SPECIAL INTERVIEW 根本宗子 × 橋本愛

月刊「根本宗子」第13号『夢と希望の先』 下北沢・本多劇場で9月28日から上演開始

 最近では演劇という枠を越えて活躍中の根本宗子が主宰する月刊「根本宗子」が『夢と希望の先』でついに本多劇場に進出する。本格的な稽古の始まる直前、本作で舞台初出演となる橋本愛と根本の対談が実現した。

ヘアメイク・池田晋一朗/スタイリスト 高山エリ

 月刊「根本宗子」は根本が2008年に旗揚げした。根本自身は特別に意識しているわけではないだろうが小劇場界においては本多劇場というのはひとつの節目となる劇場。

根本「もうちょっと早くできるんじゃないかと思っていたので、なかなか難しいものだなって思います。みなさんに“早い”というイメージを持ってもらうことが多いんですが、個人的には8年もかかっちゃったなって思います」

 橋本は今回が初めての舞台出演。もともと舞台に興味は?

橋本「もともと好きでしたので、普通に見ていました。こういう仕事をしているので、きっといつか舞台に立つこともあると思っていたので、条件が揃えば出ることにもなるんだろうな、とは思っていました」

 興味を持つようになったきっかけとなる作品があったとか?

橋本「これが面白かったから、というような特定の作品があったわけではないんです。いつも仕事は基本的に映画が多くて、見るものも必然的に映画が多くなっているんですが、そんな時に時々気になるチラシを見つけて演劇を見に行くと、いつも見ていることやっていることとサイズもボリュームも違って、そのギャップが楽しかったりするんです」

 なぜこのタイミングで。

橋本「根本さんの舞台のファンで3年くらい前から見ていました。今回このお仕事を受けたのはそれが一番大きい理由。それだけといってもいいくらい。好きな劇団なので“わーいやった!”みたいな感じでした。それに、本多劇場で公演が5日間しかないというところが“初めてにはちょうどいいかな?”と思って決めたということはあります。最初から大きい劇場で公演期間が1カ月で、その後地方公演もあってという作品をやって飽きることが怖かった。“もっとやりたい”と思って終わりたいという気持ちがあったので、そういう意味では今回は自分にとってちょうどよかった」

 観劇に来ていたとのことだが、もともと面識は?

根本「全くなくて、ずっと見てくださっているというのも人づてに聞いたくらい。お会いしたこともなかったので、ホントに見に来てくだっさているのかも分からない状況でした(笑)」

 楽屋挨拶みたいなものも?

根本「なかったです。普通にチケットを買って見に来てくださっていたんです。それで去年のスズナリ公演の時に初めてご挨拶させていただいて、そこが完全な初めまして。そのときに、“舞台なんかは興味ありますか”って話をしてみたら、“あります”とおっしゃられた。舞台をまだやられていないのは知っていたので、ご一緒できる機会があれば、と思ってお願いしました。でもそれは初舞台だから、ということではないです。いろいろな条件が揃う本多劇場の公演だったし、リメイクの芝居をやってもいいかなって思っている時期だったので、普通にいつものキャスティングを考える感じで、橋本さんを主役にできればいいなって思ったんです」

 ほぼ「一人劇団」だった時代が長い根本はどんな俳優がいるのかといったことに常にアンテナを張り巡らせている。橋本についてもそう?

根本「映画は見てましたし、『あまちゃん』が異常に好きでした(笑)。映画は物凄い数に出られているので、“これにもあれにも出てるんだ”という感じで見てました」

根本宗子(作・演出・出演)

 根本作品の面白さは?

橋本「最初に見た作品が、『今、出来る精一杯。』という作品。それを見た時の年齢とか、その時の自分の状態と作品のシリアスさみたいなものがすごく合っていたということもあったんですが、本当にいろいろ、うまくて。私は演劇に詳しくなかったんですが、それでもやっぱり、“超うまいな”って思って、すごい尊敬しました。それだけじゃなくて、若々しいエネルギーみたいなものがあったし、情報量がすごく多かったんです。私は音楽でもお芝居でも、ひとつのことをミニマムにずっとやるというよりは、いろんな軸があって、いろんなことが混ざっているものを見るのが好きなほうなので、そんな好みに合っていた、というのはあります」

根本「そう言っていただけるのは単純にうれしいです。私は中学高校時代に年間120本くらい演劇を見ていた時期があるんですが、当時は今より演劇が盛んだったというか…。見る人の数も多かったんですが、2011年の震災の後にお客さんがすごく減ったんです。そういう状況をどうにかしたかった。演劇を見ない層に届くように情報量を増やして、届きやすいようにということはそれくらいから意識していました。『今、出来る精一杯。』は確か震災の後に書いたんですよね。何を書こうってすごく考えていて。“やっぱりこれは書いちゃいけないんじゃないか”とか、クリエイターみんなが思ったいろんなことを普通に私も感じていたんですが、それがすごく形としてうまくいったのが、『今、出来る精一杯。』なんです。言いたいことと演劇的手法がうまく混ざり合った感覚は作っていてありました」

 今回の作品は2014年に初演した『夢も希望もなく。』を元にした新作。初演を見てどんな感想を?

橋本「最初は10年前と10年後という設定が明かされていなかったんですが、会話がミックスされていくなかで“何を見せられているんだろうな?”って思いながらも、どんどん読み解かれていく面白さみたいなところは、本当にうまいと思いました。そういうことをしようとして、けっこう穴があるお芝居も見てきたので、それが全くないのが完璧だな、本当に頭がいい人なんだなって思って(笑)。あとは、その話自体は突き詰めていくとすごくミニマムな世界なんですけど、それがその小ささに留まらないというか、すごく大きく見えた。若々しい衝動とか行動みたいなエネルギーもありながら、それでもどこか大人の目線があるというか、演劇を俯瞰して見ている視点がちゃんとある。のめり込んでいるように見せて、すごく大人っぽい視点なのを感じて、この作品も、根本さん自身も、すごく厚みがある方なんだなって。それは私の中では魅力的だなってすごく思う要素でした」

 出演が決まって以降、2人が顔を合わせたのはチラシの撮影のみ。まっさらな状態で稽古場で再会。稽古にあたって準備してきたものってある?

橋本「全くないですね。1カ月前、1週間前から脚本を渡されていればなにかあったでしょうけど、それもなかったので、準備のしようがなかった(笑)。だからふらっと入ってきた感じです」

 不安は?

橋本「不安というか、未知すぎるので、得体のしれないものに飛び込むというふわふわした感じはありますけど。不安とか恐怖ってあまりプラスには働かないので、なるべく鈍感でいようというところはあると思います。だからフラットに入ることができて良かったと思います」

 そういう感覚は映画やドラマでも?

橋本「結構ごまかしています。だましています自分を。多分怖がっているところはあると思うんですけど…。そう、認めないというか(笑)。それを実感しちゃったら終わりだと思っているので。私は気が弱いので、それを認めたらなにもできなくなっちゃう」

 根本宗子って演出家としてはどんな人?

根本「主宰で演出しなければいけなくて、一応真ん中に立たないといけない人がぶれぶれだったら、みんながどうしていいか分からなくなっちゃうので、役者さんとコミュニケーションを取る時も、そこのぶれはないようには気をつけています。だから“胃が痛い…”みたいなことは家でしか言わない(笑)。私も稽古初日が一番好きじゃないんです。稽古は好きなんですよ。演劇にかかわる仕事は基本的に楽しいんですけど、稽古の初日はいろいろあるじゃないですか。いろいろな役者さんが来るし。人の話を聞くのが好きなので、なるべく話を聞きたいんですが、全然喋らない人がいたらどうしようかな、とか家で考えるので、そういう悩み的なものは毎回ありますけど」

 作品は夢を追い、地方から上京してきた2人の少女の人生が才能の欠片もない1人の男によって大きく左右される物語。
 橋本、プールイ、玉置玲央、鬼頭真也、そして根本が10年前と10年後の男女とその女友達を演じる。

根本「女の子2人の要素が強いお話になっています。女性って2人いるところに1人入ってきて3人になると、絶対うまくいかないんです」
橋本「(笑)」
根本「絶対2-1に分かれて、その2-1の組み合わせが年々変わるというだけで、その繰り返し。誰か一人がちょっと置いていかれるという現象は多分子供から大人まで気づいていないかもしれないけど、女性はみんな起きています。という気がしています。幼なじみでとっても仲のいい2人が東京に出てきて、東京で知り合った女が1人入ってきたせいで関係が徐々に崩れていくんですが、なるべく、その子が崩したんだということが分からないように、その子が嫌われ役にならないように、誰も悪くないのに自然とそうなってしまって2人の距離が離れちゃったということにしたいなと思っています」

 根本はふだんは稽古前にはだいたい脚本があるのだが、今回は…。

根本「まだあがってないです。珍しいです。ニュースタイルです(笑)」

 忙しかった?

根本「違います(笑)。忙しくてもちゃんと書きます(笑)。今回はある程度は書いているんですが、ちょっとずつ稽古に持ってきてやってみようかなって思っているんです。メーンになる4人が全く初めましてというのは本当にこの作品の初演以来なんです。あの時は私を含めた3人以外全員オーディションという超まれな公演だったんですが、稽古で役者さんを見て何度も何度も書き直して、すごくいいものができた。ギリギリになることはないと思うんですが、最初の1週間くらいはなるべく、“渡しては読んでやってみて”を繰り返していくほうがいいかな、と思っています」

橋本愛(舞台初出演)

 初舞台で脚本がないのは大変では?

根本「初日の3日前に脚本が完成するとかありえない現場もありますが、そうならなければ脚本が全部あってもなくても大変さは変わらないんじゃないかな。自分も役者をやるので、脚本が1ページもあがってこないときはなにもやることがなくて、どうしよう…って焦りも生まれてくるんですけど、毎日ある程度脚本が来て更新されていくと、そこまで不安じゃない。意外と最後が分かっちゃうと芝居を逆算して作ることになるので、そういうことをみんながしないという、どこに行き着くのか分からない状況でやってぽろっと出た芝居のほうが良かったりすることがあるので、今回はそういう新鮮さを大事にしていこうかな、と思っています」

橋本「そうなんですね、今回はニュースタイルで(笑)。でも私はやっぱり、稽古の1カ月前に脚本が来たところで台詞は覚えるけど、それ以上のなにかが出てくるわけでもないので、多分今回のようなこれからどこにたどり着くか分からないという状態のほうがすごくしっくりきていていいなと思います」

 最初に長い期間だと飽きちゃうかもと言っていた。性格的に?

橋本「飽き性なので、基本的に同じことを続けられないというか(笑)。映画の現場も1カ月で限界みたいなくらいの感じ。もちろんやりますけど、ワクワクがなくなるというか、そういう感じがあって、最後のほうは修行僧みたいになるんです」
根本「無になる?」
橋本「そうです。無の境地になるんです。でも初めて飛び込む世界に最初から飽きたくないというか、もっとやりたいと思って終わりたいというのはあったので、今回は本当にちょうどいいなって思うんです」

 あらゆるタイミングが合った。

橋本「でも根本さんとだったら1カ月の公演でもやってましたけどね」

 今回、橋本、プールイ、玉置、鬼頭をキャスティングした理由、意図は?

根本「ちょっとちぐはぐというか、普通の人だったらあまりキャスティングしない、自分の現場だからこの人たちが共演したというものにしたかったんです。全員第一希望のキャスティングなんですけど、それがまずすごくうれしい。やっぱり年々演劇がすごい保守的なキャスティングになっているのは事実で、大きな舞台になればなるほどそうなっちゃうんですよね。まあいろいろな事情があって仕方ないんですけど。そういうしがらみが今の自分にはないので、本当にやりたいと思った方にお声かけして、やりましょうってなったというのが、すごくなんかいいなと思っています」

 正直5日間7公演というのはちょっともったいない。

根本「日本の演劇って演目や役者さんより先に劇場を決めなければいけないんです。劇場の空きを抑えるのが何年も前だから。だから関係者の中にも“もっと長くやっときゃ良かった”って思っている人も多いかもしれないです。いや、分かんないです(笑)。勝手な想像ですけど(笑)」

 再演のきかないキャスティング。橋本愛の初舞台ということもあり大きな注目を集めるのは確実。“大きな劇場だから”とか“SNSの評判見てから”なんて呑気に構えていたら、当日券で長~い時間並ぶはめになることは間違いない。 (THL・本吉英人)

月刊「根本宗子」第13号『夢と希望の先』
【日時】9月28日(水)~10月2日(日)(開演は水木19時、金土14時/19時、日14時。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前)
【会場】本多劇場(下北沢)
【料金】全席指定 前売5500円、当日5800円
【問い合わせ】月刊「根本宗子」(TEL:090-6000-3959 [HP http://gekkannemoto.wix.com/home
【作・演出】根本宗子
【出演】橋本愛、玉置玲央、プールイ、鬼頭真也、小野川晶、大竹沙絵子、長井短、墨井鯨子、鈴木智久、尾崎桃子、根本宗子

※前売り券が全ステージ完売。29日14時の回の追加公演決定。チケットは各プレイガイドにて9月16日(金)10時より発売開始。