誰もが楽しめる“本来の歌舞伎”へ 竹柴 源一さん(NPO法人 日本伝統芸能振興会 専務理事)

TEAM2020 × JAPAN MOVE UP!「日本を元気に」SPECIAL INTERVIEW
「日本を元気に」をスローガンに、各界のキーパーソンが2020年への提言を語る「JAPAN MOVE UP プロジェクト」。今回は、家柄や性別によらず誰でも楽しめる歌舞伎の普及を目指すNPO法人 日本伝統芸能振興会・竹柴源一さんに、日常的に日本の伝統文化と触れ合う環境作りの大切さを語ってもらった。
 2020年に向け、増える訪日観光客にもアピールしたい、日本の伝統文化。しかし日本人であっても日常的に古典芸能に慣れ親しんでいるとは言い難いのが現状だ。日本伝統芸能振興会の竹柴理事は、かつて歌舞伎は、庶民の誰もが気軽に楽しめる文化だったと語る。

「現在、多くの方が、歌舞伎役者はその家柄に生まれた男の子がなるものだと思っているでしょう。でも昔は必ずしも世襲制ではなく、優秀な弟子が襲名することはよくありましたし、劇団の数も全国にたくさんありました。それに、歌舞伎に女性は出てはいけないことになっていますが、もともと歌舞伎は出雲の阿国(いづものおくに)という女性が発祥。昔はいろいろな形の歌舞伎があって、中には娘だけの歌舞伎もありました。今では武家社会の芸能だった能のように、男子が世襲する形になっていますが、もともと歌舞伎は庶民が親しんでいた文化なんです。しかし今、一般の子供たちに歌舞伎役者になりたいという子はほとんどいません。その家柄に生まれた男の子がなるものだと思っているからです。今の日本の子供たちは、歌舞伎役者になるという夢を持てなくなっているんです。家柄によらないこと、女性でもできること。我々の歌舞伎では、この2つを本来の形に戻して、誰もが楽しめる庶民の歌舞伎を広めたいと思っています」

 2005年、竹柴さんは小中学生を対象とした〈こども歌舞伎〉を企画。
「現在、国も歌舞伎養成事業を行っており、養成所には16歳から入ることができます。しかし卒業後、彼らは主役になることはまずない。一部には、幼いころから歌舞伎に親しんでいる役者の家柄の子と違って“味”がない、という人もいます。実際には養成所出身の中にも才能のある人はたくさんいるんですけどね。とはいえ幼いころから歌舞伎に慣れ親しむほうが良いのは確かです。そこで我々は小学校から始められる〈こども歌舞伎〉を立ち上げました。まずは習い事の延長線上のような気持ちで親しんでもらおうということだったんですが、やはり中には歌舞伎に目覚めて、真剣にプロを目指し始める子たちも出てきました」

 こども歌舞伎“一期生”が現在20歳前後。主に彼らの公演の場として誕生したのが若草歌舞伎だ。
「我々は、養成所出身の役者さんなどを中心に舞台公演に加えて学校やイベントなどの出張公演も行っているんですが、若草歌舞伎の面々にもどんどん舞台に立ってもらう予定です。我々の舞台にとどまらず、テレビや映画などでも活躍する役者が、彼らの中から出てきてくれればうれしいですね。アイドルのような歌舞伎役者グループを結成しても面白いかもしれません(笑)」
まずは歌舞伎に触れること

 歌舞伎文化を本当に広めるには、見る側も気軽に楽しめる“場”がもっと多く必要、と竹柴さん。
「そもそも現在、一般的に普段から歌舞伎を見に行く人がどれだけいるでしょうか。歌舞伎座などの主流とは別に、小さな劇団が小劇場でやる本格的な歌舞伎を3000円ほどの手軽な料金で楽しむ場が増えれば、もっと歌舞伎が近くなるはずです」

 舞台公演に加え、小学校などの訪問体験会も行っている。
「だいたい2時間ほどのプログラムで、チャンバラや歌舞伎体験などのワークショップと鑑賞を行います。まったく歌舞伎になじみのない子も目を輝かせて楽しんでいますよ。子供って変身するのが大好きでしょう。“決めポーズ”と言いながら見栄を切って喜んだり、隈取りメイクを落としたくないといってそのまま帰宅したり(笑)。不思議なのは、小学校くらいまでの子供たちは歌舞伎特有の節回しや動きにも、すっと自然に入っていける。男の子でも女形の化粧をしたら見事にその動きになったりする。自分たちの先祖が作ったものは一瞬で理解してくれるんです」

 自分たちの文化だからこそもっと気軽に親しみたい。
「歌舞伎を一人でやると落語になるんです。歌舞伎を人形でやると文楽になる。歌舞伎を踊りだけやると日本舞踊になる。つまり歌舞伎は他の古典芸能にもつながっていて、歌舞伎を盛り上げれば他の芸能も盛り上がっていくと思うのです。まずは自分たちが自分の国の文化に親しむこと。現在、うちではこども歌舞伎だけでなくシニアの歌舞伎塾も開催していて、こちらも歌舞伎ファンの女性を中心に大人気です。我々には未経験の人を3カ月で舞台に立てるようにするノウハウがあります。ゆくゆくは歌舞伎の指導者も輩出して授業に取り入れてもらったりして、“自分にも歌舞伎はできる”という意識が広まればうれしいですね。まずは分かりやすくて楽しい歌舞伎を気軽に見て、歌舞伎の魅力に気付いてもらえれば、と思っています」
NPO法人 日本伝統芸能振興会

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