小池百合子東京都知事 東京未来ビジョン懇談会で若い世代が未来の東京を語り合う

JAPAN MOVE UP!「日本を元気に!」TEAM2020 SPECIAL INTERVIEW 東京都から日本を元気に

 6月1日に特別顧問を務めていた地域政党「都民ファーストの会」の代表に就任した小池百合子東京都知事。7月2日投開票の東京都議選に向けいよいよ臨戦態勢となったが、その前に現在の都政の課題について聞いた。(聞き手・一木広治)

撮影・辰根東醐

 東京都では政策の推進や政策形成等に新たな発想を取り入れるため、各界の第一線で活躍する若い世代と意見交換を行う、「東京未来ビジョン懇談会」を設置。1月に始まりこれまでに3回行われている。この狙いや目的についてお聞かせください。

「2020年の東京オリンピック・パラリンピックについては現在着々と準備を進めています。2020年ももちろん大事ですが、私は“その後”にも特に焦点をあてて考えるようにしています。2025年は東京の人口がピークアウト、つまり下降を迎えます。それから団塊の世代の方々が後期高齢者入りするということで、この2025年というのは東京にとって死活的、重要な年になります。そのためにいま取り組まなければいけないのが人口問題。国会議員の時から谷垣さんが会長を務めておられた人口問題の議員連盟に入って課題に取り組んでいました。(人口+経済+防衛力)×(戦略+意思)という国力の計算式というものがあります。これはジョージタウン大学のクライン教授が編み出したもので、国力の中の一番最初の要素が人口なんです。国力=(人口+経済力+国防力)×(戦略+意志)です。大事なのは意志。戦略だけならコンサルティング会社に頼めばきっと素晴らしいものを書いてくるでしょう。でもそこに意志が入っていないとダメ。だからこそ、私は意志を持って、待機児童対策=働き方改革に取り組んでいます。今ここで手を打って動かないと日本の人口は加速度的に減っていく。今はギリギリの、お相撲でいうと俵に足がかかっているところ。ただ、人口問題といっても、「産めよ、増やせよ」といった時代ではありません。一人一人が未来に希望を抱いてこそ、結婚したり、子育てをするわけです。そこで、若い世代から意見を聞いて、彼らが希望を持つためにはどうしたらいいのか、を論じてもらう場を作ったわけです。最初の会議のときに私は報知新聞の1901年の記事を紹介しました。100年後の日本を予想した『二十世紀の豫言(よげん)』という有名な記事です。そこでは空飛ぶ大砲として戦闘機、空気調整機としてエアコン、通信販売、楽天やアマゾンを思わせるような夢が予言されているのです。1901年に記者同士が妄想した話が、今、100年後には当たり前の話になっている。ですから、ビジョン懇談会では2050年、2100年の東京について、こうなっていたら面白いな、こんな東京だったらいい!というアイデアを出してもらうようにしました」

 過去3回を振り返って、面白い意見は出ましたか。

「意外とみなさん、現在ある問題点から出発しているので、現時点ではビックリする、突拍子もない意見は出てきていません。“もっと自由に発想して”とハッパをかけています。メンバーの伊勢谷友介さんは、エシカルな東京を実現するにはどうすればよいか、と真剣に語ってくれました。お笑いタレントのくわばたりえさんは子育ての問題について実体験をベースに語っておられました。5月の第3回には高橋みなみさん、たかみなさんにプレゼンしていただき、東京を音楽の聖地にしてほしいと熱弁されました。メディアアーティストで筑波大学助教の落合陽一さんもなかなか面白い視点を持っておられ、プレゼンが楽しみです。落合さんは報知新聞の記事に触発されていましたね。親が高学歴になるため、幼児教育の場、幼稚園はなくなるとの記事にうなっていました。彼は“今のままだと子供がいなくなるから幼稚園がなくなる” って言うんです(笑)。フェンシングの太田雄貴さんは日本人の国民性に触れ、“もっとみんなを応援するほうに回ればいい。うまくいかないプレーが続くとみんなため息をついちゃう。日本はため息をつくけど、世界ではむしろそういうときこそみんなで応援する”といったなかなか面白い話をされました」

 チャレンジドスポーツの現場で行われた「CHALLENGED SPORTS夢の課外授業」(CHALLENGED SPORTS夢の課外授業実行委員会主催)にも参加していただき、積極的にパラリンピックや障がい者スポーツの啓蒙活動をやっていただいているんですが、今までの活動の手ごたえや、改めて障がい者スポーツについての気づきがあれば聞かせてください。

「都知事になっていろいろなスポーツを実体験する機会が増え、大変さと楽しさを感じるようになりました。最初に重度の障がいのある方が参加することの多いボッチャを体験しましたが、最初は“ぼっちゃんってなあに?”と秘書に聞いたりして。実際、やってみると頭脳プレーが必要なんです。滑り台のような樋を使ったり、どんな障がいがある方も参加できるし、楽しめるし。みんなが応援して、一体感を持てるようになっている。これは私の唱えているダイバーシティというものを実現する道なのではないかなと思っています」

 首都圏直下型地震の可能性とか、2020年のオリンピック・パラリンピックに向けた有事への備えといったことに関心が高まっています。最近では北朝鮮のミサイル実験も頻繁に行われています。

「北朝鮮については非常に孤立感を高めるがゆえにますます危険性が高まっています。直下型地震についてもそうですが、いろいろな想定をしながら、今日も都の危機管理監に対し、あらゆる対応に心してほしいと指示しました。自衛隊、警察、消防が、しっかり連携をとる必要があります。元防衛大臣としても、より切実な危機意識を持って臨みたいと思います」

 8月2日で就任から1年になります。

「都知事の1年目はまず情報公開を徹底し、今まで黒塗りばかりだった資料も“のり弁”から“日の丸弁当”にしました。そのため、情報公開に関する条例も改正します。まずは開かれた都政にしていく。次に、開かれた議会が必要です。それを実現するチャンスが、今回の都議選です。チェックすべきことをきちんとチェックしていなかった古い体質が旧態依然の状況に輪をかけていたのではないかと思う部分もあります。今回の都議選は議会を新しくするチャンスですよ。まず1年前に私が都民によって選ばれた。次の都議選も都民が選ぶわけですが、ただお世話になったとか新年会で会ったことがあるとかで選ぶのではなく、“2025年以降の東京をどうするのか”といったビジョンを持った政策が描ける人、条例案が自分で書ける人、そういう都議会議員が必要だと思います。ちなみに都民ファーストの会では現在公認候補が48人(6月1日現在)で、うち3分の1が女性。また弁護士が2人。上場企業の取締役や商社マンなど、これまでの都議会にはいなかった人材がたくさん揃いました。まったくの新人と議会経験者をうまく融合しながら、新しい東京の都議会、開かれた都議会、忖度のない都議会に生まれ変わればいいなと思っています」

 20〜30代といった若い世代に向けて、若いうちに取り組んだほうがいいことってありますか?

「ぜひ将来の伴侶を見つけるようにしてください。というのも待機児童とか少子化対策とか問題視されますが、そもそも婚姻数が減っているんです。フランスの事実婚やシングルマザーは、日本社会ではまだまだ生きにくいのが現実です。婚姻件数が減れば、子育てどころではありません。若い人は出逢いの場もないとか、結婚に夢が抱けないとか言います。東京都は出会いの場作りも後押ししたいと考えています。ぜひよい家庭を持つことをお勧めしたい。さらに、何を学ぶかも考えてほしいですね。例えば先日ニューヨークのウオールストリートの金融の雄であるゴールドマンサックス社が一番の花形だったトレーダー600人を首にして、たった2人にしてしまいました。それはAIに取って代われたから。これまでトレーダーは年収1億円、2億円を平気で稼ぐ人たちでした。1億円プレーヤーを600人やめさせると600億円の経費が浮くわけです。そんな凄い時代です。ということは、これからのAI時代に打ち勝つにはどうすればよいのか? 自分の必要なスキルはなんなのか? 自分は将来、未来永劫必要な人間なのか?という視点を持って、さらに真剣に学び、職業選択をしてほしいと思います」

 オリンピック・パラリンピックが3年後に迫っている。みんなが参加する意識を持つことが大事。

「目の不自由な方用のエンブレムのバッチを作りました。どなたにも参加意識を高めてほしいからです。また、メダルの原料をいわゆる都市鉱山から集めています。使い古した携帯、家に死蔵されている携帯など、すでに約3万4000 台も集まっています。先日、ニュージーランドの首相がひとつ提供してくれましたが“メダルで取り返すから”って(笑)。これからも東京都民だけではなくて国民全体に一体感が出るような工夫を仕込んでいきたいと思います」