監督・西川美和 × 主演・本木雅弘 初タッグの2人が紡ぐ、新しい家族の物語。『永い言い訳』

『ゆれる』『ディア・ドクター』『夢売るふたり』の西川美和監督が、『おくりびと』以来7年ぶりの映画主演となる本木雅弘を迎え、直木賞候補となった自らの小説を映画化。今回初タッグを組んだ西川監督と本木。実は2人は“運命の絆”で結ばれていた!?
撮影・蔦野裕
すれ違い続けた2人!?

 人気作家の津村啓こと衣笠幸夫は、妻が旅先で不慮の事故に遭い亡くなったという知らせを受ける。まさにそのときも不倫相手と密会中だった幸夫は、妻の死にも悲しみを装うことしかできない。ある日、幸夫は遺族への説明会で、共に事故で亡くなった妻の親友の夫・陽一と、その子供たちに出会う。ふとした思いつきで幼い子供たちの世話を買って出た幸夫は、彼らと過ごすうちに誰かのために生きる幸せを知るが…。

西川監督(以下:西川)「調和が崩壊していく物語は今までにも描いてたけれど崩壊の“その後”の物語を書いたことは無かった。だから今回は最初に崩壊から始まる物語にしようと思いました」

 その“崩壊から始まる物語”の主人公となるのは、妻を失った悲しみを実感できない男・衣笠幸夫。幸夫役の本木雅弘は、歪んだ自意識とコンプレックスを抱えながらも、どこか憎めず共感せずにいられない男を見事に体現してみせた。人間の表面と内面を巧みに描写する西川監督と、いくつもの難役で人間の複雑さを体現してきた本木。そんな2人が監督&主演としてタッグを組むことは必然だったのかもしれない。

本木雅弘(以下:本木)「僕は西川監督の『ゆれる』を見て、人間の内面をさらす躊躇のない演出や、その物語を自ら書いていることに非常に驚かされたんです。同時に、おそらく西川監督のような方は僕のような、ある種、偶像を生きてきて、その余波で役者になったようなタイプの演じ手は、きっと好きじゃないだろうな、と思いました(笑)。その後、僕が第52回ブルーリボン賞の司会を務めさせていただいたときに監督は『ディア・ドクター』の受賞で出席されていて、そこで初めて美人と誉れ高い西川監督の生のお姿を拝見しまして。その際に“いずれ何か役があったら”とご挨拶させていただいたところ監督のほうからも、こちらこそと社交辞令を返していただいたんですが(笑)、瞬間、やっぱり僕には興味ないんだろうなと察しました」

西川「悪く受け取り過ぎですよ(笑)」

本木「さらにその後、ある作品でついに声をかけていただいたかと思いきや、西川監督が所望したわけではなかったことが判明し…。やっぱり嫌われてんだなと確信しまして(笑)。そこを経ての今回、お話をいただいたので、なぜ私をと監督に尋ねたところ、師匠の是枝裕和監督に提案されたから、とのことで。やっぱり西川監督が望んだんじゃないんだ、と(笑)。でもそれを聞いて逆にちょうどいいと思いました。かねてより望まれてということだと変に気負ってしまったかもしれない。師匠が言うならちょっとつまんでみるか、くらいの低い期待度で“試食俳優”になってやろう、と思いました」

西川「今のが“証言1”です。これから私が“証言2”を語ります」

本木「『羅生門』ですか(笑)」

西川「本木さんは、私が小学生のころからアイドルグループで活躍されていて、クラスの女子たちも夢中になっていた存在でした。私自身はそれほどアイドルに熱狂するほうではなかったのですが、メンバーの中ではもちろん本木さんが一番好きでした(笑)。その後、周防正行監督の作品などでお芝居を拝見して、恵まれた外見でありながら人間的な体温を感じる方だな、と思っていました。かわいげとか面白みみたいなものを、この外見にして出せる人はあまりいない。じたばたする役なんて合うのでは、と思っていたんです。それで最初のデビュー作で、詐欺師の兄という役を書きまして本木さんにやってもらえたらと思ったのですが、弱冠28歳の映画監督の初長編作に出ていただけるはずもなく。当時のプロデューサーからは、いつか本木雅弘と仕事ができるように頑張れと言ってもらいまして、私としてはいつかは…という気持ちがずっとあったのです。でも本木さんは本木さんで、どんどん株を上げ、いろんなキャリアを積んでいく。これは本木さんに限らずですが、今この俳優にどの役をあてたら新しいか、というタイミングがあるんですね。で、ある作品で本木さんのお名前がまた上がってきたんですが、私が書いていた役どころとはイメージが違っていたんです。結局このときにお話が中途半端になってしまい、こんな失礼をしてしまったらもう二度とご一緒する機会を頂くことはないかもしれない、と思いました。今回も、自分のなかで本木さんをあきらめていたところがあったのかもしれません。一向に幸夫役が思い浮かばずにいたところ、是枝さんから“僕の知るかぎりでは、本木さんは非常にこの役に近いパーソナリティーの持ち主だと思うよ”と教えていただきました。幸夫に近いってどうなんだろうと思ったんですが(笑)“でもなぜか憎めないんだよ”という言葉で、心が決まりました。確かにこれまで書いてきた役のなかで一番、本木さんに演じてもらいたい役が書けたという自信がありましたので、ついにお願いしたんです」
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