SPECIAL INTERVIEW 宮藤官九郎 × 麻生久美子

舞台『結びの庭』3月5日から本多劇場で上演開始岩松了作・演出で主演がこの2人。ああもう期待しかない!!

 岩松了作・演出で宮藤官九郎、麻生久美子主演というなんとも気になる舞台『結びの庭』(下北沢・本多劇場)の上演が3月5日から始まる。本格的な稽古が始まる前、ややゆったり気分の宮藤と麻生に岩松作品について、お互いのことについて聞いてみた。

撮影・野口岳彦

宮藤(以降、宮)「実はその随分前、25歳くらいのときに、唐十郎さん作で岩松さんが演出した『続 ジョン・シルバー』という作品でご一緒したことがあるんです。その時の岩松さんの演出が印象的で。もう声が出なくなった時に、“宮藤くん大丈夫?”って言われたんですが、“ちょっときついですね”って言ったのに“あ、そう。じゃもう一回”って(笑)」
麻生(以降、麻)「(笑)」
宮「 “大丈夫?”って言うからもう終わりなのかと思ったら“もう一回”って。僕の役は唐さんがやった役で、意味が分からない台詞をたくさん喋る役でした。『アイドル——』の時に “意味を考えなくていい”って言われたことがあったんですが、“そういえばあの時も意味なんて考えてなかったわ”って思い出したんです。僕はわりと岩松さんの演出は楽しんでいるんですけど、それは “意味なんて考えなくていい”ってことをなんとなくその時に分かっていたからかもしれないですね」

『アイドル——』の時はそんなに大変じゃなかった?
宮「あのときは…そんなに言われなかった。“もう一回”というのは、皆さんほどはなかったです」
麻「それはすごいです。みなさん、よく“もう一回”って言われるって聞きますよ。私は相当言われました。ただ“もう一回”って言われるだけで怒られるということは全然ないんですけど」

 今回また声がかかった時に、どう思った?
麻「私はすごくうれしかったです。お芝居はよく見るんですが、岩松さんの作品が大好きなので一番見ていると思います。でも正直に言うと怖いですよ。なんていうか…、苦しかったんですよね、一本目の時が。もう“早く終われ〜”ってずっと思っていました」
宮「え? それは本番中ですか?」
麻「本番中です(笑)。本番が始まって“ああ、やっと始まった”って思って、あとは“早く終われ〜早く終われ〜”って思ってた(笑)。本当に初舞台はガチガチに緊張しました」

 作家、演出家としての顔も持つ宮藤。今回のように一俳優として作品に関わる時は、100%役者で臨む? 例えば岩松さんが麻生さんを演出している時に、“なるほど、こういう演出の仕方もあるのか”といった見方をすることは?
宮「稽古場ではありますよ」

 つい演出家の目が出てしまう?
宮「いや、勉強になるという意味です。岩松さんの言葉のチョイスが自分にはないものだったりすると、“こういう気分ってこういう言葉で表現するんだな”といったように。でも自分が言われているときはそんな余裕ないですね。岩松さんの芝居はお客さんとして見に行くとすごく勉強になります。“なるほどこうやってやるんだな”というか“自分もこういうふうにやっているように見えていたんだな”って思いますし」

 前回に“うまくできなかったな”とか“やり残したな”というものは?
麻「うまくできなかったこととやり残したことだらけです。ホントにいっぱいいっぱいだったんですよね。終わって初めて“ああこういうことだったのか”とか、最近1本目の舞台の脚本を読み直して、今になって“こういうことが言いたかったのか”なんて思ったりするんです。それでは気づくのが遅すぎるので、今回はもうちょっと早めになにかに気づけたらいいなとは思っています」

 2人は舞台では初共演。映画『アイデン&ティティ』では脚本と主要キャストとして関わっている。今まで共演は? 
宮「三木聡監督の『インスタント沼』という映画でワンシーンだけですね。その前に僕が監督した映画『真夜中の弥次さん喜多さん』に出ていただいたことがあります」
麻「少し出させていただきました」
宮「申し訳ないことしたなって思います(笑)」
麻「(笑)いやいやいや、でも楽しかったですよ」
宮「(笑)寝てなきゃいけない役だったんです。大変だなこの役っていう役」
麻「(笑)楽しかったですよ」

 お互いにどんな印象を?
宮「僕、『アイデン&ティティ』はこの前も見ましたからね」
麻「えー!? もう恥ずかしい…」
宮「自分に自信がなくなった時に見るんです」
麻「(笑)」
宮「麻生さんの台詞は全部、田口トモロヲさんとみうらじゅんさんと僕が女性に言ってほしい言葉なんですよ(笑)」
麻「(笑)」
宮「だからそれを映画館でスクリーンで見てると“ああ、いいな〜峯田くんいいな〜”って思いながら、途中から自分が言ってもらっているような気分になるんです。“君は君らしく”みたいなこと言われて、“はい”って(笑)」

宮藤さんは才能豊かな方

麻「宮藤さんはいろいろなことをなさっていてすごく才能が豊かな方だなって思ってます。すごい羨ましいです。エッセイなんかも宮藤さんの考えていることって面白いな〜、なんか幸せそうだな〜って思って読んでます」
宮「幸せじゃないです(笑)」
麻「そうですか?」
宮「いや、長い目では見れば幸せかもしれませんけど(笑)。今はそれほど幸せじゃない(笑)」
麻「ええー?(笑)」
宮「いやいや(笑)」
麻「役者さんとしては、すごい自由な方だなって思ってて、それが心底ホントに羨ましいんです」

 その自由さは舞台を見て?
麻「特に舞台を見てですね。なんであんなふうに自由に舞台上を泳げるのか」

 大人計画全体が?それとも中でも宮藤さんは特別自由っぽい?
麻「宮藤さんと松尾さんはそう思いますね」
宮「僕と松尾さんは何かから解き放たれているんだと思います(笑)」

 松尾さんとは似たタイプ?
宮「いや、僕は全然違います。前にもらったファンレターに“皆川(猿時)さんや阿部(サダヲ)さんに比べて宮藤さんはちょうどいいです”って書いてあったんです」
麻「(笑)ちょうどいい…」
宮「“2人はすごい役者だけど、時々、やっぱり宮藤さんのちょうどよさが…”みたいな感じでとにかく“ちょうどいい”って言葉がすごくたくさん書いてあって、僕だんだん腹が立ってきたんです。そしたら松尾さんに“いや、宮藤、それはすごい大事なことだよ”って真顔で言われて、“やっぱ松尾さんも俺のことちょうどいい”って思ってんだ、って」
麻「(笑)おもしろ〜い」

 岩松さんとは、演出についてとか役者について、といった話をすることは?
宮「岩松さんは…岩松さんは松尾さんとは真逆ですね、俳優としても。岩松さんは、“だからとにかく考えなくてもいいからセリフを言えばいいんだよ”ってすぐ言うじゃないですか」
麻「はい。松尾さんは違うんですか?」
宮「松尾さんは、そのへんは違いますね。あと、松尾さんは質問してくる役者は嫌いだって言いますね」
麻「(笑)それはこの前のパンフレットに書いてましたね」
 自分で考えろという意味? それとも答えるのが面倒?
宮「“自分で考えろ”っていうのと、“それを聞いて俺が答えたからって、じゃあ何が変わるんだ”っていうことみたいです。僕らはそうやって育てられているから、基本的には質問なんてしないです。以前、若者の役をやった時になんかの拍子に “俺の役って何歳ぐらいですかね?”って聞いたら、松尾さん、急にムッとして“え!? 80歳だよ”って(笑)」
麻「(笑)」
宮「やっぱり聞いちゃダメなんだって思いました」
麻「(笑)聞かなきゃよかったんだ」

『マレーヒル——』の時、岩松さんから舞台の話とか、“なぜ麻生さんに”といった話はあった?
麻「うーん、あったかな〜」
宮「岩松さんって、けっこう言うんじゃないですか」
麻「初舞台はとにかく大事だ、という話はされたと思うんですよ」
宮「それはプレッシャーかけてるんじゃないですか(笑)」
麻「(笑)」
宮「大事だぞって(笑)」
麻「どんな作品をやるかによって、みたいなことは言われた気がするのと…。あんまり覚えてない…」

あこがれていた世界観

 宮藤さんは25歳の時にはそんなこと言われた?
宮「岩松さんが僕の芝居を初めて見に来てくれた時、それは役者としてではなく、演出をしている作品を見てなんですけど。“君は何がやりたいかをはっきりしすぎている” “君は何を面白がっているかが出すぎている” といったことを言われたんです。“出すぎている”なんて、25歳の時に言われても分からないじゃないですか。今、僕がそのときの岩松さんくらいの年齢なんですけど、やっとそのとき言われたことの意味がちょっと分かります。それ以外にも岩松さんの言っていることを聞いて“そうか”と思うことはありますね。その後も岩松さんってすごいなって思ったことがありました。それは役者としての岩松さんなんですが、僕の芝居でおばちゃんの役をやってもらったんです。その役はずっと男だと思わせておいて、途中で女って分かるんですが、なんの説明もせずに台本を読んでもらったんです。岩松さんは普通に男だと思って読んでいたんですよ。そして途中で女だって分かるシーンが来たんですが、芝居が変わらないんですよ」
麻「(笑)」
宮「で、ちゃんと男にも女にも見えるんです。びっくりしちゃいました。説明しない僕も僕だと思うんですが、その役は自分のこと“わたし”っていうんですけど、男でもそういう人いるじゃないですか。そういうつもりでやっていて、途中からおばちゃんだって分かってきたんだけど、全然変わらない。芝居を変えないのにおばちゃんに見せることができるんだ、これはすごいなって思いました」
麻「すご〜い」
宮「関係ないんだなって思っちゃった、性別とか(笑)」

 最後に岩松作品の魅力を。
麻「私は台詞が好きです。岩松さんの台詞は美しいですし、なんかおかしいし。出ている時も言われたことですけど、台詞の意味をそのまま…なんていうんだろう…感じられないというか、裏でいろいろ考えているんだろうな、ということが透けて見えてくる感じとかが、面白いというか。なんか時々ハッとします」
宮「この前、岩松さんに言われた言葉ですごい勇気をもらいました。“俺が台本を書こうとして、何も言葉が出てこない時は登場人物も言葉が出てこない時なんだ”って言うんです。そう言えば“……”がすごく続くシーンがあったのですが、俺だったら無理してでも、なんかセリフを捻り出すと思うんですが。 “あ、そうか。俺、それでいいんだったら本書けるな”って思いました。(笑)」
麻「(笑)」
宮「喋っている言葉が実はすべてではなくて、頭の中で違うこと考えているんだけど、違うことを言っちゃっていることもあるし、もちろん黙っていることもあるし。“そういうふうに言葉を操っている人なんだな”と思ったら、この人はすごいと思った。僕、いろいろな岩松さんの作品が好きなんですけど、最初に衝撃を受けたのが竹中直人の会かなんかで、4人くらい、岩松さんを入れて5人とかでやっていた世界観だったんですよね。今回は出演者が5人。そういう感じにあこがれていたので、この作品に呼んでいただけてうれしいなって思っています」

 この2人のワキを最近、映像、舞台ともに話題作への出演が続く太賀、バイプレーヤーとして半端ない存在感を見せる安藤玉恵、そして岩松が固め、繰り広げられる濃密な人間ドラマ。あと1カ月、楽しみ以外なにもない。
(本紙・本吉英人)

M&Oplays プロデュース『結びの庭』

【日時】3月5日(木)〜25日(水)(開演は平日19時、土14時/19時、日14時。※水は14時の回あり。25日(水)は14時の回のみ。月曜休演。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前)
【会場】本多劇場(下北沢)
【料金】全席指定 前売・当日共6800円/U-25チケット4500円(25歳以下対象・当日指定席引換、枚数限定、要身分証明書・チケットぴあにて前売販売のみ取扱い)
【問い合わせ】森崎事務所(TEL:03-6427-9486=平日11〜18時 [HP]http://www.morisk.com/
【作・演出】岩松 了
【出演】宮藤官九郎、麻生久美子、太賀、安藤玉恵、岩松 了