来て、見て!もっと知って!尾州毛織物

 日本最大の毛織物の産地である一宮市は、世界のハイファッションブランドにも品質の高さが認められる尾州毛織物を提供している。とはいえ、その高い評価は、国内はおろか、一宮の市民にさえ、行き渡っていない。世界に誇れるものが自分の街で作られている。その自信が一宮市、ひいては日本を元気にする。そのためには何が必要か? この2月と3月に、『一宮市主催 地方創生発信型イベント』が東京都渋谷区と愛知県一宮市で3回に渡って行われた。
プロフィル…なかの・まさやす。愛知県一宮市長。愛知県一宮市生まれ。愛知県立千種高等学校卒業。東京大学法学部卒業。1990年に郵政省(現・総務省)に入省。情報通信や郵政を中心に幅広く経験。2011年に株式会社博報堂に出向し、日本アニメの海外売り込みやドキュメンタリー映画の製作などを経験。2012年に総務省を退職し政界へ。2015年2月より現職。昭和42年1月生まれ。
料理人が築地に通うように、未来のクリエイターに
一宮市に足を運んでほしい。尾州毛織物に触れてほしい。
—— 愛知県一宮市・中野正康市長 インタビュー


——愛知県一宮市で生産されている「尾州毛織物」についてお聞かせください。

「尾州という地域はもともと繊維産業で発展してきましたが、毛織物は、江戸から明治へ時代が変わり、各地で殖産興業政策が行われたころからといえます。絹織物は京都、綿は今もデニムで有名な岡山というようになっていくなかで、一宮市、尾州地方では毛織物になっていきました。ブレイクのきっかけは約100年前、1914年です。第一次世界大戦が始まり、ヨーロッパからの毛織物が回ってこなくなり、尾張はウールでいこう、となった。そして、もうひとつのブレイクは第二次世界大戦後で、好景気を謳歌しました。ただ、平成になるころからでしょうか、中国産や韓国産の安価なウールが入ってきて、同じようにはいかなくなるんですが…」

——現状はいかがですか?

「安いものは外国産のものに取られていますが、技術の高いもの、匠の技という部分では、尾州、一宮はまだいけると思っています」

——「尾州毛織物」の特徴はどんなところにありますか?

「まずは耐久性ではないでしょうか。私も今日、尾州毛織物のスーツを着ているのですが、とてもしっかりしていて、へたったりよれたりというのがない。いいものを長く着ることはエコでもありますね。それと、紳士服というのはビジネスマンにとって戦闘服ですから、尾州のウールを使っているいいものを長く着てもらえたらうれしいですね」

——魅力あふれる「尾州毛織物」ですが、一宮市における毛織物、繊維産業を巡る実情についてお聞かせください

「国内メーカーはもちろん、誰もが知っているようなヨーロッパの複数のラグジュアリーブランドが、一宮市で作られた毛織物を採用しているんですが、尾州ウールといっても、ほどんどの方が知らないと思います。B to Bなものでもありますし、一宮市内でスーツまで仕立てられているわけではありません。どのブランドのスーツにも、このウールは一宮産、尾州毛織物なんて書いてはないですから、一宮で生まれたウールの素晴らしさが一般の方に知られることは、ないでしょう。国内どころか、一宮市民でさえ、毛織物産業に関わっていない限り、尾州毛織物の高い評価を知らない。それをより広く知ってもらいたいですね」

——何か対策を取っていますか?

「発信する、アピールするということです。東京都渋谷区と一宮市でシンポジウムなどのイベントを計画、実施したのもそのためです。渋谷は、ファッションを引っ張ってきた文化服装学院があり、レディー・ガガなど世界のセレブが訪れる原宿があります。その渋谷区で、長谷部渋谷区長、リバースプロジェクトの伊勢谷友介代表にお越しいただき、お話を伺いました。みなさんのお話のなかで、一宮市民の方々には尾州毛織物の産地であるという自信を持っていただき、一緒にいろんな展開を考えていければと期待しています。そして、クリエイターを目指す若い学生には、ぜひ一宮市に来ていただけたらと。料理人やパティシエといった方々はその素材を求めて築地に足を運ばれますよね。それと同じように尾州毛織物を見に来て、触れてほしいと思っています」

——そのような施策もあるのですか?

「小さな工場では職人の高齢化が進み、後継者不足問題も抱えています。外からやってきた方々が弟子入りし技術を継げるような仕組みを作りたいと考えています」

——ありがとうございました。
世界が認める、「尾州毛織物」って?

Q1「尾州」はどこにある?
 尾州は、奈良時代から明治初期まで続いた尾張の国の別の呼び方。現在の愛知県尾張西部、岐阜県の美濃地域の一部にあたる。愛知県一宮市、稲沢市、津島市、江南市、名古屋市、岐阜県羽島市など。

Q2「尾州」の毛織物の規模は?
 国内最大の毛織物の生産地。尾州地域では、国内総生産量の約8割の毛織物が生産されている。

Q3 なぜ尾州は毛織物が盛ん?
 伊勢湾に注ぐ木曽川を軸に肥沃な濃尾平野が広がる尾州地域では、昔から桑や綿花などが栽培され、絹、綿、そして毛織物と転換しながら、繊維産業とともに発展してきた。毛織物への転換は、海外から安い綿が入ってきたことと、江戸から明治へと時代が変わり各地で殖産興業政策が行われるなかで、尾州は毛織物を選択したため。
Q4 どんな企業があるの?
 尾州地域はすべての工程が分業されているのが特徴。企画や織り・編みを行う企業は親機(おやばた)と呼ばれ、その協力工場を子機(こばた)という。そのほか、紡績、染色、補修、整理加工など専門の工程を請け負う工場がある。中にはスーツなど製品まで仕上げる企業もある。

Q5 尾州毛織物を見るには?
 国内ブランドはもちろん、欧州のラグジュアリーブランドにも使用されているが、尾州毛織物と表示されているケースはほぼない。テキスタイルの業界支援機関である、一宮地場産業ファッションデザインセンターなどを訪ねてみよう!
一宮市主催 地方創生発信型シンポジウム
『一宮から日本を元気に! ファッションで繋がるマチとマチ ― JAPAN MOVE UP スペシャルトーク ―』2016.2.12 渋谷・Hakuju Hall


「クリエィティブなアプローチが社会の課題を解決する」

 初回は、一宮市、そして尾州毛織物についての紹介やそれを取り巻く環境、尾州毛織物の可能性などについてディスカッションが行われた。一宮市の中野正康市長が、世界でも高く評価されている尾州毛織物の素晴らしさは「国内どころか、一宮市民でさえ、繊維産業に関わっていない限り、知られていない。みなさんとの話の中で、解決のヒントが得られれば」と話し、ディスカッションがスタート。尾州毛織物の優れた点、一宮で生産することの利点などを明確にしつつ、三越伊勢丹の落合バイヤーやリバースプロジェクトが行ってきた、未使用のエアバッグを使用したプロダクツや、綿を紡績にした時に出る落ち綿を使用して糸を紡ぎ、それをもとに作ったスーツの例など、社会の課題に向き合いながら取り組んできたプロジェクトなどを見ながら、さまざまなアプローチから尾州毛織物の可能性について考えた。発信もまた課題。それについて長谷部渋谷区長は、「尾州毛織物を“知ること”に渋谷を使っていただければ。渋谷、原宿はおみやげがないなと思うので、尾州毛織物がおみやげになったらっていうのも考えられます。クリエイティビティで解決できる問題があると思う」と、熱っぽく語った。

【参加者】愛知県一宮市・中野正康市長、中伝毛織・中島君浩副社長、三越伊勢丹・落合将一バイヤー、リバースプロジェクト・伊勢谷友介代表、東京都渋谷区・長谷部健区長
一宮市主催 地方創生発信型スペシャルトークイベント
「リバースプロジェクト 〜論〜」2016.2.24 愛知・一宮市総合体育館


「尾州毛織物の課題、みんなで考えよう」

 第2回目は会場を一宮市に移して開催。商社、紡績、合繊メーカーなどが集まる国内唯一の糸の展示商談会「13th JAPAN YARN FAIR」のなかで行われたイベントには約500人が集まった。この日は、伊勢谷氏率いるリバースプロジェクトが行ってきた活動について、さらに詳しい説明が行われた。実際に、尾州毛織物の現場にいる人たちの思考を通し、さらにプロジェクトを進めていこうというのが狙いだ。オーガニックコットンと認められるまでの段階に生まれるプレオーガニックコットンを利用したTシャツの制作販売、廃棄されてしまうオーガニックコットンの落ち綿からガラ紡と呼ばれる古い機械を使って糸を紡いでいる木玉毛織株式会社(一宮市)とのコラボの成功例をあげ、「自分が身に着けるものができるまでに地球の裏で何が起こっているかまで考えたファッション」が必要とされていると伊勢谷氏。世界が認める尾州毛織物がさらにブレイクするための考え方のヒントを示した。また、その延長で、在庫を持たずムダを出さないだけでなく、尾州毛織物をストレートに世界へと出せるシステムとしてデジタルファッションショーなど新しいデジタル技術も紹介した。

【参加者】愛知県一宮市・中野正康市長、リバースプロジェクト・伊勢谷友介代表、同・龜石太夏匡共同代表、リバースプロジェクトトレーディング・河合崇代表(4月以降)、デジタルファッション・森田修史代表
13th JAPAN YARN FAIR & 総合展「THE 尾州」

 地方創生発信型イベントの第2弾は、一宮市で年1回行われている『JAPAN YARN FAIR(ジャパン・ヤーン・フェア)』、そして同時開催の 総合展『THE 尾州』のなかで行われた。

 ジャパン・ヤーン・フェアは、糸に特化した商談会。13回目の開催となった今年は、全国の紡績、合繊メーカー、意匠撚糸、糸商社など50社が参加。最新機能、意匠性など、付加価値の高い糸などの情報発信、提案を活発に行った。

 一方、ビジネス目的ではなくても参加できるのが、総合展『THE 尾州』。ビジネス関係者はもちろん、学生、糸やテキスタイル、ファッションに興味がある人、そうでない人にも開かれたイベントで、毎年多くの人が足を運ぶ。技術や製品などを通じて、尾州の魅力に触れられる内容だ。

 日本唯一の生地によるコンテスト『ジャパン・テキスタイル・コンテスト(JTC)2015』でグランプリ(経済産業大臣賞)を受賞した作品をはじめ、一般・学生の部の優秀作品を展示。さらにはそのテキスタイルをベースに制作した衣装が展示されるなど、夢のある展示が展開された。また、学生たちが自分の書いたデザイン画をベースに、生地製作から関わって衣装を完成させて、ファッションショーを行うといった試みや、統一テーマで匠と呼ばれる熟練技術者が開発した尾州毛織物で作ったスーツなどの展示、『尾州×三越伊勢丹尾州ウールスペシャルコレクション』やツイードを着て街中を自転車で走るイベント『Tweed Run Bishu』の報告などが行われた。

 トークイベントは、総合展『THE 尾州』の初日(2月24日)に行われ、約500人が参加した。
『JAPAN YARN FAIR』と総合展『THE 尾州』は、毎年2月に一宮市総合体育館で行われている。