変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その参)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

 軍事力を背景に、また拡大する経済力や国内市場を梃子に、中国は、アジア太平洋諸国への影響力を急速に増大させています。しかも、それが戦略的にはアジアを舞台にした米中のゼロ・サム・ゲームになっていることは注意を要します。

 近年、最も強烈な中国の圧力に晒されているのは韓国です。韓国政府が在韓米軍へのTHAAD配備を決断して以来、中国政府は配備先の土地を提供した民間企業(ロッテ)の中国国内での営業を妨害したり、中国人旅行客の韓国への渡航を制限したり、韓国製品のオンライン販売を規制したりするなど、陰に陽に圧力をかけました。結果、最近の韓国の世論調査で、中国は日本を抜いて不人気国の第一位に躍り出ました。しかし、5月9日の選挙では、突出した親中・親北の文在寅大統領が選出されました。朴槿恵前大統領の弾劾に端を発した選挙であったことを考慮しても、北朝鮮の直接的な脅威を前にして、なおこのような結果となったことは、今後の米韓、日韓関係に深刻な懸念を生じさせています。

 フィリピンでは、中国による脅威に対抗するため対米関係の強化に踏み出したアキノ前政権が同国への米軍プレゼンスを拡大すると、中国はスカボロウ礁への攻勢を強めました。ルソン島の西約230kmのEEZ内に位置する同礁をめぐっては、1990年代から中比間で紛争が絶えず、現在まで、中比の海上法執行機関および海軍艦船のにらみ合いが続いています。その間、中国政府はフィリピンからのバナナの輸入を停止するなど経済的な圧力をかけました。2016年7月、中国による「九段線」の主張を完璧に否定した国際仲裁裁判所の判断によって、フィリピンが全面的な勝利をもたらしたにもかかわらず、新たに政権に就いたドゥテルテ大統領は対中宥和姿勢に終始しています。このことは、地域の海洋安全保障にとって新たな懸念材料といえるでしょう。

 その他、ラオスやカンボディアはすでに中国への従属の姿勢を鮮明にしていますが、タイについても、2014年の軍事クーデターに米国が非難を強めた隙を突いて中国が軍事的関係の強化に乗り出し成功を収めつつあります。さらに、中国は豪州にもあからさまな圧力をかけ、常時行われてきた豪州海軍による南シナ海での哨戒活動をいきなり両国間の争点とし、かつ、米豪の共同パトロール実施にも警告を発したのです。

 もちろん、日本にも台湾にも陰に陽に圧力はかかっています。とくに、「一つの中国」原則を受け入れない蔡英文政権に対しては、近年、国際民間航空機関(ICAO)や世界保健機関(WHO)の総会からの締め出しを図るなど、露骨な圧力をかけています。このような人類共通の課題を扱う国際機関から特定の国や地域を排除すれば、世界全体でのシームレスな連携や対応ができなくなり、すべての人々の人命やその前提となる健康や生活環境に影響を与えます。この深刻な帰結を、我々は声を大にして国際社会に強く訴えるべきでしょう。(衆議院議員 長島昭久)

【長島昭久プロフィール】
東京21区(立川市、昭島市、日野市)衆議院議員。元防衛副大臣。慶應義塾大学で修士号(憲法学)、米ジョンズ・ホプキンス大学SAISで修士号(国際関係論)取得。現在、衆議院文科委員会委員、子どもの貧困対策推進議連幹事長、日本スケート連盟副会長兼国際局長、本年6月より日本体育協会理事