初舞台はセミ役!? 松山ケンイチ インタビュー

初舞台で演じるのは… “セミの青年”!! 舞台『遠い夏のゴッホ』

NHK『平清盛』の主演を演じ切った松山ケンイチが、新たに選んだ役どころは“セミ”! 気鋭の作・演出家、西田シャトナーとタッグを組んで挑む、初舞台への思いを語る。

 NHK大河ドラマ『平清盛』の主演を見事に務め上げ、2012年を走りきった松山ケンイチ。
「今回、1年間同じ役をやり続けるということと、一人の人間の一生を演じるということを初めてやりましたけど、本当にいい勉強になったと思ってます。実際の年より下だったり上だったりしたときに、どんな表現が必要になってくるのかなど、やりながらいろいろな課題も見えてきましたし。まだまだ改善されるべきところはたくさんあったと思うし、難しい部分もありましたけど、本当に勉強になった一年でした」
 そんな彼が次なる舞台に選んだのは演劇作品。しかも“セミ”の役!
「大河の撮影が終わった後たまたま、この舞台のお話を頂いたんです。西田さんと話している中で、セミのラブストーリーという話が出てきて。人間ではないものを演じるというのも、1年間同じ人間を演じるのと同じくらい貴重な経験だと思ったので、ぜひやってみたいと思いました」
 松山演じるセミの青年・ゴッホは、同じ年に生まれたベアトリーチェと羽化したら恋人同士になる約束をするが、ゴッホはひとり先に地上へ出てしまう。ベアトリーチェと再会するため来年の夏まで生き延びようとするゴッホの奮闘を描く物語。
「本作は人間が出てこない、生き物の世界の話になっているんですが、その生き物たちの死生観が人間とまったく違っているんですよね。物語に登場する虫たちは時が経つと死んでいくんですけど、死んでも誰かのエサになって、自分を食べた虫もまた死んで誰かの糧になる、ということを理解しているんです。人間的な死に対する恐怖というものが無くて、そのサイクルの中で生きている。それが潔くていいな、と。人間には欲望があるから、なんとか生きようとしますよね。人とのつながりもあって、死に別れたくないと思う。それはそれで、そういう欲というものは美しいと思うんですよ。僕が演じるゴッホだけがそんな人間的な欲を持って、1年間生き延びようとするんです。この話では、生き物の世界にそういう人間っぽさがあったりもして、ちょっと変わっているんですけど、その対比が面白いなと思いました。ある意味人間と同じような思いを抱えている主人公の蝉がいて、その周りにまったく違う価値観の生き物たちが共存している。人間とは違うさまざまな価値観をゴッホを通して見せることができると思うんですよね。それが一番面白いな、と思いました」
 具体的に松山が“セミ”をどう演じるのかも、気になるところ。
「セミの役といっても、擬態表現にはならないと思います。手で羽を表現するとか鳴くとか、どうやらそういうことにはならないようです。人間が普通に振る舞っている感じなんですけど、人間とまったく違う価値観を見せようとしているんです。なので役作りといっても、セミのことは勉強しないようにしようと思っています(笑)。腹の部分で音を共鳴させるとか、細かく勉強していくと必ず演技のときに意識してしまい、そちらに向かうと思うので」
 独特のパフォーマンス演出で注目を集める西田の新作としても期待大。
「セミが脱皮する瞬間を人間のパフォーマンスで表現する美しさが西田さんの演出には、あるんですよね。今回も、そういう西田さんならではのパフォーマンスが大きな要素になると思います。人間以外のいろんな表現を、CGなどではなく人の体で表現するというのも舞台ならでは、ですしね。また西田さんの作品は舞台がすごく立体的に感じられるんですよ。横、縦、斜め、距離感もどんどん変えて360度を感じさせてくれるのが、他の舞台にはない面白さだなと思います」
 本作をきっかけにセミのイメージが少し変わったとか。
「僕ら撮影している側の人間からすると、セミはロケの大敵なんですよ。冬のシーンを撮影していても、セミの音が入ってしまうと結局アフレコにしないといけなくなるので、セミが鳴きやむのを待ったりとか。でもそれは僕らの都合ですからね。セミはセミの生き方があって、他の生き物たちと同じく、自分の寿命をまっとうしようとしているわけですからね。そんなことを考えたりして、セミのことを簡単に“飛んでいけ”とか思えなくなりました(笑)」
 2013年も、本作をはじめ三谷幸喜監督最新作『清須会議』など話題作が続く松山。「来年は第2子も生まれるのでプライベートを充実させたいと思っているんですけど…」と言うが多忙な日々は来年も続きそうだ。そんな彼を癒してくれるのが、都内のとあるスポットだという。
「代々木公園なんです。スタジオの中でずっと撮影していると、たまに外の空気を吸いたくなるんですよね。家族で代々木公園に行って、敷物を敷いて寝転がったりするときもあります。ただ地面に寝転がってるだけなのに、かなり癒されるんですよね。ここには定期的に行ってます。こんなふうに、少しでも自然に触れることは大事にしたいなと思ってますね。夕日を眺めたり公園で寝転がって空を眺めるだけでも、自分の中から悪いものが出ていく感じもするし。この間、山登りをしたんですけど、ただ登ることに集中して最後のほうは疲れてあれこれ考える余裕もなくなって。自分が考えてたことなんて、山に登ったらこんなに簡単に消えちゃうんだな、と。自然を相手にすると、僕は大したこと考えてるわけじゃないな、と思いますよね(笑)」
 その“無心”が、俳優・松山ケンイチの強さなのかもしれない。そんな松山が初舞台に選んだだけに、要注目の作品だ。
(本紙・秋吉布由子)

『遠い夏のゴッホ』
作・演出:西田シャトナー 出演:松山ケンイチ、美波、筒井道隆、吉沢悠他 企画制作:ホリプロ 東京公演:2013年2月3日(日)〜24日(日)会場:赤坂ACTシアター 料金(全席指定・税込):S席9800円 A席7000円 ローソンチケット  http://l-tike.com/(Lコード:30077)他にて発売中