尾野真千子 『サザエさん』の生みの親・長谷川町子さんを演じる!

「家族パワーって本当にすごい。どんなパワースポットや、マイナスイオンよりも!」
さまざまな作品を通じて輝きを放つ女優の尾野真千子。心に響く作品の数々とともに駆け抜けてきた2013年を締めくくりとなりそうなのが、サザエさん放送45周年記念『長谷川町子物語〜サザエさんが生まれた日〜』だ。老若男女が親しむ国民的アニメを生んだ長谷川町子を演じる。
「ありがたいです。今年も本当にいい作品に関わることができました」


 尾野真千子はしっとりとした口調で今年を振り返った。2013年は『最高の離婚』に始まり、森山未來との共演で話題を集めた『夫婦善哉』といったドラマ、さらに第66回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した『そして父になる』など多数の映画を届けてきた。


「出演を決めるとき、自分のなかではこれといって決めているものはないんですよ。作品全体として、テンポがよかったり、物語が楽しくて、笑えたり泣けたりとか、かな。台本を読んで自分自身がこれをやりたい!この女性を演じたい!っていうものをやるだけです。どんなちっちゃかろうがおっきかろうが、関係なくって。あえて言うなら、皆さんそうだと思いますけど、自分が納得しないものはやりたくないってことぐらいかな」


 中学校3年生のとき、河瀬直美監督の『萌の朱雀』でデビュー。高校を卒業後、女優として本格的な活動を始め、キャリアを重ねてきた。2011年のNHK連続テレビ小説『カーネーション』では、主人公を演じた。それとともに、お茶の間に尾野真千子の名前と顔も浸透。映画では主演やヒロインを担ってきた彼女だったが、これをきっかけにドラマにおいても主演女優のイメージが強くなった。


「主演とか主役っていう響き、……なんだか恥ずかしいんですよね(笑)。だから、あんまり考えないようにしています。主役だって思うと、どうしても気が張ってしまうし、周りの人にもいろいろ気を使うようになって、なんだか、自分じゃないようなのが出てきてしまう。だから、気にしないっ!ってやってます(笑)。芝居をしているときはその役を演じているんであって、主役をやってるなんて思わないし、ねぇ。だから、必要なときだけ主役と思えばいいのかなって思います」


『サザエさん』のような現場


 一番新しい主演作が、29日放送のサザエさん放送45周年記念『長谷川町子物語〜サザエさんが生まれた日〜』(フジテレビ系、午後9時)だ。サザエさんとカツオの元気なやりとりや、タラちゃんの転がるような声にほっこりした気持ちになるとともに、「あ〜、明日は学校だ」「明日から仕事か……」と、ちょっとだけ気が沈んだりする、国民的アニメ『サザエさん』の生みの親・長谷川町子さんを演じる。


「撮影、すごく楽しかったです。姉妹役の長谷川京子さんと木村文乃さんとは本当の姉妹みたいでしたね。私が木村さんとうるさくしてたりすると、長谷川さんがたしなめたりして、本当にお姉さんみたいで(笑)。お母さん役の松坂慶子さんも、こういうと失礼な言い方かもしれないけれど、本当にかわいくて! 私たちの想像するお母さんそのもので、愛せる母親でした。松坂さんに限らず、キャストもスタッフさんもみんなを愛せる現場で……本当に『サザエさん』のような現場でしたね」


『サザエさん』ができるまでを描く。長谷川町子さんは、若くして父を亡くし、母親の号令で上京。母や姉妹に背中を押され、人気漫画家の田河水泡のもとに押しかけて弟子入りする。やがて始まる戦争など、大きく時代が変わっていく中で、漫画家として身を立てていく。


「いろんなことがあった時代ですよね。でも、いろんなことを乗り越えて心の底から笑ってほしい、心の底から感じてほしいって、長谷川さんは『サザエさん』を書いた。亡くなられてもその想いが『サザエさん』を通じて生きている。そういうのってなかなかないですよね。この作品に携わって、私、なんだかもったいないことをしていたなと思いました。自分自身、そんなふうに『サザエさん』を見ていなかったから。毎週放送されていて、いつもそこにあるもの。流しながら見ていました。こういう思いがあって『サザエさん』ができている。それを感じながら見ていたら見方は変わっていたと思います。だから、ちょっと喝を入れられた感じもあります。今までね、この作品に込めた気持ちを伝えたい、分かってくれたらいいなって、私自身もいろんなドラマや映画を宣伝してきたけれど、『サザエさん』をただ笑って済ませていたわけですから」
家族パワーって本当にすごい


 演じるのはもちろん、長谷川町子さん。


「すてきな人です。私、『サザエさん』って長谷川さんをイメージしてできあがっているものだと思っていたんですけど、このドラマによると、長谷川さんのお姉さんがモデル。それに、父親がああ言った、母親がこう言った、姉がどうした、家族がこんなことをしてくれたってことが漫画に生かされていて……『サザエさん』って、いろんな人に支えられてできていたんだなあって。長谷川さんも自分が!というのではなく、家族を頼りにしていて、家族に支えられて漫画家をやっていますって言える。それってすごく素敵だと思うし、私もそうなりたいなって思います。私も、家族が大好きで、何かと家族に支えられています。両親や姉はもちろんですけど、姉の旦那さんとか、その子どもたちとかに、元気やヒントをもらったりしています。いろんなことを芝居にも使わせてもらってますし、助けてもらっているなって。家族パワーって本当にすごいですよ。どんなパワースポットに行くよりも、マイナスイオンよりもすごい」


『サザエさん』のような現場で、生き生きと演技した。「『長谷川町子物語』ですけど、実は尾野真千子物語でもある」と、本人。長谷川さんを演じるなかで、自分自身と重なる部分や響く部分も多かったのだそうだ。


「長谷川さんは漫画で、私は演技。やってることは全然違うんですけど、思うことって似てるなってことがずいぶんありました。当たり前ですけど、辛いときは辛い、それからどうしようっていろいろ考え込んだり。自分自身が尾野真千子として感じたことだったり、今まで生きてきて言えなかったことを、この作品のなかで代弁してもらったようなところもあるんです。その言葉が言えたことには、ちょっと感謝するところもあります。あ、でも、それが全国で放送されちゃうんですよね。……私、大丈夫かしら(笑)」


「1人の女性が苦しんで悩んで楽しんで、女性として生きて、とても重なる部分も多いと思うし、きっと、見ていただけたらありがとうっていってもらえるんじゃないかっていう作品」と、胸をはる。「うん、だって、私にとってもそうですから。いろんな人の代弁者になってくれると思うし、それぞれいろんなことを感じてもらえたらって思います」


「気持ちを伝えられる女優に」


 出演作のひとつひとつに真摯に臨む。短いとはいえないキャリアを重ねてきたが、彼女がデビュー以来ずっと大切にしているのが「気持ちを伝える」ということ。


「気持ち、伝えたいですよね。ただ、気持ちって芝居で出すのってなかなか難しくて。思ってるだけでは伝わらないんですよ。それでも、どうにかその気持ちを伝えたいと思って演じているので、気持ちを伝えられる女優、気持ちが伝わる楽しみを知ってもらえるような女優になりたいし、そうありたいと思います」


 それは決して楽なことじゃない。長谷川さんが感じたように、苦しみもある。


「でも、自然に乗り越えてきてるかなあ。辛いこととか大変なこととか、気晴らしにカラオケ行くとかじゃ取り払えないんですよね、私。お話したり、思っていることをぶつけたりっていうこともありますけど、結局は自分が乗り越えないと。だから、何かしようとしない、っていうのが私の乗り越え方。寝て、起きて、顔を洗って、歯を磨いたら、乗り越えてます。家族パワーもありますしね」


 振り返ると『長谷川町子〜』はもちろん、2013年は、さまざまな家族の形を届けてきた。それもまた、彼女の「家族パワー」への想いを強くした理由かもしれない。そこで、自分の家族を作るプランについて尋ねると、「ありますよ!」と元気な答えが返ってきた。


「結婚もしたいし、子供も授かりたい。でも今は仕事のほうが楽しいっていうだけで。その気になったら! でもまあ、いい人が現れたらいいなって思ってます。いい人が現れたら仕事そっちのけになっちゃうかもしれないけど……分かんないですけどね(笑)。でも私、旦那様が仕事を辞めなさいって言ったら辞めるとお思いますね、たぶん。自分の親がそういう人たちで、大黒柱となる人がそう言うならそうしなさいと教えられて育ってきたので。そういうイメージないみたいですけど、意外と、そういうところ、あるんですよ」


「起きて寝て食べて、仕事をして。普通普通に。それが幸せ。これを続けられて笑って過ごせたら」と、笑顔を見せる。そんな「普通に生きる」彼女。来年も『ニシノユキヒコの恋と冒険』、『魔女の宅急便』といった映画、NHKの土曜ドラマ『足尾から来た女』など出演作が控える。これからも、たくさんの人の心を揺さぶる作品を届けてくれる。(本紙・酒井紫野)
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サザエさん放送45周年記念
『長谷川町子物語〜サザエさんが生まれた日〜』29日放送!



 国民的人気アニメ『サザエさん』が放送から45周年を迎える。本作は、それを記念して、『サザエさん』の生みの親・長谷川町子さんの人生を描くもの。長谷川さんのエッセイ漫画『サザエさん うちあけ話』など過去の文献や資料をもとに、長谷川さんの生涯を取材。長谷川さんの人生をドラマ化するのは本作が初めてだ。


 長谷川さんを演じるのは、マチコつながり?とも思える尾野真千子。出演が決まった際には、「実在する人物、まして誰もが知っている“サザエさん”を作った長谷川町子さんを演じることはとても怖いです」とコメントしていたが、今回の取材では「あんまり気にしない。その人になりきろうと思うとそれはそれは難しい。まずなりきれないし。なれないし。何とか、いろんな自分に引きつけて、自分だったらこう感じたなとか、尾野真千子だったらこう感じたなということ、なるべくそれを素直に演じていきました」と語り、「自分らしく楽しく」という、彼女のモットーにのっとって演じることができたよう。


 インタビューでも語ってくれたが、撮影現場は『サザエさん』から抜け出したように和気あいあいとしていて、姉妹役の長谷川京子と木村文乃、他キャストとの息もぴったり合っていたよう。


 父の死、福岡からの上京、漫画界の大御所への弟子入り、そして戦争と、長谷川さんを取り巻く環境が目まぐるしく変わっていくなかで、『サザエさん』がどのように生まれたのか—。ドラマを見たあとには、日曜日の『サザエさん』が違って見えてきそうな作品だ。劇中には、アニメのサザエさんも登場する!?
【ストーリー】昭和2年、長谷川町子(7歳)は福岡で家族と一緒に元気いっぱいに暮らしていた。絵を書くのが大好きで、家に帰ると紙という紙に絵をかき、家族をあきれさせるほど。14歳のとき、最愛の父親が他界。大黒柱を失った母は家族で東京へ行くことを決意。さらに母は何の伝手もないにも関わらず、漫画好きである町子を人気漫画家・田河水泡のところに弟子入り志願に行けと背中を押して……。長谷川さんが『サザエさん』を通じて伝えたかったことはなんなのか? そんなことを考えさせてくれるドラマだ。


【出演】尾野真千子、長谷川京子、木村文乃、イッセー尾形、徳井義実、松坂慶子、三浦友和 ほか
【放送日】11月29日(金)午後9〜11時22分 フジテレビ系にて放送