「フェスティバル/トーキョー14」11月1日開幕
今年のテーマは境界線上で、あそぶ

『羅生門|藪の中』坂田ゆかり&長島確インタビュー

日本で行われる最大級の舞台芸術の祭典『フェスティバル/トーキョー14』(F/T14)が11月1日から30日まで、池袋周辺の劇場を中心に開催される。今回のテーマは「境界線上で、あそぶ」。このテーマを最も表しているといわれる作品である『羅生門|藪の中』で演出を務める坂田ゆかりとドラマトゥルクを務める長島確に話を聞いた。

『羅生門|藪の中』はパレスチナのアルカサバ・シアターとの共同創作となる。

長島「アルカサバ・シアターのディレクターのジョージ・イブラヒム、照明デザイナー、そして俳優が全員パレスチナ人で、他のスタッフはすべて日本人です」

 日本とパレスチナでは物理的に距離もあるし、互いに面識もなく、どんな作品をやるかということからなかなか大変なことがあったようだ。

長「『羅生門』といえば、日本人からすると芥川龍之介の小説なんですが、ジョージがやりたいと言っていたものは、黒澤明が『藪の中』と組み合わせて映画化し、その成功を受けてブロードウェーで舞台化された台本がアラビア語に訳されていて、どうやらそれのことだったんです。今年の2月にパレスチナに行って、分かって驚きました(笑)。ずいぶんとアメリカンテイストの入った台本で、台詞劇としてはよくできていて、その意味では面白いのですが、“どうしようか”と話し合うところから始まりました」

 演出を務める坂田はディレクターズコミッティ代表の市村作知雄からオファーを受けた。

坂田「なぜ私が?とまず驚きました。そしてなぜパレスチナ? なぜ芥川?って。いろいろ疑問があったんですが、面白そうだなって思いました」
長「坂田さんが演出を務めるというのはある意味、大抜擢だと思います。彼女は自分で何かを書いて、自分を表現しようとして作りたいというタイプではない。なので、今回のような共同で作品を作り上げていくというプロジェクトでは適任なのではないかと思います」
坂「夏に3週間ほどパレスチナに行きまして、そのとき俳優たちと初めて会って稽古をしてきました。といっても作る上でのコミュニケーションのベースを作ってきたという感じ。具体的なものはこれからブラッシュアップしていくことになります」

 初めてのパレスチナの印象は?

坂「とにかく気さくで明るく気兼ねがない。街を歩いているだけで“あっ日本人だ”って声をかけてくるんです」
 パレスチナの演劇事情は?
長「アラビア語で演技を勉強できる学校はアルカサバのアカデミーしかないそうです。やはり政治的な状況が特殊なので。そういうある種の占領状態の中ですが、いろいろな劇場で演劇を作っている人たちはいる。スタートについたばかりといった感じではないでしょうか」
 作品では政治的な題材も扱う?
坂「そういう問題にどこまで触れるのかとか、ドキュメンタリー的な要素を入れるべきかどうかというところは本当にさじ加減だと思うんですけど、そこに関してはジョージに相談してアドバイスをいただいていて、自分にとってはとてもありがたいと思っています」

 我々が思っているパレスチナのイメージと、3週間一緒にいた2人では全然違うのだろう。

長「パレスチナのガザの問題はもちろん深刻です。でも夏に行った時に思ったのは、震災と原発事故の直後の日本がヨーロッパからどう見えていたのか、ということでした。あの時も放射能はもちろん深刻で大きな問題なんですが、それ以外のものが全然見えていない状況だった。パレスチナに関しては、我々もそうだったなって感じました。空爆のこと、政治の状況などいろいろな問題はありますが、それ以外にもいろいろな時間があり、日常の生活があった。パレスチナについて、偏見とは違うのですが、すごく狭い見方をしていたのではないかと思いました」

 見終わった後に我々が持つ漠然としたパレスチナのイメージが変わっていく、距離が近くなるような作品になる?

坂「そうなればうれしいですね。いろいろなイメージを持ったお客さんがいらっしゃることは当然だと思います。日本で生活している限り彼らと直接出会うことがないゆえに私たちが誤解している部分というのはあって当然だし、そういう方に見てほしいなって思います。この作品がそれに対してどういう影響を及ぼすかは分からないけれども、劇場に行って生身のパレスチナ人の動き、生き様を見るという体験をすることで、何かが変わるんじゃないかとは思っています」

 10月頭にパレスチナから一行が来日。2人は「来たからにはまずは日本を体験してもらおう」と、まず彼らと満員の山手線に乗ったり、池袋駅で東武線から山手線に乗り換える人の流れをひたすら眺めたりというフィールドワークに時間を費やした。

長「作品では通勤のサラリーマンを演じるわけではないし、それをモデルにするために観察するわけではありません。作品を作るにあたって、我々はどんな体を持っていて、どんな空気の中を生きているかということは忘れることはできないし、それ抜きでは考えられない。劇場とか稽古場って、そういう現実から切り離されてしまう。だからどんな社会で、どんな場所なのかということは常に意識していないといけない。パレスチナでもそういうことは必要だったし、日本に来れば日本の空気を吸って作らないといけないんです」

 初来日の彼らは日本にどんな感想を?

坂「“疲れた”という日本語を覚えたと言っていました(笑)。不思議な日本語
を覚えてきますよね。雨が降っていたので、傘という日本語も覚えたみたいです」

 パレスチナの人が日本を好きになって帰ってくれるといい。

坂「もう十分好きになったみたいです」
 写真撮影のためにやってきた俳優たちは早くも日本の風景になじんでいた。作品を通じて、だけではなく、滞在中のあらゆる場面で彼らは日本とパレスチナの架け橋となってくれるに違いないと思わせた。

「フェスティバル/トーキョー 14」本紙お勧めのプログラム!!


フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園
(11月1日(土)〜2日(日)池袋西口公園)

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東日本大震災を機に、福島の現在と未来を世界に発信するために、音楽家・遠藤ミチロウ、大友良英、詩人・和合亮一が中心となり結成された「プロジェクトFUKUSHIMA!」がオープニングを飾る。盆踊りや「池袋西口オーケストラ」の一般からの参加者を10月24日まで募集中。

総合ディレクション:大友良英、プロジェクトFUKUSHIMA!
撮影:地引雄一




桜の園
(11月13日(木)〜 17日(月)にしすがも創造舎)

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振付家・劇作家・演出家というさまざまな顔を持つ矢内原美邦のチェーホフの名作『桜の園』を題材とした新作。1本の老木をめぐる3つの物語にアレンジした。観客は、にしすがも創造舎の敷地内で同時進行する物語を観劇した後、三者の話し合いに立ち会う。

ミクニヤナイハラプロジェクト(作・演出:矢内原美邦)
『戯曲をもって町へ出よう。桜の園〜最後の実験』(撮影:山本尚明)




驚愕の谷
(11月3日(月・祝)〜6日(木)東京芸術劇場 プレイハウス)

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本年4月にパリで初演されたピーター・ブルックの最新作は人間の脳の神秘、奇蹟をたどる冒険譚。超記憶能力や共感覚を持った人々のエピソード、世界の果てに住む霊鳥を訪ねる旅を描いたアッタールの物語詩『鳥の言葉』を参照した。

作・演出:ピーター・ブルック、マリー=エレーヌ・エティエンヌ




動物紳士
(11月15日(土)〜11月24日(月・祝)シアターグリーン BOX in BOX THEATER)

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柔軟かつ緻密な動きとストイックな挑戦心、ユーモアを併せ持つ作品づくりで存在感を放つダンサーの森川弘和と読売演劇大賞最優秀スタッフ賞も受賞した気鋭の美術家・杉山至がコラボレーション。新たなダンスの地平を開く作品となる。

森川弘和(振付・出演)×杉山 至(美術・衣裳デザイン)
©須藤崇規