東京から日本を元気に!TOKYO MOVE UP! Special Interview 舛添要一氏に聞く

史上最高のオリンピックで東京を世界一の都市に

「東京から日本を元気に」をスローガンに活動してきた「TOKYO MOVE UP!プロジェクト」は今後、2020年に向けて「ROAD to 2020」を新たに合言葉に加え、活動していく。今回は都知事選に出馬を発表した舛添要一元厚生労働大臣にお話をうかがった。(聞き手・一木広治)

 2020年の夏季オリンピック・パラリンピックの開催が決まりました。それに向けて東京を盛り上げていかなければいけないと思っています。
「私も2020年の五輪というのはものすごいチャンスだと思っていますので、それをきっかけにいろんなことをやりたいと思っています。私は高校生まで陸上競技の選手でした。短距離のスプリンターでインターハイにも出場しました。1964年のオリンピックの時は高校1年生だったんですが中長距離の選手が聖火ランナーになったんですね。仲間が走っている姿に触発されて一生懸命練習しまして、翌年にインターハイに出場したんです。オリンピックというのはそういう個人にも元気を与えてくれるものなんですね。それにそれまでは貧しかった日本が、一気に豊かになった。新幹線ができましたし、東京では青山通りができました。今日本はデフレが20年続いて、ものすごく調子が悪かったんですが、このあたりでなにかやったらどうか、という観点では最適なものが来たな、と思っているんです。あとは特区法案が通ったんで、東京だけ日本に先駆けてなんでもやれるんですね。いろんな意味での規制緩和というか、霞ヶ関の規制が邪魔しているものがあれば、特区でやることができる。オリンピックで世界から多くの人が来た時に“ちょっとこの街汚いじゃない”とか、首都高を見て“これ落ちるんじゃないか”なんて思われても困ります。しかし伝統的な江戸の情緒が残っているところは、それは残さなきゃいけない。そういう意味でオリンピックをきっかけに、普通だったら10年かけてだらだらやっているところを、なにがあろうと6年後なんだ、というモチベーションでやっていけるんじゃないかと思っているんです。出馬会見でも言ったんですが、やはり防災対策をしっかりやらないといけない。オリンピックをやっている真っ最中に直下型地震がきたときにどうするかまで考えてやらなければいけないと思っています」

 オリンピックは日本の文化を世界に発信するいいチャンスでもあります。
「今、ニューヨーク、パリ、ロンドン、東京といった都市が世界のランキングの上のほうに来ています。東京はこれらの3都市の下なんです。私はこれを上げたいと思っています。だから私の選挙のスローガンは“史上最高のオリンピックをやって世界一の都市・東京にしよう”ということなんです。文化で言うと私の場合は絵が好きなんです。40年くらい前なんですがフランスに留学しました。フランスに行くのは音楽家と芸術家、絵描きくらいしかいない時代だったので、そういう人たちとずっと一緒で、しょっちゅうコンサートや美術館なんかに連れて行かれまして、門前の小僧みたいになって、めちゃくちゃ絵に詳しくなったんですよ。大臣のときにフランス人と話すときは奥さんが必ずついてくるんですが、中には政治が嫌いな人もいる。そんなときに芸術や日本の文化の話で盛り上がることもありました。そういう話ができると海外でも尊敬してもらえるんですよ。だから文化には力を入れなければいけない」

具体的なプランがあれば聞かせてください。
「モネ、セザンヌ、ルノアールといった印象派の画家のアトリエには浮世絵が張ってあるんですよ。印象派の遠近法というのは、浮世絵のやり方をそのまま真似ているんです。浮世絵がいかに近代芸術、例えば印象派に影響を与えたか。広重とか、ああいう遠近法の取り方というのはゴッホも真似ているんです。そういうことが分かるように国立美術館あたりに両方を並べて、“印象派以降の世界の美術は浮世絵がなければ生まれなかった”といったテーマで6年がかりで大展覧会をやればいいと思うんです。それからアジアの人も来ますよね。中国は文化大革命で貴重な資料が全部散逸しているんですけど、清や明の時代の中国の古文書というのは日本に残っているんです。だからこういうものを使って、アジアの中で、日中が喧嘩をしているような状況だから、日中韓あたりの文化の交流のようなものをやればいい。それからオリンピック期間中には“スポーツもいいけど、夕方はリラックスしてコンサートでも聞きに行こうか”と思う人もいるでしょう。ヨーロッパにならって割安で文化に触れる機会を工夫をして、例えばオリンピックを見に来て、オリンピックの券を持っている人にはコンサートとかなんかを半額にしたっていいと思うんです。日本には世界に誇る文化があるんですが、あまり表に出さないじゃないですか。だから東京も文化の香りのする都市だということをもっと世界にアピールしていく必要があるので、文化外交というものをやる必要はあるなと思っています」

原発問題は冷静な議論をしていきたい

 東京の直面する大きな問題として高齢化社会というものがある。
「人にはさまざまな生き方があって、私も自然が好きなので田舎に引っ込んでのんびりしたいというのもあるんです。だけどこれは健康で一人で生きていける人の話であって、体が弱って介護が必要になって、自分ひとりで買い物に行けないという人には、東京はめちゃくちゃ便利です。医療の面でもそうです。119番をしてから数分で救急車が到着し、病院に搬送してくれて、そこには最高の設備がある。それができるのはこの街しかないです。長生きしようと思うと、東京になる。それに“自然でのんびり”もいいんだけど、人間刺激がないといけないですから、若者が生き生きとしているそういう街の一員になるということは元気が出ますよ。しかし倒れてホントにどうしようもなくなった時には介護とか医療というものをきちんとやれる施設が必要です。ただそういう老健や特養といった施設がどんどん作れるかというと、東京は土地が高いですから簡単に建てることはできません。だからハコモノを建ててそこに老人を入れるという発想は東京では無理だと思います。“なんでこのじいちゃんやばあちゃんを閉じ込めるのか?”と聞くと“徘徊してどこに行くかわからないから”と言います。でも、徘徊する人は徘徊させればいいんです。その代わり、隣近所の人が“あそこのおじいちゃんが徘徊しているから連れて帰ってあげよう”っていうような社会になれば、おじいちゃんを閉じ込めなくてもいいし、高いお金で施設を作る必要もないんです。そういう地域全体で、コミュニティー全体でご老人をケアするようなモデルを作りたいなって思っているんです。お金もかからないし、地域の絆も強まります。結局、税金を安くして楽しい街にしようとすると、お上に任せているだけではダメで、そこに住んでいる人も少し手伝いなさいという、そのことに尽きると思うんですよね」

2020年の招致活動のときも東京商工会議所などの年齢の高い人は頑張っていた。オリンピックは街全体を年齢を超えて元気にするものだと思うんです。
「一番心配なのはマラソンなんです。世界のアスリートが来て、暑さで死んでしまったということは避けないといけない。ミストかなんかをコースに設置することはできないことではないけれど、そうすると公式記録にならなくなったらいけないから、そういうわけにもいかない。一番の問題は排気ガスや冷房から出る暖気なんです。こういうものが空気を温かくしすぎて熱風を出して、そして空気を汚す。それは車が最大の原因なんです。だから車をなるべく減らすようにしないといけない。私は自転車をよく使うんですが、世界をみても自転車レーンがきちんと整備されていない都市はないんですよ。東京も路面電車の復活まではいいませんが、自転車をもっと活用させてもいいんじゃないでしょうか」

 原発の問題にも触れないわけにはいきませんね。
「東京が日本で一番電気を使っている街なのは確かです。しかし福島の原発を見たときにできれば依存しない社会を目指したいとみんなそう思っていると思うんです。ただすぐやめるとなると、電気が止まったときにどうなるのということになります。オリンピックの時はすごい電気を使いますしね。しかも冷房を使うでしょ。競技をやっているときに停電になって記録がなくなっちゃったら、おもてなしでもなんでもないんで。ですから安定的に電気を供給させる手段を探らないといけない。東京は消費地なのは仕方ないですが、集中型ではなく分散型にできないかと思うんです。例えば私の家に太陽光パネルをつけるとすると、300万円くらいかかるので補助金を出すなどしなければいけません。あと下水道の水を使って家一軒くらいの発電はできる小型の発電機というものもあるんですね。バイオマスも含めて東京の持っている設備でできる発電を2割にまで増やしたいんです。今は4%前後で、ほかの地域より低いんです。だから偉そうなことは言えないんです。オリンピックにひっかけていうと、猛烈な40度くらいの猛暑になってみんな冷房をガンガンつけっぱなしになって停電して、スタジアムの冷房が切れて、記録が全部消えちゃったらどうするんですか?と。そのときにきちんと電力源があったとしても、万が一どうしてもこの原発を動かさないとオリンピックができないとなったらどうしますか?という問なんですよ。小泉さんの問題は代案がないということなんです。総理が決断すれば、代替案は頭のいい人が考える、といった言い方をしていますが。なんとかならないじゃないですか。それはちょっと待ってくれよという気はしますね」

 バランスですよね。そこに向かうけど、そこまでどうやって政策を積み上げていくかということですよね。
「私は争点ではないと思うんですよ。みんなその方向にはいきたいと思っていると思いますから。具体案を出さないと。今後シェールガスの大革命が起きて、いくらでも簡単にエネルギーが生み出せるようになったならそれでいいし、また新たなテクノロジーができるかもしれない。だから原発に関してはあらかじめ何年と決めるものではなくて、科学技術の発展をみながらやっていくということが必要なんで、冷静な議論をしたいと思っています」