神田松之丞「とっつきにくいイメージを払拭して、講談の面白さを広めたい。」

SPECIAL INTERVIEW
 講談という言葉は知っていても、実際に生で聞いた事がある人は少ないのでは? 難しそう、とっつきにくそうと思われがちな講談だが、最近徐々に盛り上がりを見せている。そんな講談界で、二つ目ながら大活躍中なのが、若きホープといわれている神田松之丞。プロデューサー的な視点を持ち、講談界に新たな風を吹き込む松之丞の野望とは!?
撮影・辰根東醐
 立川談志に導かれた講談師への道。

「もともとは落語好きで、高校時代から毎日のように、いろいろな所に行っていました。小屋や劇場はもちろん、CDを借りに図書館など、とにかく何から何まで、落語に関するものを追いかけていた。僕は1回好きになると、とことんはまる。その中で立川談志師匠を好きになり、それこそ談志師匠の本は、むさぼるように読んだ。その中で談志師匠が講談を好きだと言っていたので、見に行ってみようかと。実際見に行ったんですが、正直言うと最初はそんなに面白いものだとは思わなかった。でも、あの談志師匠が言っているんだから、何かあるに違いないとしぶとく見に行っているうちに、これは魅力のある演芸だと気づいたんです。で、魅力があると思ったと同時に、非常に生意気ですが、自分だったら、もっとよく人に伝わるようにできると思った。講談はすごくおもしろいのに、誰も見向きもしてない。自分だけが講談の魅力と、どうすれば面白くできるかが分かっている。それはまさに宝の山を発見した気分でした。やり方次第によっては大化けするぞと。それで講談師になろうと決めました」

 講談には難しいイメージがあるが…。

「そういうイメージを払拭するのが、今の僕の役割だと思っています。まったく予備知識がなくても、私がお客様の目の前でやって喜んでいただく。それができれば、講談の面白さは伝わるだろうと。もちろん、先人の講談師たちがやってきた一言一句をきちんとやるというのは大切ですが、昔の文章をそのままやっても、意味が分からなかったり、感覚が違うので笑えなかったりする事も多い。だから現代流の今のお客様に合わせて変えなきゃいけないところもあると思うんです。変えちゃいけないところと変えてもいいところの判断が昔の講談師はできなかったのかなと。だから僕は目線を下げて、お客様と同じ姿勢で講談に向き合う事にしました。幸い講談を追っかけていた客の時代が長かったので、お客さんがどうやってほしいかが分かる。自分はまだまだ未熟者ですが、お客様に情報を補足し、寄り添う事はできる。でも補足し過ぎても野暮なので、分からなくてもいいところは、そのままやる。そのバランス感覚や、お客様と一体感を持ってやれるところは、自分の優れているところなのかなと思います」

 この先の講談界に危機感を持っているという。

「10年後、非常に講談界は厳しい事になっていると思います。というのは、東京の講談師は男女比が今ちょうど半々ぐらいなんですが、男性の講談師の高齢化と女性の入門者の増加で、10年後は女性の講談師の数の方が多くなる。もちろん女性が読んでも成立しますが、台本を読めば読むほど、男の視点といいますか、男の芸なんです。ですから、女性の講談師がどうとかより、男性の講談師を増やさないといけない。それが今の悩みの種ですね。僕自身は真打まであと数年あり、真打にならないと弟子は取れないのですが、なったらすぐにでも取らないと…とは思っています。自分もまだ勉強しなければならない段階で人さまの子どもを預かるのはどうかと考えますし、今それを考えてもどうしようもないのですが、数年後、真打になったらすぐさま弟子を取れるような状況にしておかなきゃと。生意気な事を言っているのは承知していますが、謙遜している余裕も時間もないというのが、今の正直な気持ちです」

 人としても尊敬できる師匠、神田松鯉。

「いざ入門を決めて、師匠を誰にしようと考えた時に、すごく足しげく高座に通い、いろいろな先生の芸を見て、何度も何度も考えて、今の師匠に決めました。うちの師匠、神田松鯉は本格的な講釈をする人で、ネタも500以上ある。それを吸収して、もっと講談を広げたいというのもありますし、何よりずっと好きなんです。入門前は高座でしか師匠を知りませんでしたが、入った時も、そして今もずっと好きでいさせてくれるってすごいですよね。距離感や言葉遣い、僕を自由にやらせてくれつつ、後ろから見守ってくれている感じ。人の悪口を言わないのもそうですし、適当な事を言ったりする人も多い中、一番信頼できる大人です。絶対にスジは曲げないけど、ものすごく柔軟性がある。自分がいろんな所で勝手な事を発言できるのも、師匠のおかげだと思っています。そう思うと、自分は師匠に作られたんだなと最近つくづく感じますね」

 プロデューサー目線で講談界を考える。

「どちらかといえば、自分はプロデューサーのほうが向いているのかも知れないですね。僕が所属する落語芸術協会で、前座を一緒にやった11人で“成金”というユニットを作っているんですが、最初はみんなそれがどうなるか戸惑っていたんです。でも僕はいろんな事が明確に見えていた。だからそこに迷いは一切ありませんでした。メンバーはそれぞれにすごい優れた能力があるので、それらを持ち寄って、11人でできることをやる。それをすることで、個人個人が力をつけて、いずれは1人で大きな箱を埋められうようになる11分の1人になる。一人じゃ上手くできない時は団体芸としてやって、相乗効果でユニットも個人もうまくいけばいいと。だから、演芸会全体を把握し、何をやったら講談を広げていけるかという事をいつも考えて、実際に実行しています。いろいろと偉そうな事言いましたけど、何が言いたいかというと、単純に講談が広まればいい(笑)。そのために逆算していろいろ画策しているということです。もちろんプロデューサー的な企画だけではなく、僕の舞台を見ていただければ、まったく初めてのお客さんにも楽しんでいただける自信はあります。笑いあり、涙あり、人情あり、こっちの刃傷もあり、どれか一つは好みの講談を見つけていただけると思いますので、ぜひ独演会に足を運んでみて下さい」(THL・水野陽子)
『神田松之丞 独演会 其の五 松之丞ひとり 夢成金“慶安太平記~宇都谷峠、箱根の惨劇”』
【日時】9月20日、開場18時30分.開演19時
【会場】東京芸術劇場 シアターウエスト
【料金】全席指定2700円
【問い合わせ】夢空間TEL:03-5785-0380