地方創生成功の鍵は地方の主体性と情報発信 石破茂 地方創生担当大臣

JAPAN MOVE UP!「日本を元気に」SPECIAL INTERVIEW

「日本を元気に」をスローガンに各界のキーパーソンにお話をうかがってきた「JAPAN MOVE UP!プロジェクト」。今回は石破茂 地方創生担当大臣に「地方創生」について語ってもらった。(聞き手・一木広治)

 地方創生担当大臣に就任後、積極的に地方へ足を運んでいる印象があります。その中で、大臣が注目しているモデルケースはありますか?

「島根県隠岐の島の海士町、鹿児島県鹿屋市の『やねだん』、JR九州のクルーズトレイン『ななつ星in九州』、ふるさと納税の北海道上士幌町といったところが有名です。そのような好事例は、日本中の至るところにあるんです。今回の地方創生は、これまで点在していたものを“日本全国一斉にやるぞ!”という取り組みです。過去にも『日本列島改造論』や『ふるさと創生』という取り組みがありましたが、どちらも中央(国)から地方に何か働きかける、という話でした。今回の地方創生は、何をやるかは地方で考えて頂き、国は情報、財政、人的な面で支援をします。高度経済成長期、地方の経済を支えてきたのは公共事業と企業誘致で、どちらも東京から何かを持ってこようという発想でした。しかしその時に、“自分たちの町にはどういう事業が必要か?”といった詳細な分析があったかというと必ずしもそうではなかった。今回は、まず“自分の町がどのような状態なのか?”を把握し、それを踏まえて“ではどのような取り組みが必要か”を議論し分析するということを、産官学金労言(産業界・行政・高等教育機関・金融機関・労働団体・言論界)みんなでやってください、ということなんです。主役は、地方です。地方自治体が作る地方版総合戦略には、KPIという数値目標を設定し、PDCAできちんとチェックをして、みんなが参画する。そこが今までとは全然違うわけです。全国一斉に取り組むので、他の地域と比較されます。こうなると市町村長たちは本当に頑張らなきゃいけない。隣りの町はうまくいっているのに、うちの町は全然ダメだ、となったらまずいですから」

 岡山県や山口県では若い世代を中心に経営者や街づくりを考えるグループができています。彼らはいろいろな情報を発信するにあたり、東京といった大都市を使っていかないとうまく広がっていかないという課題を抱えています。地方と大都市がつながって情報を発信していくということが鍵になるのかとも思います。

「そうですね。日本では地方の情報が全国的に発信されることが極端に少ないんです。ヒト・モノ・カネが東京に集中している、とよくいわれますが、文化と情報も同じです。東京経由でも構いませんが、地方発の情報がもっと発信されることが大事です」

 熊本県の南阿蘇に白川水源というのがあり、ここでは地元企業が工場を作り、雇用も生まれ、村(官)がバックアップをしています。そして売ることに関してのノウハウがないので、そこについては東京の企業とコラボレーションをしてやっているんです。

「ほら、知らない話です(笑)」

 地方創生の中では食という要素が大きいですよね。

「私は先日、長崎県の五島列島に行ったんですが、五島牛がとても美味しかったんです。でもそんなに有名じゃない。今が旬の桜鯛もものすごく美味しいんですが、問題はそれをどうブランド品にして、鮮度が高いまま東京や大阪で売るか、ということです。五島には初めて行ったんですが、“絶景と教会とうどんの島”もしくは“絶景と教会と椿の島”というんだそうです。日本三大うどんって知ってますか? 秋田の稲庭、香川の讃岐と五島うどんなんですって。私も知らなかった(笑)。3週間ほど前にテレビの取材でJR九州のクルーズトレイン『ななつ星 in 九州』に乗ったんですが、これがまたすごかった! 唐池恒二会長とデザイナーの水戸岡鋭治さんは今までいろいろな九州のD&S(デザイン&ストーリー)列車を仕掛けてこられましたが、その集大成として、“世界で一番素晴らしい列車を作ろう”ということで本当に作ってしまった。その水戸岡さんが “みんな外国に行くけど、日本語が通じるところが一番いいに決まってる。日本にはこんなにいいところがたくさんあるじゃないか。使わなかっただけ、知らなかっただけ。このななつ星はそこを回るんだ”と言うんです。地方は、公共事業と企業誘致に頼ってきた間、農業・漁業・林業、観光など持っている潜在能力を目いっぱい引き出す努力を怠ってきた。一時期“日本はもうだめだ”なんて言う人がいました。でも地方には眠っている力がいっぱいあるんです。面白いと思いませんか?」

 山口県では地方銀行である西京銀行が、ビジネスアイデアコンテストといった形でマッチングをしています。やりようによってはそこそこいけるかもしれないというものもたくさんあるのですが、やはりネックとなるのは情報発信という部分。そこは手助けしてあげないといけないということは、すごく感じます。

「愛媛県四国中央市の『霧の森大福』。これもインターネットで人気が出ましたよね。ネットという道具ができたおかげで、あっという間に世界に発信できる。連鎖が連鎖を呼んでおもしろがった人がたくさん来るんですね」
 2020年東京オリンピック・パラリンピックと地方創生のリンク、連携といったことは考えられていますか?
「まず、選手村を国産材で建てたいと思っています。日本には木造10階建てのホテル、アパート、オフィスというものはありません。ヨーロッパでは木造で10階建ての建物を作る技術はとっくに確立されていて、たくさんあります。日本では『地震があるから』とか『建築基準法で無理』などといってきましたが、そもそも林野行政は林野庁の、住宅行政は国交省住宅局の所管で、この2つには接点がない。でも東京五輪を機会に、“じゃあ選手村を木造で建ててみようよ”ということであれば可能性は出てきます。木造10階建ての建物が可能になることによって、林業は劇的に変わります。木材消費も増えます。それに木造の建物があちこちに建つということは、Co2削減の観点からすると、街中に森ができるのと等しいのです」

 地方創生の先にどんな日本を見ていますか。

「例えば、日本の農業は輸出に積極的ではなかった。輸入にも高い関税を課して、外国からモノを入れないようにして、国内では生産調整をしていた。コメがその典型です。輸出しなければ産業が成り立たないというハングリーさはそこにはないわけです。外国人観光はどうかというと、受け入れのための準備がわずらわしくて先に進まない。今まではそれでもやってこられたが、もうそんなことは言っていられない。日本が変わっていく、変わらざるを得ない、そういう時期なのではないでしょうか。地方創生がひとつの運動となって全国に広がっていくことが、ひょっとしたら日本を変えていくことにつながるのではないだろうか、という面白さはありますね」

 意識改革が大事ですね。

「いいものだったら高くても売れる。ダメなものは安くしても売れない。地域において自らの潜在力を最大限発揮させる取り組みを進めることは、日本のものは価値がある、という日本再発見につながるのではないでしょうか。ただ、今言ってきたようなことを実現するためには、日本人はもっと休みをとらないといけないですね。有休は全部取る、できれば連続休暇を取る、残業もなるべくしない、というように日本人のライフスタイルも変えていく。未婚の若い人が増えています。見合い結婚も10分の1に減りました。だから子供も生まれないという説もありますが、自由な時間をたくさん作ることで、出会いの時間もたくさんできるのではないかと思いますし、もっといろいろな取り組みができるはずです。地方創生は、東京に行って成功して錦を飾るとか、朝から夜遅くまで働いてサクセスストーリーをつかむといった、明治時代から連綿と続く慣習を変える機会であって、そこから新しい日本ができるのではないでしょうか」