“ホラー免疫”の無いポーランドで生まれた傑作ホラー


 美しき肉食人魚姉妹が、歌声と美貌で男たちを引き付けては餌食にする、異色のファンタジーホラーミュージカル! 日本では昨年の東京国際映画祭での上映を機に早くから話題を呼んでいたが、アグニェシュカ・スモチンスカ監督いわく「最初まったく理解されなかった(笑)」という。

「実はポーランドでは、もともとホラー映画の文化が無く誰も見ないし作らない。この作品も完成までかなり苦労しました。配給会社にデモ映像を見せたらセックス描写には何も言わず、肉食シーンを見て即“このシーンはカットしてください”って(笑)。もちろんそういうオーダーはすべて拒否しました。なぜならこの作品がユニークで魅力的であるのは美しさと残酷さ両方の側面を備えているからなのです。ホラーとポエム、リアリズムとファンタジー、それらが一体となっているのが本作の重要な点なのです」
 もともと、この作品は80年代のポーランドで、大人の社交場としてにぎわっていた“ダンシング・レストラン”で育ったヴロンスキ姉妹の半生を映画化しようというところからスタートしたという。
「しかし製作が始まってから一カ月ほどして、姉妹の一人から“プライベートな側面をさらけ出したくないので、私たちの名前を出した伝記にはしてほしくない”と言われたんです。そこで、話し合ううちに脚本家から人魚のアイデアが出てきて、結果、当時のダンシング・レストランの雰囲気を生かした大人向けのおとぎ話になったのです。人魚という設定に決まってからは、その造形をどういうものにするか、すごく考えました。私がイメージしたのは半分で人を魅了し、もう半分で人に害をなすクリーチャー。美しくもどこかグロテスクな下半身や、人を襲うための歯を持っている女性たち。歯は、ヴァンパイアのようにはしたくなくて試行錯誤の末に、やはり魚、ピラニアの歯を参考にしました。言うなれば我々の人魚はモダンな人魚なんです」
 モダンな人魚、美しき姉妹シルバーとゴールデン。“餌”を求めて陸に上がった2人は、とあるナイトクラブにたどり着き歌とダンスで人々を魅了していく。しかし姉シルバーが人間の青年に恋をしたことから、人魚の残虐な本性が暴走し…。
「姉妹役の2人マルタとミハリーナにはオーディション後も、人魚であるときの下半身の動かし方や陸に初めて上がったときの動きなど、レッスンを続けてもらったんです。振付師とレッスンを重ねてもらいました。重い下半身をリアルに動かしたり刺激的なシーンも多く、大変だったと思いますが見事に、人魚の本性を内側から表現してくれたと思います」
 他にも出演陣にはキンガ・プレイス(イエジー・スコモリフスキ監督作『アンナと過ごした4日間』)、ジグムント・マラノヴィッチ(ロマン・ポランスキー監督作『水の中のナイフ』)、マグダレーナ・チェレツカ(アンジェイ・ワイダ監督作『カティンの森』)などポーランドの巨匠作品の常連でもある名優たちが名を連ねている。
「実はオファーした段階で断られた役者さんも少なくなかったんです。もともとホラージャンルの下地が無い上に、官能描写もありミュージカルもあって、ジャンルが分からない、しかも初監督作ですから俳優も警戒しますよね(笑)。でもマラノヴィッチさんなどは最初から“これはヒットするよ”と太鼓判を押してくれていたんです。ポーランドでこんな映画が生まれたのも出演者全員が私を信じてついてきてくれたおかげです。本作を機にポーランドでもホラーファンが生まれたとは思うんですが、今後もどんどん作られるかは難しいところですね。私はすっかりホラーの楽しみにハマってしまいましたけど(笑)」
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『ゆれる人魚』
監督:アグニェシュカ・スモチンスカ 出演:キンガ・プレイス他/1時間32分/コピアポア・フィルム配給/新宿シネマカリテ他にて公開中(R15+)
http://www.yureru-ningyo.jp/http://www.yureru-ningyo.jp/