渋川清彦 映画『下衆の愛』で下衆すぎる映画監督を演じる
“下衆”ばやりの昨今、登場人物がすべて“下衆”という映画『下衆の愛』が大好評公開中。“下衆”ぞろいの出演者の中でも最高に“下衆”なパラサイトニートの映画監督を演じた主演の渋川清彦が作品の魅力と裏話を語る。
撮影・蔦野裕
「下衆という言葉のブームに乗っかったみたいですが、撮影は1年前、企画自体はそのさらに前からなので、全くの偶然です。今回のこの作品に関しては偶然の一致が多いんです」と語る主演の渋川清彦。

「4月1日には、石井岳龍監督の『蜜のあわれ』が、2日には『下衆の愛』、さらに29日には三池崇史監督の『テラフォーマーズ』が公開されます。だから舞台挨拶が続いちゃって…」と作品の公開時期が重なったことに触れたが、さらに、4月スタートの月9『ラブソング』(フジテレビ系)にレギュラーで出演するなどテレビでの露出も。今いろいろな監督に使ってみたい俳優の一人と言われている。『下衆の愛』の内田英治監督も渋川にあてて脚本を書いた。

「普段からあまり役を作り込んで撮影に挑むことはあまりありませんが、今回は自分のことを知っている監督があて書きっぽく書いてくれた部分が多かったので、セリフに乗っかって芝居をしたという感じです。ですから、やりやすかったのはやりやすかったですね。そのままだったので。でも下衆ブームは誰も予想していなかったから、監督やプロデューサーは、心の中でラッキーって言っていると思いますよ(笑)」

 役作りは作り込み過ぎないタイプ

「もちろん、役作りをちゃんとする時もありますが、過剰にし過ぎない。人によっては台本の余白の空いているところにびっちりと書き込んでいる人もいますが、俺は結構まっさらだったりするし。たまにちょいちょいメモ書きみたいなのはしますけど…。考え出すと役作りってなんなんだろうなって思っちゃうんですよね。例えば“笑う”って台本に書いていて、笑い方を何十通りも用意していく人もいると思いますが、俺は現場に行って、その空気感とか、共演者とのやり取りの中で作っていうタイプ。天才肌? 全然違います。基本的に飽きっぽくて面倒くさがりなんでしょうね(笑)」

 渋川演じる映画監督のテツオは、過去映画祭で1度だけ受賞経験があるのが支え。

「まあ、一番下衆ですよね(笑)。でもテツオは映画にかける情熱はある。それは他の役もそう。古館(寛治)さんや木下(ほうか)さんが演じた監督やプロデューサーも下衆だけど、それだけじゃない。作品自体は単純にエンターテインメントで、インディペンデント映画の内側を描いていますが、業界の裏側はこうなっているという暴露というわけではないです。ハリウッド超大作映画などのシネコンだけじゃなく、単館といわれている映画館にかかる作品にも目が向いてくれたらいいなと。最近では、『百円の恋』という映画が、口コミでじわじわ人気が出て、主演の(安藤)サクラさんが日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞を、足立(紳)さんが最優秀脚本賞を取った。それはすごく喜ばしいことで、そういうことがありますから、映画が好きな方は選択肢のひとつとして、大作以外の映画にも目を向けてもらえればと思います」

 撮影の裏側を聞くと…。

「撮影はちょうど1年前で、すごい寒い時期だったんです。なのに、最後のシーンは夏の設定だったから、衣装が半袖でめちゃくちゃ寒かった(笑)。だけどよく見ると周りの通行人がダウンとか、すごく温かそうな格好をしている。その間違い探しは、いっぱい見つけられると思います(笑)。あとは響子を演じた内田(慈)さんとのシーンで、ビンタをされるシーンがあるんですけど、これはすごかった。今まで受けたビンタの中で最強でした(笑)。痛いというよりびっくりして。プライベートも含め、これまで受けてきたビンタ史上最も強烈なビンタでしたね。腰も入っていたし、きれいに入った(笑)。音も本物なので、ご注目いただければ。でもそれは内田さんが一発で決めようとしてやってくれたことで、実際いい画になっています。まさに、内田さんのすごさが詰まった渾身の一打でした」

 今回、巻頭インタビューに登場の三池監督の『テラフォーマーズ』にも出演。

「三池さんって、垣根を越えていろいろなことをやっていますよね。『テラフォーマーズ』のような大きな作品から、その前に僕も出演させてもらった『極道大戦争』のようなものまで。そこでは三池さんが自由に遊んでましたから。生き生きして、すごく楽しそうに遊んでた(笑)。だから現場もすごく明るくて、いい雰囲気でした。そんなふうに全部楽しんでできる人なので、すごい方だなって思いますね。『テラフォーマーズ』でも、三池さんが俺に“ちょっと火星でタバコ吸ってみようか”って(笑)。台本にはなかったんですけど、現場でいきなり言ってきて、“多分、火星でタバコ吸ったのって渋川君だけだよ”っていじってくれました」

 タバコといえば、『下衆の愛』の中でも常にタバコを手放さないが。

「あえて吸っている部分もありますよね。いろいろな場所で吸えなくなっているだけではなく、最近はテレビのドラマとかでもタバコのシーンがなくなってきている。体には良くないかもしれないけど、タバコっていい文化だと思うんです。息抜きという意味でも、映画の小道具という意味でも。昔の話ですけど、松田優作さんは、役によってタバコも変えてたっていいますから。職業やその人の成り立ちがタバコで分かる、その人の背景を説明するのに、すごくしゃれたアイテムだと思います。そういうのをなくすのは惜しいと思うので、あえて時代に逆行しているところはありますね」

 映画の役ではぴりぴりした雰囲気だったが、本人はいたって飄々とした感じ。

「これといった趣味はないけど…お風呂は好きですね。温泉とか、息抜きになります。仕事の合間にも行きますし、終わった後も。あとはロケで知らない町に行った時に、ぶらぶらと歩いて公衆浴場とか地元の人が行くような店を探します。それが定食屋なら、その店でビールでも飲みながらつまむとか。この前、山梨県の石和温泉ですごいいいところを見つけたんです。放送は終わりましたが、WOWOWの『この街の命に』という緒方明監督が撮ったドラマのロケ中に見つけた温泉の銭湯と食堂がついているところがすごく安くて最高でした。仕事が終わるとほぼ毎日そこに通って、風呂上がりにちょっと一杯。あれが至福の時っていうんでしょうね(笑)」
(本紙・水野陽子)
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『下衆の愛』テアトル新宿ほか全国順次公開中
【公式サイト】http://www.gesunoai.com【配給】エレファントハウス