賛否両論、議論百出の問題作 AV監督とアイドルによる本気のドキュメンタリー

『劇場版 BiSキャノンボール 2014』全国公開中

SPECIAL INTERVIEW カンパニー松尾 監督
昨年8月に解散したアイドルグループBiS。その解散ライブの前日から翌日まで、メンバーそれぞれに密着したドキュメント映画『劇場版 BiSキャノンボール 2014』が2月7日から公開された。昨年、この映画の制作が発表されて以来、公開が待望されていた話題作。監督を務めたのはカンパニー松尾。日本を代表するAV監督だ。
 この『BiS——』には元ネタといえる作品がある。それは昨年のサブカル界の話題を独占したといっても過言ではない映画『劇場版テレクラキャノンボール2013』。

『テレクラ——』は6人のAV監督が映画『キャノンボール』よろしく、クルマやバイクでレースをしながら、土地土地で素人女性とセックスをしていくというAV作品のラストの地・札幌での様子を切り取り映画化したもの。本来、AVとして企画、発表された作品が普通の映画館で上映されるというのも快挙だが、クチコミでその面白さが伝わり、リバイバル上映を繰り返し、年末には地方でも上演されるまでの大きなブームを巻き起こした。

 しかしなぜアイドルの解散ドキュメントをテレキャノスタイルで撮ることに?

「6人のメンバーの解散後を6台のカメラで追いたいというコンセプトは最初からありました。いずれにしても6カメで、今信頼できる6人ということになると、どうしてもテレキャノの6人になってしまうんです。この6人が集まるんだったら…ということで最終的にキャノンボール形式というところにたどり着きました。それに最初から僕に頼んでくるというところで、何か普通ではないものを望まれているんだろうな、とは思いました。でも自分一人で立ち向かうにはBiSが紡いできた物語がいろいろありすぎて、大きすぎたんです。だから歴史をさかのぼるような当たり前の手法を取るよりも、グループの最後の何日間がどういうものだったのか、という形にしたかった。それでキャノンボールを完全にかぶせる形にしました」

 公開後の周囲の反応は?

「賛否両論、さまざまな反応がありました。ネタバレしてしまうので詳しいことは言えないんですが、テレキャノスタイルを貫き通せなくなりかねない事態も起こりました。それに僕たちのコンセプトとしては“彼女たちの解散の後の表情をどう撮るか”というものだったんですが、実は翌日に本当のラストライブがサプライズであったため、彼女たちの気持ちが切れていなくて、解散に気持ちがいっていなかった。彼女たちの事情が、僕が思っていたものとはけっこう違っていたんですね。6人のグループを1人ずつで撮るということは、“個”にするということなんです。彼女たちは6人のパッケージでの仕事なら抵抗なくできる。例えば“解散前にもう一回だけヌード撮らしてくれ” って言ったら多分やるんですよ。でもそうじゃなくて、セパレートな状況にして、そこで個人的な関係でお願いしてみる。その時に彼女たちがどういう反応をするかということを知りたかった。そういう意味では、僕たち6人のアプローチの仕方はそれぞれ異なっていました。それが後々問題を引き起こすんですが…」

「アイドルvs AV監督。騙されたのはどっちだ?」というキャッチと映画を見て思うのは「騙された」のは誰かということ。BiS? 監督たち? それとも観客? そんなことを考えると、映画の1シーン1シーンがどんな意味にも取れ、とても興味深い出来になっている。それに細かいところを見ていくと、ひょっとしてこれは…といったような深読みしたくなるところがいくつもあるのだが、そこは実際に映画を見て見つけてほしい。そうやって考えると、ドキュメンタリーは作り手の意思と見る側の視点で評価はさまざまだ。

「ふだんのAV作品は誰も待っていない気がしていて、超気楽にやっているんです。今回は最初から期待を持って待っている人たちに向けての作品でしたので、いつもとは違った感覚でした」
 テレキャノのヒット以降、昨年は松尾の過去の作品にもスポットがあてられた。アフタートークなどでいろいろと喋る機会も多かった。年末に上映された『UNDER COVER JAPAN』でのアフタートークでは作品について「もともと劇場で大人数で見ることを想定していない」といったことを言っていた。

「僕の作り方は若干特殊で、カメラを使って自分の身の回りのことを切り取っているんですが、それを他者に委ねるときには1対1のほうが感情を含めて預けやすいと思っているんです。例えば僕はナレーションは入れません。全編テロップだけです。ナレーションが入ると作りが客観的になってしまう。テロップを頭の中で読むときにはその声質はその人の中にしか存在しないじゃないですか。そういう意図でずっと編集してきました。『UNDER——』は1対1で編集が終わっていたものが、まさかあんなところでさらされるとは想像もしていなかったので、そういうことをちょっと言っておいたということなんです」

 今回は最初から不特定多数へ向けた作品。そのへんの切り替えは簡単にできちゃうもの?

「僕はずっとAV監督で、劇場を意識して作ったのはこれが初めての作品なんです。ずっとAVが好きで、あのサイズ感、それこそ1対1の感じとか。あとは男がティッシュを片手に見てるっていうイメージ。だから女性なんて全然頭の中に入っていない。でも普通AVって出した(射精した)瞬間に終わりじゃないですか。“もうとっとといなくなってくれ”って感じだと思うんですけど、“いやちょっと待てよ”と。途中までパンツを下ろしていた人に“ちょっとこれ最後まで1回見てからにしよう”って思ってもらえるような作品を作ろうと思っているんです。ふだんがそういう感じだから、今回は戸惑う部分はありました。でもBiSはアイドルっぽい人たちではなかったので、僕らにとっては非常にやりやすかった。これが“おはようございま〜す”みたいな裏声出しっぱなしの人だったら、もっと殺伐とした雰囲気になったと思います。それはそれで面白かったかもしれませんけど。もっと早い段階で決裂して大変なことになっちゃっていたと思います。まあそんな人の作品だったら、最初から僕らも呼ばれてないですね(笑)」

 テレキャノ→BiSキャノという一連の流れの中で考えさせられるのは映画とAVの垣根って何?ということ。

「今回の作品だけがけっこう入り組んでいるので迷われるかもしれませんが。映画は映画、AVはAVで違うものだと思っています。僕は映画が嫌いというわけではなくて、映画的なものにしがみついている人たちが嫌いなんです。それは映画が偉いとかAVがダメだとかという話ではないです。映像表現の場として単純にAVに自由を感じています。例えば一人でもできるといった作り手としての可能性ですよね。映画は一人で“じゃあ”というわけには行かない部分もあるので。だから僕は表現の場にAVを選んでいる。ここに面白いものを投下し続けていれば、なにかしら見てくれる人もいるだろうし、現にいる。そこで面白いことをやりたいなってずっと思っているという、それだけの話なんです」


 今後こういうオファーがあったらまたやってみようかなって感じ? 多分いろいろな話が来そうだが…。

「いや〜今はあんまり考えたくないですよね。ちょっと疲れちゃってるから(笑)。極端な話、映画をやりたいという考えは全然ないんです。映画で食っていこうという思いも全くない。ただ僕がAVで培ってきた物事の考え方とかスタイルなんかでやったら、もしかしたら面白いんじゃないかと思ったらやります」

 こんな面白そうなことは他の奴にやらせられない、みたいな。
「冗談で話しているんですが、有名俳優さんが“テレキャノに出る”なんてことになったら “テレキャノといえば俺だよね”って話になっちゃうじゃないですか。となると、やらざるを得ないねってだけの話です。おもしろがる自分というものは止められないのかなっていう気がします。逆に“やめとけ”ってもう一人の自分は言っていたりするんですけどね」

 ネタバレ禁止の作品。まだ見てない人にはなんて勧めればいい?
「アイドルBiSとAV監督というテーマなんですけど、最終的にはすごい人間臭いものが見えていると思うので、ドキュメンタリーとしてぜひ見にきてください。それと、これ言ってもいいんですよね(小声で)。僕が敗軍の将という自覚があるので、“敗戦ドキュメンタリー”って自分の中では思っています。あまりトークショーで“やったぞ”という感じはないのはそういうこと。選手としてもやり残したことがあるんです」

 特殊な条件で作られた特殊な映画ということでとにかく賛否両論、議論百出。ただ言えるのは、改めて、テレキャノは唯一無二の作品で、BiSは唯一無二の存在なのだと気づかされるということ。

 ちなみに『劇場版テレクラキャノンボール2013』と『劇場版 BiSキャノンボール 2014』は「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2015」(20〜23日)で上映された。そして『BiS——』は今後全国で順次上映される。
(本紙・本吉英人)
『劇場版 BiSキャノンボール 2014』
監督:カンパニー松尾 出演:プー・ルイ、コショージメグミ、ヒラノノゾミ、テンテンコ、ファーストサマーウイカ、カミヤサキ、カンパニー松尾、バクシーシ山下、ビーバップみのる、タートル今田、梁井一、嵐山みちる /SPACE SHOWER NETWORKS INC. 配給/全国公開中 東京では2月21〜27日までシネマート新宿、28日〜ポレポレ東中野で上映。http://bis-cannon.jp/