『ジヌよさらば〜かむろば村へ〜』主演 松田龍平

 昨年は、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」で演じた水口琢磨役で“ミズタクフィーバー”を巻きおこし、主演作『舟を編む』では日本アカデミー賞をはじめ数々の映画賞で主演男優賞を総なめに。今最も目が離せない俳優・松田龍平が、10年ぶりに鬼才・松尾スズキとタッグを組んで挑むのは“お金恐怖症”の青年というユニークすぎる役どころ!
前代未聞! お金恐怖症の主人公『十二夜』出演中

 原作は、『ぼのぼの』『I(アイ)』など、独特の世界観で多くのファンを持ついがらしみきおの人気漫画『かむろば村へ』。“ジヌ(東北地方の方言で“銭”=お金)”に触ることができなくなってしまった元銀行員・高見武晴、通称・タケは“お金を使わず生きる”ため、山奥の寒村・かむろば村へと移住する。ひとクセもふたクセもある村人たちに助けられたり振り回されたりしながらも、O円生活を始めるが…。

 本作の面白さの骨子となっているのが、松田演じる主人公・タケの存在。お金に触ると失神してしまうほどの“お金恐怖症”という設定に、思わず興味をそそられる。

「実際には、お金が無かったらできないことは多々ありますよね。自分が生活の中で何気なく得ている幸福も、お金が無かったら違う形になるかもしれませんし。でも“お金を使わない=不幸”ではない気がして。タケのような状況になっても、そうなっちゃったんだから仕方ない、と生きていくような気もします。タケを見ていると、それはそれで幸せな部分もたくさんあるんじゃないかと思えるんですよね」

 いろいろと騒動を起こしながらも、タケは村人たちに助けられ、O円生活を続けていく。

「“お金を触れない”という設定は無理やりではあるけど、題材は面白い。もしお金を使えなかったら、というもしも話に始まって、そこからいろいろな選択肢が考えられる。お金を使えないから働いて労働した分、食べ物をもらう。もしくは作物を育てたりして自分で生産する。でも結局、そこから浮かび上がってくるのは人とのつながりで、人間は1人では生きていけないということなんだと思います」

 ようやく村にも慣れた矢先、タケは村長選挙に巻き込まれ、事態は思わぬ方向へと向かうのだが…。

「でもタケなら、この先も大丈夫そうという気がします。頼りないんだけど頑固で、ついイジりたくなるというか、助けたくなる。ちょっとイラッとするときもありますけど(笑)。僕も、もし目の前にタケがいたら助けてしまうでしょうね。だって崖っぷち感がすごいじゃないですか。 “何も買わない、何も売らない、ただ生きていく”って…、のぼりに自分の生き方を書いている姿を見れば、この人、本当に限界なんだな…って思いますよ」

松尾スズキ監督に“壊された”!?

 異常に世話焼きの村長役に阿部サダヲ、村長の美人過ぎる妻役に松たか子、村では希少な女子高生役に二階堂ふみ、自他ともに村の“神様”と認める不思議な老人役に西田敏行といった豪華な実力派俳優たちが “松尾スズキ×いがらしみきお”のシュールな世界観を見事に描写するのも見どころだ。松尾監督とは『恋の門』以来10年ぶりの再タッグ。

「いや正直なところ、また松尾監督に呼んでいただけるなんて思っていなかったので、本当にうれしかったです」と松田は語るが、松尾監督が手掛けた長編映画3本のうち、2本が松田の主演作。監督が松田に寄せる信頼のほどがうかがえる。

「本当にどのシーンも松尾監督らしさが出ていると思います。僕自身、松尾さんの演出が面白いので楽しく撮影することができました。松尾監督は、僕のイメージをことごとく壊してくれました(笑)。初めに台本を読んだときに、村人たちがかなり変わっている人物として描かれていたので、僕の中でタケは“お金恐怖症”という変わった弱みを持ってはいるけれど基本的には普通の人、というふうにイメージしていたんですけど、監督はタケ自身を変わった人にしたかったみたいで(笑)」

 一見ごく普通の青年に見えるタケが“ごく普通に” O円生活を始めようとして、変わり者の村人たちをドン引きさせる姿は、おかしくて仕方がない。

「松尾監督のタケは、僕が最初に抱いたイメージとは違ったんですけど、だからこそやっていて面白かったです。確かに僕のイメージでは人物像が小さくまとまってしまいそうでもあったので、監督にそれを壊して頂いたのは助かりました。ただ、やっぱり不安はありましたよ。タケの人物像に客観性が持てなくなるというか、こういう人物に見えるだろうというものも無くなるほどだったので。松尾監督自ら“こんな感じで”って表情を演じて見せてくれるんですけど…他の人にあの表情はできないですね。やって見せてくれるので、ニュアンスはすごく分かるんです。分かるからこそ同じ表情を作れないのが悔しくて。監督の歩き方なら、僕は少しできるんですけど(笑)」

 思えば『恋の門』のときもそうだったんですよね、と懐かしそうに振り返る。

「松尾監督は変わらないですよね、いい意味で。今回、撮影が始まってすぐに思い出しました。ああ、松尾監督ってこうだった、って。『恋の門』のときは、監督の言っているニュアンスは分かるけどそれを演じるのが難しくて本当に辛かったんです(笑)」

 しかし今回は、想定外の人物像を表現し、しかもそれを楽しむことすらできている。

「前回は松尾監督の演出を消化するので精いっぱいだったんですけど、今回はせっかくキャスティングされたんだし、もう少し自分のやりたいことを出せたら、と考える余裕がありました。監督の演出に、ここまでやって大丈夫だろうかと思うこともあったんですけど、だんだん楽しくなってきて、いつしか監督に言われる前にやっちゃえ、という感じになっていましたね。演じていて全然、客観性を持てなかったんですけど、今までにない気持ちになることができて、かえって面白かったんです。そういう状況を楽しめるようになったという点では僕自身、変化があったんだなと思います。役としても良かったんでしょうね。お金が触れなくなって、初めての土地で初めて会う人たちと暮らすタケの戸惑いと、うまく重なった部分はあったと思います」

 戸惑いすら役作りに生かしてしまうほどに、10年の間に松田は一回りもふた回りも成長していたということだろう。そんな松田にとって松尾監督はどういう映画監督なのか。

「他にあまりいない監督だな、という感じはしますね。どういう映画監督かというより、松尾スズキという人が面白いですから。監督としても役者としても。今回も多治見という怪しい男を演じているんですけど、台本ではすごく悪い奴として描かれているのに、あの人が演じるとどこかかわいいというか憎めない。あの感じはずるいですよね(笑)」
俳優・松田龍平の“謎”は解けない

 ずるい、のは松田龍平という俳優にも言うことができる。絶対的な存在感を持っているのに、決して一つのイメージにとらわれることがない。それどころか近年、ますますミステリアスさが増しているような…。

「僕自身もよく分からないです(笑)。ただ、自分の思うところから離れたい、というのはありますね。単純にいろいろな役をやりたいということもあるんですけど、自分がイメージできない役にもどんどん出会いたい。そもそも僕は、こういう役をやりたいという気持ちが無くて、それがけっこう心地よかったりするんです。もちろん役作りでどうしたいというのはありますけど、例えばアクションをやりたいとか、こういうキャラを演じたいというのは無いんです。むしろアクションはやりたくないですね、得意でもないし(笑)。ただ、うまく撮ってもらってスクリーンですごく強く見せられる、というのは楽しい。やっぱり撮影が楽しいんですよね。大勢の人たちと一つの作品を作るというのは楽しい作業だし、それぞれやりたいイメージがあるのに一つの作品を作るというのはそう簡単な事ではなく、それがまた刺激になりますし」
『まほろ駅前多田便利軒』の行天しかり『あまちゃん』の“ミズタク”しかり、松田には“ハマり役”と言われる役がいくつもある。それだけ見る人を楽しませてきたということだ。

「結局のところ、どんな役をやるのかは僕が決めることじゃないと思うんですよ。自分がまだ若いって思っていても周りがそう思わなければ若い人の役は来ないわけですから。例えば中学生の役なんて、もはやできないですからね(笑)。ここのところ、このタケも含めて、ちょっと頼りなくてほうっておけないタイプが多いですけど、もっと渋くて男らしい人物もアリかもしれないし。どんな役に興味を抱くかは、出会ってみないと自分でも分からないですね」

 想定外の出会いを楽しめる松田なら、これからも見る者の想定を超えて楽しませてくれるに違いない。それが、松田の出演作が常に楽しみな理由だ。(本紙・秋吉布由子)
NULL
『ジヌよさらば〜かむろば村へ〜』

金に触るだけで失神してしまう、前代未聞の深刻な“お金恐怖症”になってしまった元銀行マン・タケは、一円も使わずに生きていくために、過疎化が進む寒村“かむろば村”へやってきた。ちょっとクセのある村人たちに助けられながら、お金を使わない生活をスタートさせるのだが…。

監督・脚本・出演:松尾スズキ 出演:松田龍平、阿部サダヲ、松たか子、二階堂ふみ、西田敏行他/2時間1分/キノフィルムズ配給/4月4日より全国公開 http://www.jinuyo-saraba.com/http://www.jinuyo-saraba.com/
©2015 いがらしみきお・小学館/『ジヌよさらば〜かむろば村へ〜』製作委員会