赤坂の街を華やかに彩る「赤坂大歌舞伎」、今年は新作に初挑戦!

 2008年9月に十八代目中村勘三郎の“芸能の街・赤坂で歌舞伎を!”という思いから始まった「赤坂大歌舞伎」。これまで古典歌舞伎で観客を魅了、赤坂の街を盛り上げてきた。2013年からは、勘三郎の意志を継ぎ、中村勘九郎、中村七之助が中心となり赤坂大歌舞伎を継承。5回目となる今年、人気の劇作家・蓬莱竜太作・演出の新作歌舞伎『夢幻恋双紙 赤目の転生』を上演。歌舞伎ファンだけではなく、演劇ファンからも注目を集めている。

撮影・辰根東醐 スタイリスト(勘九郎・七之助)・寺田邦子/ヘアメイク(勘九郎・七之助)・宮藤 誠(Feliz Hair)/勘九郎衣装:ネクタイ 1万円、スーツ 6万9000円、シャツ 1万8000円/七之助衣装:ネクタイ 1万円、スーツ 参考商品、シャツ 1万8000円(いずれもTAKEO KIKUCHI(TEL:03-6324-2642)

「今後の俳優人生に影響を与える様な
今までにない歌舞伎作品になる予感がする」

 すっかり赤坂の街に定着した「赤坂大歌舞伎」。第5弾となる今年は、初の新作。しかも小劇場などで活躍中の新進気鋭の劇作家・蓬莱竜太の書き下ろしというから、話題にならないはずがない。最初のオファーは飲み屋だったとか。

勘九郎(以下、勘)「最初ではなく、ずっと飲み屋話です(笑)。蓬莱さんが歌舞伎を見に来て下さったり、僕が蓬莱さんの芝居を見に行ったりした後に飲みに行くことが何度かありまして、その時にぜひいつか歌舞伎を書いてほしいといつも話していました。というのは、うちの父が生前、野田(秀樹)さんや(渡辺)えりさん、あとちょっと上ではありますが、串田(和美)さんと一緒に仕事をして、多くの作品を作ったんです。その時に、“生きている同世代の作家と出会ったことを俺は誇りに思う。お前たちも、そんな人を見つけられたらいいね”ということをよく言っていた。そんな事もあり、いつか蓬莱さんに新作歌舞伎を書いてほしいとずっと思っていたんです」

蓬莱(以下、蓬)「今、こうしてお話をしていても、大変なところに来てしまったなという思いでいっぱいです(笑)。普段小さな劇場でこまごまと芝居を手作りで作っている身としては、まさか歌舞伎を書くことになるとは思ってもみなかった。これまでも勘九郎さんから、新作歌舞伎を書いてほしいと、飲み屋で言われてきましたが、まさか本気だったとは(笑)。その時、簡単にいいよ、いいよって言っていたことを今、後悔しています(笑)。しかし、その反面、とても名誉な仕事だと思っておりますし、自分の持てるすべての力を発揮して、勘九郎さん、七之助さんにぶつかっていきたいと思っています」

七之助(以下、七)「赤坂大歌舞伎の打ち上げの席で、次は新作をやりたいねという話は冗談半分、本気半分で言っていたんです。それで5回目の今年の話になった時、またそんな話をしていたら兄がすぐ動いて、今回の舞台が実現することになった。なんでも言ってみるものだなと思いました(笑)」

勘「今年も赤坂大歌舞伎ができるという喜びにプラスして、今回は蓬莱さんに新作を書いていただけるということで、喜びのほうが大きいです。前回(2015年)の公演後にお願いしたんですけど、それって企画としては遅いんですよ。普通は2年前にお願いしてやっていただくなんて無理なんですけど、本当に快く(笑)引き受けて下さって、実現にこぎつけることができ、とても感謝しています」

蓬「プレッシャーです(笑)。僕の普段の芝居は歌舞伎からかなり縁遠いと勝手にイメージを持っていましたし、野田さんとかそういう偉い方とはまた違うのに…とは思いましたが、それが逆にどう融合するのかなって。それが楽しみで、チャレンジしたいなって思ったんですよね」

七「脚本を読ませていただきましたが、非常に素晴らしいものなので、逆にこちらが稽古でいいものを作らなければという気持ちです。心構えは古典も新作も変わりないんですけど、新作のすごいところは稽古でどんどん楽しさや快感が生み出されるところ。それは新作ならではだと思います。とにかく、役者が一生懸命にやらないとこの作品をダメにしてしまうというぐらい、役者が頑張らないといけない作品なので非常に楽しみですし、同じ方向を向いて一生懸命稽古をしたいと思います」

蓬「自分はただただ戦力になりたいと思いますし、ある意味よく知らない世界に入り込んでいくような立場なので、そこで何を得られるのか僕自身も楽しみです。逆に演劇ばかりやってきたから考えられることもある。そういう融合やセッションがいい形になればいいと思うし、いい形にするのが仕事だと思っています。勘九郎さんも歌舞伎を意識して書かなくていいし、好きに書いて下さいとおっしゃって下さった。あくまでも自由にという事でしたので、普段自分がやっている作品と同じく、自分の中にある人間に対する興味や、テーマ性をそのまま歌舞伎の世界で踏襲してみようと思いました」

撮影・辰根東醐

 今回の作品では、勘九郎が何度も生まれ変わる男を演じる。
蓬「勘九郎さん演じる太郎が、七之助さん演じる歌という女性を愛し、夫婦となり歌を幸せにしようと頑張るんですが、それがうまくいかず転生し、また子どもの頃から太郎を始めるんです。その時には1回目の失敗を記憶しているので、次は違う太郎となり、歌を幸せにしようとするが、これもうまくいかない。結局違う人間になっても、また違う問題が起きたり、そこにまつわる人間関係が破綻したりする中で起こる人間ドラマです。着想の原点には、勘九郎さんのいろんな顔を皆さんに見てほしいというところもあります。一役はもったいないけど、別の人物ではなく、同じ人物を何回かのパターンで見せていくというところに、一粒で何度もおいしいみたいな(笑)。それぞれの太郎に対して七之助さんがどう接していくのかというところも歌舞伎ファンが一番見たいところじゃないでしょうか」

勘「脚本を読んで大変だろうなと思いました。違う人物で何役というわけではないので、とても難しいでしょうね。同じ人物でいろいろな顔を見せるので、単に声色を変えてみてというのではなく、きちんとそれぞれの人間を作り上げていかなければならない。ただ、転生していく中で、どの太郎にも自分がいるんですよ。それは、男性、女性を問わずお客様にも感じていただけると思います。恋をしたことがない人はいないと思うので、誰しもが思い当たる節があると思う。それを言ったらダメになるNGワードとか、日常の恐怖が散りばめられている(笑)。読んでいてもグサグサきますし、恋愛のあるあるも多いけど、それだけではなく、人を愛する苦しみなどが伝わればと思います」

七「太郎は人格がいろいろ変わりますが、歌を愛するというか幸せにするという一本の芯がある。男性はそれぞれの太郎を誰でも持っているけど、それを自分の中の理性で制御して生きている。これを表現する兄は大変だなと(笑)。そんな太郎に愛される歌は魅力的な女性であることは間違いないんですけど、かといってすべてがパーフェクトな女性ではない。ちょっと欠落しているところもあり、陰があるんですけど、そこが魅力になっている。太郎とうまくいかない理由の一つには、太郎自身も悪いところは多々あるんですけど、歌も悪いんですよね。少なくともいい人ではない。決して悲劇のヒロインではないけど、幸せが何かを分かっているようで分かっていないところがつかみどころがなく、魅力になっているのだと思います。僕自身、歌みたいな女性が現れたら、引っかかるかもしれないですね(笑)」

撮影・辰根東醐

 テーマは恋愛?
勘「恋の話ではありますが、恋する難しさと、男女なら経験したことがある日常のスリリングな会話を楽しんでいただければ。さすが蓬莱さんというような、一度は聞いたことがあるセリフとか。時代的には江戸ですが、人間の感情とか男女関係の気持ちは変わらないということを、改めて蓬莱さんが教えてくれているような作品ですね。蓬莱さんが持っている言葉のセンスとか、普段見ていたお芝居で繰り広げられているような会話もさすがですし、その辺りも存分に楽しめると思います。あと、いつも見ていて思うんですけど、変な女性を描くのが素晴らしい(笑)。不思議というか、屈折したというか…。これは七之助がやる歌という人物の魅力にもつながっているんじゃないでしょうか」

七「僕もそう思います。セリフも素敵ですし、内容もすごい。泣かせるとかそういうことではなく、自然と胸が痛くなってくる感じ。日常誰にでも起こりうることで、痛みだったり、悲しみだったりがひしひしと伝わってくる。そういう現実や感情が詰まっている作品だと思いますね。よく今までにない作品とかっていいますが、これは本当に今までにない。今までにない新作、今までにない歌舞伎です。しかし人間の根本に関することなので、歌舞伎としてやるべきことなんですよね」

蓬「恋愛もひとつの要素ではありますが、それだけではない。友達が変われば人生ってこんなに変わるんだっていう怖さなど、人が自分の人生の与える影響の大きさとか、同じ友達でも質が違うとこんなにもいろんな人の人生に影響してしまうとか、人間ドラマ全般です。それぞれが太郎や歌をめぐって翻弄されるんですけど、パラレルワールドみたいなもので、人格が違えばこんなにも違う人生になるのかと。そんな人間ドラマが大きな主軸で、恋愛を要素として、ダイナミックな芝居になればと思っています」

撮影・辰根東醐

 十八代目勘三郎が今回の試みを見たらどう思うのだろうか。
七「まず、台本をみるでしょうね。すごく新しいことに興味のある人だったので、台本を見て純粋に“大変だな。これどうやるの?”って。自分の中で興奮して“俺もやりたい”って言いながら“これ、どうやるんだろう”って真剣に考えると思います。いい作品だったら手放しで喜んでくれると思いますし、常に父に喜んでもらえるような芝居を作っていきたいと思っていますね。それは今回の舞台に限らず、すべての芝居についてですけど、常に父の事は意識はしています」

勘「先ほども言いましたが、同世代の作家さんと出会って仕事をできたことを誇りに思っていた父ですから、良かったと思ってくれているんじゃないでしょうか。“お前らもいい作家さんと出会えたらいいね”と言っていたのは、こういう事だったんだなって今、思っています。今度の赤坂大歌舞伎は、歌舞伎界だけではなく、演劇界にも衝撃を巻き起こす事件だと思っています。必死にやりますので、多くの皆さんに劇場に足をお運びいただければこんなうれしいことはありません」

七「僕たち2人を含め、今回の作品に出演する役者にとって、今後の俳優人生に大きな影響を与える作品になると確信しています。それくらいすごい舞台になりますので、生で今度の赤坂大歌舞伎を体験して下さい」(THL・水野陽子)

赤坂大歌舞伎 新作歌舞伎「夢幻恋双紙 赤目の転生」
【出演】中村勘九郎、中村七之助、市川猿弥、中村鶴松、中村いてう、中村亀鶴、片岡亀蔵【作・演出】蓬莱竜太【日程】4月6日(木)〜25日(火)【会場】TBS赤坂ACTシアター(赤坂)【料金】S席 1万3000円、A席 8000円、B席 4000円(全席指定・税込)【問い合わせ】サンライズプロモーション東京( TEL:0570-00-3337 10〜18時)