SPECIAL INTERVIEW 岩井秀人

岩松了・作『月光のつゝしみ』を初演出
1994年、「竹中直人の会」で桃井かおり、竹中直人主演で初演された岩松了の作品『月光のつゝしみ』を岩井秀人が演出、KAAT神奈川芸術劇場で上演する。2002年に、岩松了の代役として稽古に参加、劇作家として影響を受けたという岩井がその魅力を語る。また、11月にDVDリリースされる『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』の知られざる裏話も。
 今年、第57回岸田國士戯曲賞を受賞した岩井秀人は、演出家・俳優としても活躍中だ。そんな岩井が、演劇をやる原点と語る岩松了の作品『月光のつゝしみ』を初演出、話題となっている。

「この作品は、岩松さん自身が2回再演したことがあって、その2回目に僕がスタンドインと言って、岩松さんの代役として稽古に参加させていただきました。岩松さんの作品に出会うまで、演劇ってなんか敷居高いイメージがあったし、全然日常じゃないなと思っていた。でも岩松さんの作品には、日常の中にすごい文学性とか人間の業のようなものが隠れていて、それを大げさにではなく、本当に日常の風景の中から見つけさせようとするやり方をしていたので衝撃を受けました。それまでの演劇のオーバーなセリフではなく、普段のしゃべり言葉で芝居をしていた。そんな芝居に初めて触れて、こういうのこそが、やる意味があるんじゃないかと思ったんです。例えば“好きだ”って言うんじゃなくて、それを言えないことにこそドラマがあるというか。僕が演劇の大学に行っていた時もそういう古臭いことばかりやらされて、結局演劇が大嫌いになって卒業したんです(笑)。まあ、大嫌いになったおかげで、岩松さんの作品に出会った時にコレだ!って思えたとも言えるし、自分で台本を書くきっかけにもなったんですが。そして、それをきっかけに、自分は演劇をやってもいいんだなというふうにも思えるようになったんです。ですから僕の書くものは、岩松さんの作品にすごく影響を受けていますし、多くはコンビニで店員さんと喧嘩したとか、家族とうまくいかない話とか、そんな話ばっかりです」

 家族の話は岩井作品の中でもよくテーマとして扱われている。演劇好きには有名な話だが、その裏には長く引きこもりだった経験が影響しているとか。

「岩松さんの作品に影響を受けて最初に書いたのが、自分が16歳から20歳まで4年間引きこもっていた時の話(「ヒッキー・カンクーントルネード」)なんです。引きこもりだけどプロレスラーになりたい時期があって(笑)。それをちょっとデフォルメして書いたものが評価してもらえたこともあって、私小説ならぬ私戯曲とういか、自分の身の周りに起きたことを書くようになりました」

 4年間の引きこもりから外の世界に出たきっかけはプロレスと映画。

「引きこもり中は、WOWOWで、映画と前田日明がいたリングスの番組ばかり見ていました。そこで前田日明がやられているのを見て、なんとかしないといけないと思って、夜中に小金井公園で木にサンドバッグを結んで蹴ったりしていました(笑)。あとは、浴びるほど映画を見ていたので、映画に関わることが何かできないかって思ったのが、外に出るきっかけになりました」
 そんな引きこもりだった岩井が、演劇をスタートした原点だという岩松作品をこのタイミングでやろうと思ったのはなぜか。
「いつかはやりたいとずっと思っていました。それが今になったのは、いろいろなタイミングもありますが、これをやっても、今自分がやっていることと、そんなにブレないですみそうだなっていうのがあります。もう少し早いタイミングだと、僕の中で岩松さんは圧倒的に正しかったので、岩松さんの手法をそのままやるような感覚だったと思う。でも自分の劇団で10年ほどやってきたことで発見できた、自分たちだけのものもあると思うので冷静にできるんじゃないかと…。あとは岩松さんの還暦祝いですね(笑)」

 2002年の初演時は、桃井かおりと竹中直人という個性的な2人が演じているが。

「もともと岩松さんが桃井さんにあて書きした作品なので、桃井さんが喋って面白いのは当然なんです。でも岩松さんの台本は、日常に生きている人たちが陥るちょっとした出来事を扱っているので、僕が今回やることは普通の人の生活の中にも、ものすごい文学性が潜んでいるということ。桃井さんがやるともちろん面白いんですが、それは桃井かおりを見ることで、自分を見ることにはならない。僕はすぐれた演劇って、見た人が演劇としてどうとか、文学としてどうとかっていう評価じゃなくて、自分のことを考えられる、自分と世界のことを考えられることだと思っているので、今回はあえていわゆる有名人はキャスティングしませんでした」

 舞台以外にも活躍の場を広げている岩井。出演していたテレビ東京のバラエティー番組『ゴッドタン』の人気企画「キス我慢選手権」を映画化した『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』のDVDも11月に発売される。

「あれは、よく聞かれるんですけど、主役の劇団ひとりさんは、本当にストーリーを知らないんです。だからリハーサルはひとりさん抜きで、作家さん4人とプロデューサーと出演者で、いろんな展開を想定してやりました。僕はストーリーを戻す役というか、ひとりさんの軌道を修正しながら、台本にあるゴールに導く役でしたら、今までやったことがある俳優の仕事とは全然違って大変でした。もともとテレビ版のこの企画に呼ばれた時に即興劇の難しさは知っていたので、無理だから断ろうと思ったんですけど、劇団ひとりさんにもすごく興味があったので引き受けました。結局、出演してそれが映画にもなったんですが、映画になると話は別で、話が大きすぎるし、ワンシーンがウルトラ長い(笑)。ひとりさんがめちゃくちゃなこと言い出したらとりあえず聞いて、最終的にクライマックスへ連れていけばいいんだって思いながらも、ずっと頭が痛かった(笑)。でも、映画は引きこもりから外に出たきっかけになったものでもありますし、あんな緊張感のある映画に出演できてうれしかった。映画監督? やってみたいですね。でも映画はお金かかりますからね…誰かお金下さい(笑)」
(本紙・水野陽子)
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ハイバイ『月光のつゝしみ』
【日程】9月20日(金)〜26日(木)【会場】KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ【チケット】ローソンチケット、チケットぴあ、チケットかながわで発売中!【公式WEBサイト】http://hi-bye.nethttp://hi-bye.net