監督・三池崇史 映画界と漫画界の“問答無用の面白さ”が融合!

 貴家悠&橘賢一による大ヒットコミック『テラフォーマーズ』を、日本映画界が誇る鬼才・三池崇史監督が映画化! 伊藤英明、武井咲、山下智久、山田孝之、小栗旬ら超豪華キャストを揃え、とんでもないアクションエンターテインメントを生み出した!

撮影・蔦野裕

三池監督も映画化に仰天!?
 アクション、バイオレンスからホラー、青春ものに社会派まで、普段から“撮る作品を選り好みしない”と公言する三池監督だが、そんな監督でも「僕自身、まさかこの作品を実写化するとは思いませんでしたからね(笑)」と苦笑する。

 舞台はテラフォーミング(火星地球化計画)が進んだ未来の火星。500年前、人類はコケとともに“ある生物”を送り込んだのだが、その生物は驚愕の進化を遂げていた。それを知らず“害虫駆除”のため送り込まれた日本人15名。彼らは昆虫の特性を組み込んだ特殊な能力を使い、恐るべき“テラフォーマー”たちとの“駆除合戦”を繰り広げる…! ハリウッドでも実写化には二の足を踏むのではと思うほど、自由すぎる発想に、常識を覆す展開の数々。それを日本で、エンターテインメントとして成立させた三池監督に、もはや“実写不可能”なものは無いのでは。

「できているかどうかは分かりませんけど(笑)、やろうとしなければ何も生まれない。常に思い通りのものができるとは限らないけど、だからこそ、映画を作る意味があると思うんです。今回は、まさにその醍醐味を感じることができた作品じゃないかな。自分としては作業も面白かったし出来上がった作品も、ものすごく好きですね」

 原作の持つ“常識を超える面白さ”は、そのまま“型にはまらない三池ワールドの面白さ”と通じ合った。
「僕はたとえ不完全でも面白い台本ならスタッフみんなでいろいろな可能性を探っていくほうが好きなんです。原作との向き合い方にしても、僕は誰よりも原作をリスペクトしている人間。だから意見がぶつかったとき互いの妥協点を見出す、ということをしたくない。押し通すかスルーするかです。むなしい話でしょ、みんなの落としどころを探るなんて。本来そんなのは映画作りにはいらない作業です。ただ今回は、大抵の映画ではやらないようなことができるということもあって、みんなが楽しんでいましたね(笑)」

撮影・蔦野裕

人は“無意識”こそが面白い
 三池監督は、原作の最も重要なルールを的確にとらえた。すなわち“面白ければ何でもあり”。

「ハリウッドのSFとは違うんです。そもそも、サイエンス・フィクションというジャンル自体、日本には無かったものだし。この作品はもっと娯楽的なもの。登場人物も設定もハチャメチャ、だけどそれが面白い(笑)」

 計算されていないところに“本当”がある、と監督。

「キャラクターにしてもそうです。僕は、一つのメッセージが軸にあってそのメッセージが人や物語を動かしていくという形には疑問を感じるんです。それって“本当”なのかな、ってね。無意識のうちにとる行動にこそ、人物像やその思いが現れるんじゃないか。それが人間というものを描くことになるんじゃないか、と。メッセージを表現するために人物を行動させるということに、どうしても違和感を抱いてしまう。だから僕の映画には理屈を語る登場人物がほとんど出てこない。“君たち人生について何も考えてないでしょ”みたいなヤツばっかり(笑)」

 本作の登場人物も然り。意に沿わず昆虫の能力を与えられても、苦悩などしていられない。目の前の敵をどうにかしなければならないからだ。

「そんな人間がとんでもない状況に放り込まれたとき、そこからどう立ち上がるか。それなら僕は描ける。で、それを描いてみるとそこには、僕のメッセージじゃなくて、その役のメッセージが現れるんですよ。血まみれになりながらも立ち上がった…絶対に引かないヤツだからな。お、石を持った…あ、それで殴るのかって具合に、その人物が自ら動く。僕らがその人間をこんなふうに描きたいと考えるのではなく、その人間が僕らに映画を撮らせている。そういう感覚がね、すごく面白いんです」

 舞台も人物も常識の範疇外。それでも、彼らの行動原理は誰もが共感できるものだ。すなわち、生き延びること。そしてあの家庭内害虫から進化した生物を全滅させること。

「実際、人間の感覚って大差ないように思うんですよ。僕は、火星で訳の分からない生命体と戦うという話の中でも、純粋な人間らしさ、普通に生きている人間の姿を凝縮して描けると思ってる。だから僕にとっては、時代劇なんかも非常に描きやすい。ただ邦画の環境的には高校生のラブストーリーのほうが受けがいい(笑)。今の日本の映画界はすごく平面的になっている気がします。アメリカでもヨーロッパでも毎年、多様な作品が次々と生まれているのにね。もちろんラブストーリーだって、究極のものが作れればいいでしょうね。僕が? やってみたいですね。『テラフォーマーズ』と、そう変わらないでしょ(笑)。本質は同じ、人間のすることだから。誰かと戦ったり、思い通りにいかなかったりするわけでしょ。そこで生きることへの疑問にしろ死と向き合う恐怖にしろ、人生についてのどんな問いが浮かぼうが結局、答えが出ないものなんだから」

 映画が人生を描くものなら、映画も人生のように答えの無いもののはず。

「だから黒沢清みたいなホラーを作られると困っちゃうんだよね(笑)。死は永遠の孤独、なんて絶対的な答えを出されちゃ。あれは全映画を否定してると思いますよ(笑)。それを突き付けられたとき、僕はむちゃくちゃ怖かった。『回路』で赤いガムテープが転がっただけでね、うわーやっべえ…って。黒沢さんに伝えたら、“ほんと?”ってうれしそうで。子供がイタズラして喜んでるような黒沢さんを見て、ちょっとほっとしました(笑)。でもあれは自分の見たなかで究極の一瞬だったんですよ。死は永遠の孤独だということを知ってしまえば、人間が生きる姿をいくら描こうが、全否定ですもんね(笑)」

監督が役者たちに思うこと
 だから三池監督は“答え”を設定しない。役者陣も、むしろそれを楽しんでいるフシがある。

「役者たちに戸惑いがあったとしても撮影前には解消されるものなんです。役者たちも衣装合わせなどを通して自分なりに役をつかみますから。役作りというのは、この人間はこうなってしまったからこうなんだよという、簡単な形にくくってしまう作業でもある。ベースはそれでいいとしても、同じ境遇でも100人いたら100通りの生き方、考え方がある。それをいちいち登場人物ごとに僕が決めていくとか、疲れちゃうじゃないですか(笑)。もちろん監督としての采配は必要ですけど、支配しようとすると、すべてを逆算して撮らなきゃいけなくなる。そういうやり方もあるけど、僕はあまりやらないですね」

 三池組に参加した役者たちの多くが “監督からの信頼を感じた”と語る。一方、三池監督が一緒に仕事したい役者とは。

「そこはけっこうシビアです。やっぱり力のある人。実力があって名前も売れている人。イコール、スケジュールが厳しい人なんだけど(笑)。でもそれは現場の知恵でなんとかやりくりすればいいんです。時間のある能力の無い人よりも、時間がちょっとしか無い能力のある人のほうが絶対に優先。撮影に5日くらいかかりそうな脚本だと大抵、マネジャーが“いや~残念だなあ、ぜひ〇〇を監督の作品に使ってもらいたかったけど1日しか時間がとれないんですよ”とか言うんです。そこをすかさず“じゃ1日で!”って(笑)。そうやってでも力のある売れてる俳優で固める。で、その中にそれほど売れてなくても面白い人たちを入れてアクセントをつける。結果的に互いに輝かせ合うんです。なんだかんだいっても力のある無しは仕事と比例していますよね。名前が売れている人はやはり能力を伴っている人が多い。世渡り上手な役者とかスタッフってあまりいないですからね。あいつ人付き合いウマいから仕事が途切れないんだよね、という人は少ない。だから、本心では嫌いだけど仕事ができるから一緒にやってる人もけっこういます(笑)」

 役者たちに対しても同様だという。

「現場では、何本一緒にやろうとスタッフも役者に対しても基本はさん付けで呼びますね。伊藤さん、武井さん、と。なぜか山田孝之だけは現場外だと“山田君”だけど(笑)。基本的に、どの役者たちに対しても最初に会った時と距離感がほとんど変わってない。以前に一緒にやった役者が、売れなくなっていても“いい役者だったから使いたい”みたいなこともしないですね。自分の意志が逆に不純に思えてしまうから。その人が絶対に作品にプラスになると確信できれば別ですよ。原作者も絶対に納得させられるとね。でも僕はそういうのは運命だと思うんです。伊藤さんがいま小吉を演じたことは伊藤さんが生まれる前から決まってたことなんです、きっとね。一つの役と役者との出会いは、すべて運命づけられたものだと思うんですよ。僕の意志を絶対的に反映させると、そういうものを削いでしまう気がするんです」

 運命が定めたものなのか、三池作品では主役級の俳優が意外な役どころで登場することも多い。

「自分が俳優としての彼らに何か言えることがあるとすると“主役ばっかじゃつまらないでしょ”ということですね。実際、僕と一緒にやったことのある役者さんは、主役だけじゃなくおもしろい脇役をやっている人が多いんですよ。主役とは、多かれ少なかれ求められるイメージに追われてしまうもの。多少個性に違いはあっても、最終的に観客の共感を得る核になるという点では同じです。主役ばかりやっていると観客を突き放す人間を演じられなくなってしまう。それは、俳優にとってはけっこうストレスがたまると思うんですよね。主役は主役でやるとしても、脇役もやることで改めて役者の面白さ、楽しみを見つけられる人は多いと思います。僕の映画では役者のそういう部分も尊重してあげたい。ひと昔前は主役俳優、脇役俳優の序列が決まっていたから主役しかやらない人も多かったですよね。以前、Vシネで長門裕之さんとご一緒したときに長門さんがポロッとね、本音だろうと思うんだけど “もっといろいろな役をやっていればよかった”と仰ったんですよ。長門さんはずっとスター俳優で50代のころは大御所だった。そうなると気軽に脇役というわけにはいかない。やはり俳優にとって無責任に暴れることができるって楽しいと思いますよ(笑)」

 三池監督にとって映画とは“計算して作るもの”ではなく“生き物のように生まれるもの”。三池組の現場に立つことは、俳優たちにとってもスリリングでエキサイティングな大冒険に違いない。案外、火星でテラフォーマー退治する心境と、そう変わらないものなのかも?(THL・秋吉布由子)

©貴家悠・橘賢一/集英社 ©2016 映画「テラフォーマーズ」製作委員会
『テラフォーマーズ』
監督:三池崇史 出演:伊藤英明、武井咲、山下智久、山田孝之、小栗旬他/1時間49分/ワーナー・ブラザース映画配給/4月29日(金・祝)より全国公開 www.terraformars-movie.jp