待機児童問題最大のパラドックスとその打開策 【鈴木寛の「2020年への篤行録」 第51回】


 11月27日放送のBS日テレの討論番組「深層NEWS」に教育経済学者、中室牧子さんとご一緒に出演いたしました。テーマは「いまなぜ教育無償化か」。先の衆院選で、政権与党が教育無償化や待機児童対策を含む「2兆円パッケージ」を公約に掲げたことから、その意義や妥当性について議論しました。

「2兆円パッケージ」は11月末時点で、2兆円のうち8000億円が幼児教育と保育の無償化に充てられ、認可保育所に通う3〜5歳児は全て無償という方向性になっています。

 私が提案したかった待機児童対策は、総額2兆円ある児童手当のうち、3歳以上の中高所得者家庭の児童への給付はやめて、まず0歳から2歳までをメインターゲットにした小規模保育園の「おうち保育園」への機関補助に回すとともに、0歳から2歳までについては児童手当を月額3万円に増額することです。

 番組では、中室さんが機関補助の充実が一番必要だと指摘されており、その通りです。ただ、選挙公約としては、「無償化」をスローガンとしたほうがキャッチーだったでしょう。それでも、保育士や教員の確保が難しい都会では、親御さんに人材確保のための若干の追加負担をご理解いただく必要もあります。都道府県によって、本当に事情がバラバラです。国と自治体が、しっかり協力して、より洗練したスキームを作らねばなりません。

 一番の難問は、待機児童対策をすればするほど、待機児童が増えるというパラドックスです。受け皿づくりを進める政府の想定は約32万人ですが、民間の調査では、70〜88万人程度の試算もあります。実際、都会はなかなか新規に保育所を増やせません。そこで、このパラドックスを、緩和する解は、0歳から2歳までの児童手当を月額5万円くらいまで思いきり引き上げることと、職場の働き方改革が不可欠です。育児休暇明けも半日労働または在宅勤務を標準とするなど、職場復帰と子育ての両立を円滑にするためのきめ細かな対応と支援が必要です。

 これにより、0歳から2歳まではしっかり児童手当がもらえる、3歳からは、保育所又は幼稚園(預り延長保育含む)で、質の高い教育を実質無償で受けることができるという成長する権利の保障と安心感を、すべての子どもと保護者が持つことができます。その観点から、地方の保護者はお金、都会の保護者は受け皿がたらないのですから、それぞれ政策のカスタマイズが必要です。

(東大・慶応大教授)
東京大学・慶應義塾大学教授
鈴木寛

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。

山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。

2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。

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