鈴木寛の「2020年への篤行録」 
第4回 ネットで民意は集められるか

 この原稿が載る頃には都知事選は終盤戦に入っている頃でしょう。選挙戦に入る前、小泉元総理が突然表舞台に現れ、こちらも長く政界を離れていた細川元総理をかつぎだし、「脱原発」のアジェンダを設定しました。たしかに東京都は電力の大消費地であり、東京電力の株主ではありますが、持ち株比率は1%に過ぎないので実際に脱原発をするのは困難です。小泉元総理としては得意のメディア戦術で世論のうねりを造り、安倍政権のエネルギー政策にプレッシャーを与えるのが狙いだったのでしょう。 

 いつぞやの光景がまたも繰り広げられるのかと思いましたが、報道各社の世論調査をみていると、新都知事に要望する政策課題としては、医療や介護、待機児童対策、防災などが脱原発よりも上位に挙げられています。郵政民営化というシングルイシューを問うた2005年の衆院選の“教訓”を有権者が学んだことは小さくないのでしょう。政治家やメディアが一方的に設定したアジェンダに踊らされることなく、自分たちの切実な問題を考えているのだと考えます。

 有権者が冷静になったもう一つの要因はメディア環境の大きな変化です。郵政選挙の当時は、ミクシィが若者の間で流行りはじめた程度でしたが、その後、TwitterやFacebookが社会の隅々に普及し、さらにはスマートフォンの普及の波に乗ったLINE等のSNSアプリが日常的に使われています。あらゆる人々が発信する時代となり、既存メディアの情報だけではない多様な視点が共有されます。すると選挙に於いても、自分の頭で考えて自分にとっての政策ニーズが何かを見極めるようになる。テレビ政治の「小泉劇場」から10年が経ち、メディアリテラシーが相対的に培われてきたのは間違いないようです。

 ネット選挙が解禁されて初めての都知事選。マニフェストを最初に掲げて信を問う従来の選挙とは真逆のかたちで、選挙戦に入ってから有権者の政策アイデアを集めて一緒に公約をつくる陣営も出現しました。私も2009年、民主党議員時代に「東京ライフ」という政策立案プラットフォームをプロデュースし、有権者とのマニフェスト共同作成を試みたことがあります。ただ、当時はネット選挙解禁前で党幹部の関心が薄く、その後、定着しませんでした。その意味で、こうした取り組みがどのような成果を出すのか注目されます。

 告示日前には公開討論会に主要候補が参加せずに2度も流れたことで有権者の関心が失われ、真冬で行われるとあって投票率低下が危惧されています。ネットによって、一度は失意を持った有権者が再び民意を示せるのか。引き続き推移を見守りたいと思います。

(元文部科学副大臣・前参議院議員)