勘三郎さん逝く 勘九郎「一番悔しいのは父」

 歌舞伎俳優の中村勘三郎(本名・波野哲明=なみの・のりあき)さんが5日午前2時33分、急性呼吸窮迫(きゅうはく)症候群のため都内の病院で死去した。57歳だった。

 古典から新作まで広い芸歴で歌舞伎界に新風を吹き込み、テレビや映画、時代劇などで人気を集めた勘三郎さん。今年6月に食道がんであることを公表し、7月に摘出手術を受け成功。術後経過も順調で病棟内を歩けるほど回復していたという。だが、抗がん剤治療などで免疫力が低下し肺炎を発症、呼吸不全が進行する重篤な事態に陥っていた。

 勘三郎さんの長男の中村勘九郎、その弟の七之助は5日、京都・南座で行われていた「吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎」に出演。勘九郎は、「父が46年間名乗り、戦い! 魂込めたる勘九郎の名跡を、6代目として襲名させていただくことと相成りました」と、自身の襲名披露口上では気丈に精進を誓ったが、「何も(親孝行が)できてません。悔しゅうございます。もっと一緒に芝居をしたかった。しかし一番悔しいのは父。大好きな芝居ができないんですから」。さらに、「前へ行くしかありません。進まないと怒られる。お客さんを少しでも笑顔に、楽しんでもらえるよう、いいお芝居を作り上げると約束します」と涙ながらに誓った。七之助も「去年に祖父(人間国宝の中村芝翫)、今年に父、偉大な2人を亡くし本当にどうしていいか分かりません。でも父に言われた『お前が兄を支えろよ』…この言葉を胸に芸道に精進いたします。私たち兄弟を見捨てないでください」と、精進を誓った。芝居にかけた父の意志を継ぎ、悲しみのなか舞台に立った2人に大きく温かい拍手が送られた。

 この日、都内の自宅には、歌舞伎俳優の市川海老蔵や中村獅童ら多くが弔問に訪れた。葬儀・告別式は11日に近親者のみの密葬で行う。本葬は後日行われる。
大竹しのぶ、勘三郎さん「すべての人に愛された」

 歌舞伎俳優、中村勘三郎さんの訃報は、芸能界にも大きな衝撃を与えた。35年の親交がある女優、大竹しのぶは、都内で行われた主演舞台『ピアフ』(来年1月16日〜2月13日、日比谷シアタークリエ)の製作発表で最期を看取ったと明かし、「まだ実感がないです」と涙目に。憔悴しきった表情で「人間的にあんなにチャーミングな人はいない。とてつもなく大きな愛を持った人。すべての人に愛された」と振り返った。

 最期の様子を聞かれると「私がお話ししていいものか…」と言葉を控えたが、「闘病生活の中、彼はお医者様にも本当に愛されていました。体を動かすことも、自由にしゃべることもできないにもかかわらず、すべての人に愛され、治ってほしいと思われていた」としみじみ。「後にも先にもあんな人はいない。会った人は絶対好きになる。彼の魅力? ひと言では言えません。いないと困る」と目に涙をためた。