多国籍軍リビア空爆 カダフィ退陣後の目標を欠く

 仏英米主導の多国籍軍はリビア空爆で飛行禁止区域の設定に成功しつつあるものの、カダフィ政権打倒を目指すのか否かをめぐり逡巡している。最高指導者カダフィ大佐を殺害した場合、アラブ諸国の離反を招き、軍事介入の正当性が揺らぎかねないからだ。反体制派は軍事力などでカダフィ大佐側に劣っており、飛行禁止区域を実施しても膠着状態が数年続くとの見方が出ている。

 アフガニスタン、イラク復興にかかわり、キャメロン英首相の政策チームに助言しているシンクタンク、欧州外交問題評議会のダニエル・コースキ氏は「多国籍軍はカダフィ政権を打倒したいのか、反体制派を支援するのか、明確な目標を欠いている」と指摘する。

 英国はカダフィ大佐の拠点で住居がある首都トリポリの建物を攻撃。フォックス英国防相は「大佐への攻撃も潜在的な可能性」と述べたが、リチャード英国防参謀長は「あり得ない」と否定した。クリントン米国務長官も「大佐側からの寝返りが増えるのを望む」とだけ述べた。空爆で反体制派の虐殺という人道危機を回避し、中東・アフリカ諸国の指導者に反政府デモへの武力行使は許されないという強いメッセージを送る初期の目的を達し、大佐の即時退陣を求めている。しかし、反体制派には自力でカダフィ政権を倒して新政府を樹立する能力はないとの見方が広がっている。

アラブ各国に温度差

 アラブ連盟(本部・カイロ)の加盟国間で、空爆の是非をめぐり温度差が生じている。そこには、チュニジア政変を発端とした中東各国に広がる民主化運動の流れを大きく刺激したくないという政府側の思惑が見え隠れしている。

 エジプト出身のアラブ連盟事務局長アムル・ムーサ氏は「求めているのは飛行禁止区域だ。空爆ではない」と不快感を示した。エジプトは、カダフィ氏が政権を維持した場合も想定してリビアとの関係悪化を最低限に食い止めようとしているほか、アラブ社会に根強い反米欧感情へも考慮している。

 一方、多国籍軍へはカタールに続き、アラブ首長国連邦の参加も明らかになった。これらの湾岸諸国では国民の間に民主化を求める声が強まっている。両国には、反体制派に同情的だとのスタンスを示したいとの思惑もありそうだ。