多部未華子 映画『あやしい彼女』で万華鏡のような魅力全開!
 73歳のおばあちゃんがある日突然20歳に若返り! 今までの分も人生を楽しもうと決めた彼女は、得意の歌をイケメン音楽プロデューサーに見初められ、孫と一緒にバンドデビュー!? 日本でもヒットした韓国映画『怪しい彼女』を『舞妓Haaaan!!!』の水田伸生監督がリメイク。日本中がその“あやしさ”に引き込まれてしまう異色のヒロインを演じた多部未華子を直撃!
撮影・辰根東醐 ヘアメイク・倉田明美 スタイリスト轟木節子
「贅沢な役でした」大先輩と2人一役&立場逆転

「台本を読む前にオリジナルを見たんですが、本当に楽しくて感動して…」

 本作のもととなったオリジナル作品を見て、すっかりこの物語に魅了された、と多部未華子。

「3回くらい見ました(笑)。演技の参考にしようというわけではなくて、作品としてすごく好きで。その後、撮影をしていて“このシーンはオリジナルではこうだったな”と鮮明に思い浮かんでしまうほどで、3回は見過ぎたと少し後悔しました(笑)」

 そんな多部が演じるのは、ある日突然、外見が20歳に若返ってしまった73歳のおばあちゃん・瀬山カツ。大鳥節子という偽名を名乗り20歳として生き直そうとするも、ついタフな人生を生き抜いてきた“毒舌おばあちゃん”の地が出てしまう。多部が見事に演じる“外見と中身”のギャップに観客も抱腹絶倒だ。その“中身”の役作りは、2人一役を演じた倍賞美津子の存在が大きかったという。

「撮影の始めのころは倍賞さんのシーンの撮影が多かったので、参考にさせて頂こうと見学させて頂きました。でもやっぱり難しかったです。73歳を経験したことがないですから(笑)。73年間生きてきた重みや深さを埋めるには想像するしかないので。なので最大限の想像力と、倍賞さんにも助けて頂きながら、役をつかんでいきました。なかなかこちらから倍賞さんに話しかけることができずにいましたが、倍賞さんのほうから気さくに声をかけてくださって。“こういうときの芝居はどうする”という打ち合わせみたいな感じではなく、ごく自然にカツについての話をしてくださったんです。カツは戦争孤児として生きてきたから逃げ足が早い、とか。普通の会話のなかでキャラクターのニュアンスを教えて頂きました。そんなお話を通して、カツは現代とは違う貧しい環境で次郎と2人助け合って生きてきたから、愛というものをとても大事にしている、という共通認識を持つことができました。撮影の終盤には自分の中でカツを想像しながら演じることができるようになっていました」

 近づけながらも、節子となってからの変化も演じなければならないという、2人一役の難しさ。

「最初のうちは、倍賞さんのカツに寄せていこうという意識はありました。見学できなかった倍賞さんのシーンについて、監督などから“こんな感じで演じてらっしゃったよ”と教えて頂いたりもしていました。でもそれも最初の1週間くらいです。似せることを意識して演じるのも何か違う気がしましたし、だんだん慣れてきたこともあって、倍賞さんのカツを意識しすぎること無く節子を演じることができるようになりました」

 倍賞と共演することができたのは貴重な経験だったと振り返る。

「大先輩…どころじゃないくらいの、すごい方ですから。近くで見てびっくりしたんですけど、倍賞さんはまつ毛がすごく長いんですよ! 本当にきれいでした」

 73歳という年齢に加え、毒舌でクセのありすぎるキャラクター。

「現実でも、あれほど思ったことをズバズバ言えたらいいでしょうけど(笑)。もしカツが自分のおばあちゃんだったら…ちょっと面倒くさいかもしれませんね、カツって何かにつけて一言多いですし(笑)。でも親子というものは切っても切れないもの、という愛情を教えてくれる人でもあると思います。孫目線だと、いいおばあちゃんですよね。お小遣いをくれるので(笑)」

 カツの幼なじみ次郎役の志賀廣太郎、カツの一人娘・幸恵役の小林聡美ら、先輩俳優たちとの共演も、いつもと違う楽しさを感じたようだ。

「本来、志賀さんと共演するとしたら“祖父と孫”とか“上司と部下”といった関係性が多いと思うんですが、今回は対等な立場でのやりとりもたくさんあって、めったにない関係性で芝居ができたことが楽しかったです。小林聡美さんとの関係性は、一般的な“母と娘”の役どころとは逆転していましたし。そういうシチュエーションがすごく贅沢だったというか、とても貴重な経験をさせて頂きました」

 水田監督との仕事にも、大いに手ごたえを感じたようだ。

「水田監督はテストもあまりしないしOKを出すのも早いので、常にいい緊張感を持つことができて気持ち良かったです。もちろん作品や現場、監督によっていろいろなやり方があると思いますが、私はポンポン進む現場が好きなので、やりやすかったです。監督は常に私たちのことを気にかけて下って、常に役者が心地よい、演じやすい環境を作ってくださる監督だと思います。私だけじゃなく、他の役者さんもそう感じていたんじゃないかと思います」
撮影・辰根東醐
昭和の名曲が壮大過ぎて!? 「今も歌は苦手(笑)」

 さらに今回、大きな見どころとなっているのが劇中で多部が披露する昭和歌謡の数々。

「もともと両親の世代と近い時代の歌ですし、私が小さいころに両親がよく聞いていた覚えもあって、今回登場する歌も聞いたことのない曲は無かったんですけど…自分が歌うとなると本当に難しかったです(笑)。

坂本九さんや美空ひばりさんが歌っている当時の動画を見てみたんですけど、あるときは語りかけるように歌っていたり、同じ曲でもいろいろな歌い方をされていて、そのときによって歌い方が違うんです。参考にするのも難しくて、どうしたらいいのか分からず、いっぱいいっぱいでした(笑)」

 本格的なトレーニングも受けた。

「撮影の3カ月前くらいから、ボイストレーナーの先生に指導して頂きながら練習していました。最初のうちは“(歌い方が)走りやすいから一定のテンポで”とか“ここの音程が狂いやすい”といった技術的なことを学んだんですが、最終的には“一番大事なのは感情だ”という話になって。自分でも成長の兆しが感じられないままレコーディングの日が近づいてきて、本当に大丈夫かなと心配でした。でも大切なのは感情だ、と自分に言い聞かせてなんとか歌い切りました。今回、撮影前にレコーディングを行ったのですが、そういうことも初めて。そもそも、ここまで本格的に歌った作品も初めてなんですけど(笑)。ライブシーンはとにかく楽しもうという気持ちでいたのですが、とくに『悲しくてやりきれない』は物語に沿って感情を表現する歌だったので、撮影前ということもあり余計に難しかったです。歌もお芝居と一緒で、正解や答えの無いものなので、自分が腑に落ちる瞬間をなかなかつかめず難しさばかり感じていました」

 20歳では醸し出すことができない“深み”を節子が歌い上げる『悲しくてやりきれない』をはじめ、改めて昭和歌謡の魅力に気づかせてくれる作品でもある。

「『見上げてごらん夜の星を』は本当に素晴らしい歌で、私も最初はなんて素敵な歌詞なんだろうと思っていたのですが、歌えば歌うほど歌詞が壮大過ぎて、どうとらえたらいいのか分からなくなってきて。そんな歌を、節子はのど自慢大会で歌うので、感情を歌詞に乗せるのがとても大変でした」

 劇中の歌唱シーンを見るに、もともと歌が得意だった?

「苦手です(笑)。カラオケは好きなんですが、職業として人に聞かせられるようなレベルではないですし。歌を披露することの抵抗は、撮影が終わった今でもあります。今回の経験で、歌への苦手意識が変わればいいなと思っていましたが変わりませんでした(笑)。でもフェスのシーンは楽しかったです。本当にエキストラさんに助けられました。皆さん、すごく盛り上げ上手なんです。映画の撮影ということを忘れるくらい、観客との一体感を感じました。実際のアーティストの方もああやってファンの皆さんからパワーをもらっているんだろうな、と。良い体験をさせて頂きました」

女優・多部未華子が今日も現場に立つ理由。

 観客の喜怒哀楽を見事に引き出す多部。そのコメディエンヌぶりを愛するファンも少なくない。
「実際の私も、明るいときは明るいんですけどね(笑)。ただ、自分をコメディエンヌと思ったことはないんです。私にとってお芝居とは、ジャンルや役どころに関わらず等しく難しいもの。私は、台本を読んだときに“ここが笑うポイントだろうな”とか、演じるときに“この場面でこんなメッセージを伝えられるだろうな”というようなこともあまり考えません。本当にただ、役者として監督たちと一緒に一つの物語を作っている、という感じです」

 どんな役にもそれぞれ難しさを感じるという多部。それでも、その難しさと向き合い続ける。

「撮影現場が好きなんです。役割の違うプロたちが集まって、それぞれに最高の仕事を目指しながら一つの目標に向かっていく姿がとても好きなんです」

 もし、節子のようにもう一度人生を与えられるなら…?

「人生をやり直したいという気持ちは無いですが、生まれ変わりということなら…役者とはまた違う生き方も興味あります(笑)。好奇心というか、OLさんとか他の職業をやってみたいです」

 その好奇心で今日もさまざまな人生を生きながら、見る者を笑わせ泣かせ感動させる。そんな彼女の魅力がつまった一本。(本紙・秋吉布由子)
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『あやしい彼女』

 可愛いルックスと天性の歌声を持つ20歳の女の子・大鳥節子。しかしその容姿とは裏腹に、口を開けば超毒舌、相手かまわず罵声を浴びせ、時には熱く説教をする。そんなそんな“超絶あやしい20歳”の正体は、73歳のおばあちゃん! 

監督:水田伸生 出演:多部未華子、倍賞美津子、要潤、北村匠海他/2時間5分/松竹配給/4月1日(金)より全国公開  http://ayakano.jp/