満島真之介 20世紀最大の劇作家ユージン・オニールが描く家族

 天真爛漫で我が道をゆくマイペース派に見えて、誰よりも優しくてとてつもなく繊細な心の持ち主。ドラマ、映画、そして舞台で、満島真之介が演じてきた男性は女性の心をくすぐる人物が多い。そんな彼がこの夏取り組んでいるのが舞台『夜への長い旅路』だ。稽古に励む彼にインタビューした。
 猛暑日が続くなか、満島真之介は都内の稽古場に詰めている。「…すごい暑さですよね」と、満島も参ったといった表情。生まれ育った沖縄でもこんな暑さは感じたことがないという。「海風があるから日陰に入りさえすれば涼しいんです。でも東京ではそれは期待できないですから」。

 そんな暑さも吹き飛ばす勢いで、満島が静かに情熱を傾けているのが、9月に幕を開ける舞台『夜への長い旅路』。20世紀にアメリカが生んだ最大の劇作家のユージン・オニールによる自伝劇で、父、母、そして兄と弟それぞれが何らかの闇を抱える家族のある夏の1日を切り取る。

 演劇史上最高の自伝劇と称される作品。すでに公開されているビデオメッセージで満島は「ワクワクしている」と話した。

「ワクワク、続いてますよ。ただ浮ついた感じのワクワクじゃなくて、もっと下、腹の底にぐっと落ち始めた感じのワクワクなんです。いろんな感情が混じっているので一言で片づけていいのかっていうのもあるんですけど……。できるできないというマイナスな感情ではなく、もっと無意識な…自分でもよく説明できない(笑)。そういう、すべてが混じった感覚が体の中に入っていくような。外からは、悩んでいる人に見えるかもしれないけれど、自分の中では血が騒いでいるんです」

 満島が演じるのは肺結核に冒された弟エドマンド。ユージン・オニール本人とされる役どころだ。「こう言ってしまうのはどうかなって思いますが、”演じている”という感覚がないんです」と、本人。

「(登場するのは)どこにでもありそうな家庭であり、家族だと思うんです。ユージン・オニールは、自分の家族を描いたんでしょうけど、同時に誰にでもあてはまるものを書いているなと思います。登場人物はそれぞれいろんなものを抱えてはいるんだけど、家族って方程式みたいなのがありますよね、男しかいない兄弟の長男ってこんな感じ、姉妹の場合はこんな感じっていうような。エドマンドもその延長上にあって、一個人という気がしないんです。もちろん芝居ですし、物語もセリフもあるんですけど、エドマンドがどういう人物で、どういう性格って役を作っていくのではなくて、エドマンドとして立っているんだけど、中で動いてるのは自分自身、自分自身が生きてきた時間だったりする。だからだと思うんですけど、作品と向き合うほどに、僕自身との対話になっています」

 こんな感覚になるのは、家族が題材だから。「自分からかけ離れていたり、突拍子もない役だとあまり感じない」という。

「でもみんなこういった感覚になるんじゃないんでしょうか、家族が題材になると。家族って普遍的なものじゃないですか。家族にはいろんな形があると思うんですけど、みんな母親から生まれてきて、父親がいなければ存在すらないっていうのは同じで、スタートは絶対誰かとつながっている。そのつながりには強さがあって、責任感みたいなものもある。たとえ絶縁状態になったとしても心の底ではつながり続けているんです。家族、親、兄弟との関係。血でつながっている関係。逃れることはできない。そう考えるととても面白いし、すごく大きなテーマだと思います」
 満島を含め出演者は4人だけ。稽古場は自然と濃密な空間になる。家族が題材ゆえに自然と自身の家族の話になることも。

「家族の話って不思議ですよね。例えば、うちは親が離婚してて、母子家庭でって、言葉上ではすごい重いこと、本人には重いことだとしても、話すとなんか重く聞こえなかったりする。…愛情がこもっているからなんでしょうか。話せること、もちろん封印していくこともあるんですけど、根本に愛がある。稽古場も空気が重くならないんです。幸せな時間が流れてます」

 家族は面白いといいつつ、「家族と向き合うことって怖いこと」だともいう。 

「とても勇気がいることだし、誰でもいつかは向き合わなきゃいけないと思うこと。自分の家族に対してまだ向き合いきれていないことを、この家族で体験している気がします。だから、見に来ていただける方も、自分の家庭とか家族のことを感じてもらえたらうれしいです。舞台上で起きていることがすべてではなく、心から湧き上がるものを大切にしてほしい。ある夏の一日、常にあるような一日の話のなかで、つかめるようでつかめない、血でつながった集合体である家族……。たいして大きな事件も起きない中で、その家族がどう映るのか。反応が楽しみです」
 稽古はまさに佳境を迎えつつあるが、満島自身はこの毎日を楽しんでいる。

「僕にとっての舞台の魅力って、立った時の充実感じゃない気がするんです。作るプロセスとその作品に向かっているときの自分の生活、時間の使い方に興味があって。毎日泳いで、稽古場に来て、みんなと顔を合わせて、稽古をし、家に帰る。毎日同じことを繰り返す中で、自分に向き合うことができる。心臓が動いている感じ、鼓動のリズムまで感じられる。そうすることで、自分がどう存在しているのか、なぜ今ここにいるのか。と自分が自分自身に戻っていく過程な気がします。そんな時にふっと吹いてきた風に幸せを感じるのは舞台の期間中に多いんです」
 昨年結婚したことに触れると、それもまた「風が吹いてきた感じ」だと笑った。

 満島が、家族と自分自身に向き合いながら作り上げる舞台は、9月7日から。
(本紙・酒井紫野)
『夜への長い旅路』

[STORY]モルヒネ中毒で入院し退院したメアリー、かつては有名なシェイクスピア俳優だった夫・ジェイムズには、ジェイミーとエドマンドという2人の息子がいた。兄弟のあいだには母を巡る確執が生じていた。そんな中メアリーが再びモルヒネに手を出してしまったことで、家族間の対立や不和が露呈していく…。

【作】ユージン・オニール【翻訳・台本】木内宏昌【演出】熊林弘高【出演】麻実れい、田中圭、満島真之介、益岡徹 【日程】9月7日(月)〜23日(水・祝) 14時開演。7日、11日、15日、18日は18時30分開演。木曜休演。【会場】シアタートラム(三軒茶屋)【料金】8500円(税込・全席指定)【公式サイト】http://www.umegei.com/yoru-tabiji/http://www.umegei.com/yoru-tabiji/ 【問い合わせ】梅田芸術劇場 0570-077-039