【インタビュー】岡田将生「こんな“痛男”を好演できるのはこの男だけ!? 」

 最新主演作『伊藤くん A to E』で岡田将生が演じるのは自意識過剰で無神経、自分の都合のままに女性たちを振り回すモンスター級の“痛男”! 誰も共感できないようなこの役を演じられるのは彼だけ、とメガホンをとった廣木隆一監督が言うとおり、『悪人』『告白』のヒール役でも絶賛された、俳優・岡田将生の真骨頂を見せる!

撮影・蔦野裕 ヘアメイク・池上豪(NICOLASHKA) スタイリスト・大石裕介(DerGLANZ)コート(9万5000円/Scye)、ジャケット(7万5000円/SCYE BASICS)、シャツ(3万3000円/Scye)、パンツ(2万9000円/Scye)、シューズ(6万5000円/Paraboot)、ソックス(スタイリスト私物)

「“こんな人と関わりたくない”とか“コノヤローと思った”とか、あまりの言われように舞台挨拶のニュースを読んだ親から、共演者の方に嫌われたの?と心配されました(笑)」と苦笑する岡田将生。都合のいい女“A”島原智美(佐々木希)、自己防衛女“B”野瀬修子(志田未来)、愛されたい女“C”相田聡子(池田エライザ)、ヘビー級処女“D”神保実希(夏帆)、そして自分の脚本づくりのために彼女たちが“伊藤”に振り回される様子を観察するつもりが、しだいに自身も“伊藤”に追い詰められていく崖っぷちの脚本家・矢崎莉桜(木村文乃)。そんな女性たちを翻弄するモンスター級の“痛男”を演じた感想は?

「撮影中は日によって、ときには午前と午後で入れ代わり立ち代わり、異なる女優さんを相手に芝居をする日々を送っていました。例えば連続ドラマだと3カ月ほどの撮影期間中、一人の女性を一途に思い続ける役を演じたりしますけど、今回はまったく逆。遊び人ってこういう感じなんだと思いました。メンタルが強くないといけないんだな、と(笑)」

 容姿端麗だが自意識過剰で無神経、関わる女たちの人生を翻弄する男・伊藤誠二郎。そんな伊藤に対し岡田自身、当初は否定的だったとか。

「僕は役を演じる際、基本的に台本からくみ取ったものを最終的に現場で監督と作り上げていくんですが、伊藤というキャラクターはある意味“制限のない”人物で、どう演じようと伊藤になるという、これまで出会ったことのない役どころでした。どこまでも狂っていけるし、どこまでも淡々とできる。人物を表現するのにフィールドからはみ出してはいけない部分ってあると思うんですけど、それが無いのに近い。今回初めて、相手のセリフを聞かずに演じたりもしました。普通は相手のセリフや芝居を受けながら演じるものですけど、伊藤は自分だけの世界に生きている人なので相手の話を聞かなくても芝居が成立してしまうんです。自分はこれまで役作りに対して硬く考えすぎていたのかも、と考えさせられもしましたね。伊藤のことを考えれば考えるほど、こんな考え方ができる人っていいなと、あこがれすら抱くようになっていたんです。撮影中は心のストッパーが外れていたみたいで僕自身も少し変でした(笑)。いつもなら気にかかってしまうようなことも別にいいやと思えたり。そういう意味で、伊藤からいい影響も受けたのかもしれません。実際、演じていても楽しいですしね。今までやってはいけないと言われてきたようなことができるので、毎日刺激的でした(笑)。ただ先日、原作者の柚木麻子先生と対談させていただいたときそんなお話をしたら“伊藤を肯定的な目で見るなんておかしいです”と言われてしまいましたけど(笑)」

 岡田が表現するモンスター級の痛男っぷりがリアルで思わず“あるある!”とうなずいてしまう。
「どうにでも演じることが可能な人物ですが、廣木監督からは“意外とどこかにいそう”という部分は必須だと言われていました。大きな芝居でもコメディーとして面白いかとも思ったんですが、監督から無茶な話だが伊藤のモンスター級の痛さを抑え気味の芝居で出してほしいと言われまして。難しいとは思いましたが、抑えたなかにも後に残るウザさ、みたいなものを出せればいけると思い、そこからは伊藤として自然に“いる”ことができるようになりました。それに僕自身はモデルにした人物はいませんが柚木先生はモチーフがいるとおっしゃっているので、本当にこんな人間いるんだと思いつつ(笑)、実際いるんだから、と安心して演じることができました」

 痛みを伴うことも必死になることもしない伊藤は、俳優としてがむしゃらになれる岡田とは真逆だが…。

「僕自身ががむしゃらになれることと言ったらやはり役者の仕事。始めたころはこんなに続くとは正直思っていなかったんですけど、今も夢中になれるし飽きもしない。少しは頑張ってやってきたからこそこういう面白い役とも出会えたんだと思います。この仕事は、どうしたってリングの上にあがらないといけないので“痛い”思いをすることなんて毎回のようにあります。だからこそ伊藤のような生き方を興味深く思ったんでしょうね。なんだこいつ、と思いながらも、たまには伊藤みたいに逃げていいのかも、と(笑)」

 とはいえやはり伊藤は反面教師にしておきたいところ。とくに自己中すぎるデートでの行動!
「そんなNG行動ありましたか? 伊藤ってけっこうちゃんとエスコートして…ないか(笑)。ラーメン屋で済ませようとしていましたしね。でもラーメン屋とか牛丼屋に一緒に行ってくれる女性って素敵だと思います。あ、でも先日友人が“数カ月ぶりの彼氏とのデートで牛丼屋に連れてってもらった”って言ってたんですよね…泣きそうな顔で。やはり人の恋は勉強になります(笑)。あとは年齢的にもドレスコードのあるような店でデートできるようになりたいです。2人で頑張ってドレスアップしたり、屋台で焼き鳥を楽しんだり。そういうの、あこがれますね」

 甘い苦いも恋にはつきもの。

「伊藤と出会い自分たちのダメな部分と向き合い、彼女たちはもがきながらも成長していく。恋愛は人を成長させるもの。人を好きになることはすごくいいことだと思うんです。5人の女性たちのうち、どこかしら当てはまる部分があると思うので観察したり共感したり反面教師にしたり、楽しんでもらえればうれしいです。この映画が上手くいったら“Z”までやりたいですね(笑)」

(本紙・秋吉布由子)

©「伊藤くん A to E」製作委員会
『伊藤くん A to E』
監督:廣木隆一 出演:岡田将生、木村文乃、佐々木希、志田未来、池田エライザ、夏帆他/2時間6分/ショウゲート配給/1月12日(金)より全国公開 http://www.ito-kun.jp/http://www.ito-kun.jp/