくださって」

「“ダイローさんで行こう!”って。僕はそれまでダイローさんのピアノは聴いたことはなかったのですが、カミさんはもともと気になる存在だったらしいんです。それで聴きに行ってすんなり決まりました」

 演奏を聴いて、どんな感想を?

「ジャズはずいぶん前なんですが、山下洋輔さんから入ったんです。“スゲエなー!” と思って、ずっとあれがジャズのスタンダードだと思っていたんですが、その話をダイローさんに言ったら“違うよ!” って(笑)。確かにカミさんに“ジャズ”って言われて聴かされているものとは違っていた。だからダイローさんのかっ飛ばしている演奏を聴いた時に“山下洋輔入ってるな”って思いました」

 ダイローさんは、獏さんの作品は?

ダイロー 「何かを子どものとき読んだんですけど、忘れちゃったんですよ…。『陰陽師』は読んでなかった。それでこのCDブックをやるにあたって本がどっさり送られてきた(笑)。それでひたすら読んでしまったんですが、おもしろいですよね、あんまり深入りしない感じもいい。短編で、スッと抜けていく。僕は昔は小説を読んでいましたが、最近は全然、なんです」

「たまに本をもらって迷惑なのが“あれ読んだ?”って数週間後に言われること。自分は言わないように心掛けていますし、送るときは字が少ないものにしています(笑)」

 今回は先に小説があってそこから曲を?

ダイロー 「それは一曲だけ。『蝉丸』という曲だけは原稿を頂いてから作りました」

 今回書き下ろした『蝉丸』は源博雅と琵琶法師の蝉丸のお話。

「ふたりが一緒に出てくる話は“こういうエピソードがある”といった形では紹介はしていたんですが、ちゃんと小説として書いたのは初めてなんです」

 こんな面白いエピソードが初出なんて…。

「これまで120本くらい書いていますが、ネタがなくなることはない。でも手口が難しいんです。どう展開していこうかな、って」

 スガダイローは他のミュージシャンとセッションすることが多い、最近は演劇の音楽監督を務めてもいる。コラボレーションの醍醐味って?

ダイロー 「いや…それ今回の取材で何度も聞かれていて(笑)、獏さんの答えを覚えちゃってるから、それを言っちゃいそうで(笑)。獏さん、先に言ってください!」

「僕は誰かと何かをするのは好きなんです。舞台とか映画とか落語なんかも、こっちが押しかけて書くこともあるし、依頼されることもある。いろいろなコラボレーションをやってきたんですけど、今回はコラボレーションとして“かくあるべき”というものになった気がしているんですよね。中には両方のお客さんが納得しないコラボってあるじゃないですか。今回は両方の良いところが出て、なおかつ新しいものが僕は出せたと思ってるんです。曲を聴いて僕もちょっとびっくりした。とても静かにゆっくり真逆のところからスタートして、落とすところは最後ガンガン攻めてくる。ダイローさんは今回いろいろなことをやっているよね?」

ダイロー 「やりましたね」

「僕は音ってことで、新しいゾーンが開いた気がするし、ダイローさんはダイローさんで、“こういうこともできるんだよ”って世間に向けて発信できる良い場になったんじゃないかな」

ダイロー 「そうですね」

「両方が得したコラボで、両方の良いものがちゃんと出ているということで、“かくあるべき”というものになったと思うんです」

ダイロー 「前から“音を減らした音楽やってみたい”という思いがあったんですが、それをどこでやろうかと考えていた。平安時代とかイメージすると、どう考えてもいつもの自分の演奏方向では合わないというのが分かっていたので、やってみるなら多分ここなんだろうと思いましたね」

 演奏にはベースに東保光、太鼓に辻祐、龍笛・磐笛で松尾慧、背景音の録音で京都精華大学の小松正史教授が参加している。
 CDブックにある小松教授の文章の中で、「録音物には限界がある、物語の音表現には限界がない」という言葉があった。

「それは両方で言える言葉。言葉だと限界があるけど、音には限界がないという言い方もちゃんとあるし、間違いなくそういう場合はある。言葉だけでは表現できないものもあるし、音だけでは表現できないものもある。僕は言葉の限界というものはよく分かります。書かれた言葉より役者の生身のセリフのほうがすごくよかったり、20行の言葉よりも役者の1個のセリフが効果的だったり、音が1個あるだけで、何行もの言葉が全然いらなくなるときもある。またその逆もある。そういう意味で多分、小松さんが言っているような、僕が音に対して多少補っている部分はあると思うのだけど、逆に僕の言葉が届かないところは音がカバーしているというのはあると思う。言葉の間(ま)って、喋って初めてできる。僕が書いているものは目が追っていく速度で読まれてしまうので、間については1行空けるとか、そういうことでしか(表現)できない。音なら、ピアノをポンってひとつ鳴らしてどのくらい間を空けるかで、聞くほうは次の音を無意識に待っている。いつどこで次の音が来るかを待っていれば、その間の楽しみが間違いなくある。次の音が予想を裏切ると心地良いじゃないですか。予想した音が来るのもうれしいですが、予想以上の良いものが来ると、音と音との間でどんどん引っ張られていくので、ちゃんと補いあっていると思う。今回のコラボはとくに、それが随所にあると思います」

 いいコラボができたという手ごたえ。

「結構感動しましたね。ゆっくり始まって、いきなり笛が急に入るところがある、あれなんてすごくいい」

ダイロー 「『蝉丸』かな?」

「そうです。古典の楽器ってやっぱりすごいなと思って、その話をしたら、ダイローさんは“あれ(古典の楽器)は暴力だ”と言いましたね」

ダイロー「一撃必殺的なすごい力がありますよ」

「“あ、そうかなるほど”と思いました。西洋の楽器の中にいきなり出現した笛の音は本当に暴力だなというくらい、入り込んでくる。その感じがよかった。笛のパートは、イメージ的には“青い刃物”ですよ。それでいきなり、こう空気をヒュっと切り裂いていくような感じ。音なんてそういう映像的な言い方で言ってもしようがないんですが、そういう感じがあるんですよね。言葉で表現するとき、“すごく良い音がした”と書くのでは駄目。それを何かにしなくてはいけないので、近似値で描くわけですよね」

ダイロー 「和楽器は、薩摩琵琶とかもすごいですからね。本当に一撃でパーンってやられちゃう。和太鼓もすごいですね」

「和太鼓の林英哲さんがオーケストラとやっていても、一人で全部さらっていくんですよ」

ダイロー 「あれはなかなかできない。和太鼓とかには勝てる気がしない。見かけからして(笑)」

 笛は?

ダイロー 「笛もけっこう音量があるんです。生音じゃかなわないですよ、ピアノでは。マイクがない時代から日本という湿度が高い環境でも遠くまで鳴るようにできていますから。ピアノなんかそんなに遠くまで届かないです」

『しのびよる森の神々』という曲は、獏さんの書いた『蝉丸』の中に書かれた擬音をピックアップした曲。

ダイロー 「原稿を読ませていただいたときに、“これって音楽だな”と思えて、試しにこれを楽譜にして、リアルタイムで聴きながら、譜面を読むように本が読めたらおもしろいかなって思ってやってみました。普通はこんなことやらないです。閃いて、ボツになるかもしれないけど試しにやってみた。遊び?の感じで」

「相当いいと思う」

ダイロー 「読みながら聴くとぐっとくると思います」

 普段のスガダイローを聴いているファンにとっては『道満』がふだんのイメージに近い?

ダイロー 「道満は…“和太鼓とバトルしよう”というのがテーマなんです」

「後半すごいですよね。前半は結構ね、道満の背中が見えるような感じで、だんだんだんだん音が攻めてくる感じ」
(撮影・蔦野裕)
(撮影・蔦野裕)
クリエイターならではの切実な問題


 スガダイローは年間多くのライブを開催。毎晩演奏しているくらいのイメージだが…。

ダイロー 「今はそんなにライブを入れないようにしているんです。若いときみたいに毎日演奏しても、質もモチベーションも保てなくなってきている。あんまり無理しても疲れて弾けなくなっちゃうから、減らしています」

「そのうち“昔のスガダイローはどこいった?”と言われ始めるよ(笑)」
ダイロー 「そういう気はしますね(笑)」

「“昔のほうがいい”と平気で書く人もいる。僕も、“昔の夢枕獏がいい”と言われちゃう。昔、20代にカっ飛ばしていたようなものって、60過ぎて年取ってくると、“恨み”が減っちゃって、違う感じになっちゃう。みんな“それじゃいかん”て怒るんだよ。いまだに“100m10秒で走れ”とアスリートが言われちゃうようなもので、テクニックでごまかしちゃうと、“悪達者になった”と言われちゃう。だからそういう意見は上手にくぐって、好きにやればいい。変にまどわされて迎合すると失敗する。好きなことだけやっていればいい」

ダイロー 「好きなことなら失敗してもね。自分のせいなんで。いや、でもライブは減らした覚えないけど、減ってきた(笑)」

 モチベーションという意味では演劇と関わったり、今回のCDブックは大きな刺激になったのでは?

ダイロー 「なりましたし、1週間とかライブしないと“弾きたい!”といった感覚になる。若い時には“人前で弾きたい!”“ライブしたい!” というのが日常で毎日弾いてたので、そういう感覚はなかったかもしれない」

 年を取ると恨みが減るというのは?

「具体的にいうと、長編を一本書くと、ちょっと減るんだよね。300冊とか書いているとね、なんていうんだろう、恨みに思っていることってそんなになくなるんだよね。本当は楽になっちゃいけないんだけど、感受性もちょっと鈍くなってくる。ヒマラヤに行って最初は感動したけど、1か月毎日同じ風景を見ていると10日くらいで感動しなくなる。60数年間ずっと走ってるとそういった現象が出てくる。新しい何かに出会うケースが少しずつ減ってくるんです。だから今回のようなことが刺激になるんです。音の世界にはまだまだ新しい発見があった。自分では、“やってよかったな”と思いました」

ダイロー 「(毒が抜ける、ということは)理解できますね」
「病気だから。僕たちは。僕は書く病気で、ダイローさんは、演奏する病気みたいなもの。暇でなにもしなくてもいいってなっても弾いちゃうでしょ?」

ダイロー 「そうですね」
「これはもう病気なので、締め切りがなくても書いちゃうんですよ」

ダイロー 「たぶん、刺激中毒なんだと思うんです。すぐに“もっと 知らんモンを持ってこい!”ってなっちゃう。“もうそれ知ってるよ”ってすぐ興味がうせちゃう。獏さんが仰っていたように、世の中からだんだん“知らんモン”がなくなっていくんですよね」

 今回のコラボを記念して19日には発売記念コンサートが開催された。収録された曲の演奏はもちろん、夢枕獏の朗読もあり、まさに『蝉丸-陰陽師の音-』の世界が目の前に広がった。それぞれのファンにとっても、夢枕獏、スガダイローにとっても刺激的な一夜となったに違いない。

(撮影・蔦野裕)

(撮影・蔦野裕)

ジャズ×プロレス 第2のコラボ実現か!?

 夢枕獏はプロレスや格闘技にも造詣が深い。一方、スガダイローは「あまり見ない」というレベル。

「山下洋輔さんは昔、ブッチャーを見て“これはジャズだ!”って言ったらしいんです(笑)」
ダイロー「いろいろと聞く話では、プロレスはやっぱりジャズに近いかもしれないとは思います」

「プロレスって、言葉を知らない同士でも分かる共通の言語ってあるんです。ロープに振る時は必ず相手の左腕を持ってこう振りなさい、といったもの。そういう細かい言語が決まっている。それをうまく理解できない選手が違うやり方をして失敗をしたりとか」

ダイロー「それが逆におもしろかったり(笑)」
「そういうざっくりとした約束事の中にアドリブも入って来る」
ダイロー「やっぱりジャズですね」

「失敗するときもあるんですよ。ジャズでも演奏中に失敗すると、もう1回戻して似たような展開作るといったことも…」

ダイロー「あります(笑)。とりあえずもう1コーラスとか(笑)。長くなっちゃうんですよね(笑)」

「それ、言わなくてもやれちゃうでしょ? プロレスもそういうところがあるんです」
ダイロー「なるほど」

「猪木は“ほうきとだってプロレスができる”と言われています。だから以前、ジャニーズのタッキー(滝沢秀明)ともプロレスをしましたが、あれも相手がプロレスのことを知らなくても試合を成立させることができるんです」

ダイロー「山下洋輔さんは猫とセッションしていましたから(笑)。鰹節を置いておいて、歩かせて」

「葛飾北斎は鶏の足に赤い絵の具をつけて歩かせて、もみじだって。あれもジャズっぽい」
ダイロー「でもほうきはすごいな(笑)」

最近プロレスは?
「あまり見れてないんだよね。最近は新日本プロレスの人気がすごいんだよね」

 新日本とDDTという団体が人気があって、DDTでは空気人形と試合をして、成立させています。
ダイロー「(笑)」
「えー? 見たいなそれは。いろいろ絵が浮かぶな~」

 いわゆるほうきと試合をするのと同じ感覚かと。

ダイロー「プロレスとは一緒にやれそうな気がしてきたな~」
「後楽園ホールにピアノを置いてね。フットワークの軽い団体だったらすぐにまとまりそうな気がするよね」

ダイロー「それ、心のどこかに留めておいてください」
「ムエタイというのは音楽とセットになっている。あれはアドリブで、“もっと頑張れ”って感じで試合が乗ってきたら、そのように音を変えるんです」

ダイロー「音楽であおることもあるということですか?」
「試合が盛り上がると音楽もガンガンいく。どっちが先なのかは分からないけど、けっこうガンガンやりますよ」

 プロレスも大会場で生演奏で入場というのはあるが、試合中に生演奏を流すというのは聞いたことがない。

「面白いかもしれない。コスチューム着ないとダメですよ」
ダイロー「(笑)いいっすよ、やりますよ」

 マスクをかぶったり…。

ダイロー「いいね、マスクマンになりたい」
「刺激的でいいね。はまるかもしれないよ」

ダイロー「がぜん興味がわいてきました」
「リングには置けないかもしれないけど、どこかにピアノを置いて」

ダイロー「でもどうせだったらリングの上に置きたい(笑)」
「試合ができなくなっちゃう」

ダイロー「いや、試合がしたいんです。ダメかな?」
「それは大丈夫でしょ。LiLiCoもやってるし。ただ時々ルールを破って目立ちたがる選手がいるからそういうのだけは気をつけないとね。後はね、本屋さんプロレスとか昔ありましたよね。街の本屋さんでいきなりプロレスを始めちゃう。あんまり壊れないようにやったりしてるんだよ。あと、空き家でプロレスして家壊したりとかしていましたよね」

ダイロー「(笑)」
「壊していい空き家で。一軒家プロレス。プロレスラー何人かで家一軒壊せちゃうんだよ」
ダイロー「それだったら壊していいようなピアノを一台用意しておいて…」

「そうそうそう。それはけっこういいかも。それで鍵盤の数がだんだん減っていって少なくなっていくんだけど、弾いてる(笑)」
ダイロー「(笑)」

「それいいんじゃないの?(笑)。壊していいやつで。それなら金槌で叩いたりなんでもやれるし」
ダイロー「なんか面白くなってきたな~」
「ピアノ壊したら、みんなびっくりするよ(笑)」

 新宿フェイスの舞台にピアノを置いて、乱闘の時にピアノの上でパイルドライバーとか。

「いいねえ~(笑)。鍵盤の上にボディースラムで落として、ガーンってすごい音したりね(笑)」

ダイロー「でも俺、プロレスラーが素手でピアノを壊せるかというのは興味ありますね。俺は壊せないと思っているんですよ」

「弦が切れないんじゃないですかね。あとはかかと落としでガーンと…」
ダイロー「いや、でもね、あれ結構頑丈なんですよ。信じられないくらい頑丈」

「じゃあメーンイベントはピアノvsレスラー」
B>ダイロー
「ベースが乱入して殴りかかったりしてね」

獏「でかい鍵盤の中に、こんなちっちゃいおもちゃのピアノがあるじゃない。あれを隠しておいて、最後はそれで弾く。そのときは僕、演出やりますよ」

 おーっといきなり「夢枕獏presents ジャズvsプロレス」が急浮上! まさかの第2のコラボもあるのか?(東スポ風)
(THL・本吉英人)
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