ダイアン・クルーガー その迫真の演技にカンヌが揺れた! 映画『女は二度決断する』

 ネオナチによるテロで家族を失った女性の苦悩を圧倒的なリアリティーで描く、名称ファティ・アキン監督最新作映画『女は二度決断する』で新境地を切り開き、第70回カンヌ国際映画祭で見事、主演女優賞を受賞したダイアン・クルーガー。題材となった実際の悲劇とどう向き合い、壮絶な役どころを演じ切ったのかを語る。
撮影・蔦野裕/スタイリスト・石川TOCCI仁司/ヘアメイク・大木利保
 ダイアン・クルーガーといえば『トロイ』や『ナショナル・トレジャー』といった大作映画のヒロイン役で人気を博した美人女優の代表格。そんなダイアンが、最愛の家族を失い苦悩にさいなまれていく女性を演じ、カンヌ映画祭では見事、主演女優賞を受賞。その壮絶なまでにリアルな演技力はハリウッドでも絶賛。ダイアンの新境地として話題を呼んでいる。

「たまたまこれまで本作のような役が降ってこなかったというだけのことだと私は思っています。こういう芝居ができるなんて意外、とか言う声があっても私は気にしないわ(笑)。人の言うことを気にするということは自分のことを人から制限されるということだし。ただ確かに5年前だったら、この役はできなかったとは思います。それは女優としての力量がどうとかいうことではなくて私自身の人生経験がこの役を演じるには不足していただろうから。それだけ、カティヤは自分のすべてを捧げなければならない役だったんです」

 トルコ系移民の夫ヌーリと結婚し息子ロッコと3人、幸せに暮らしていたカティヤ。しかしある日、ヌーリの事務所前で爆発が起こりヌーリとロッコの命を奪われてしまう。しかし最愛の家族を失ったカティヤが直面したのは、ヌーリに疑惑の目を向ける警察や無理解な周囲、そして残酷すぎる裁判での応酬だった…。本件は、実際に起きたドイツ警察の戦後最大の失態といわれる、ネオナチによる連続テロをモチーフとした作品。ダイアンも何十人もの遺族に会い話を聞いている。

「これだけの悲しみを抱えた人と直にお会いするというのは、とてもハードな経験でした。でも支えを必要としているのは私ではなくて、実際に被害に遭われた方々です。彼らの話を聞きながら“私”をすべて捨ててこの役に挑まなければならないと思いました。こう見せたいという虚栄心だったり、こう演じようという野心だったり、そういうものを一切はぎ取って、彼らの心の痛みを受け入れることが私にとって何より大事なことでした」

 この役を演じることができるか不安だった、とダイアン。

「私自身が経験していることではないし、母親でもないので、想像で演じるしかない。でも失敗したくもなかったし、女優の芝居を見せつけるようなこともしたくなかった。ファティからカティヤのバックグラウンドについてきちんと教えてもらいましたが、それとは別に自分自身なりの“入り口”を見つける必要がありました。それでテロ被害者の自助グループに参加し、彼らの話を実際に聞くことにしたんです。どの話にも衝撃を受けましたが、私は特に残された者が抱える罪悪感が印象的でした。例えば、子供を迎えに行くのが遅れなければ、とか。また、心の痛みにはいくつかのステージがあり、人はその数々のステージを経ていくのだということも興味深く感じました。しかし結局、痛みの抱え方というのは、一人ひとり違うのです」

 意外にも本作は母国語ドイツ語で挑んだ初めての長編作品。

「もともとそんなに言葉のこだわりは無いんです。ただやはり母国語以外での芝居は難しい。ユーモアや言葉の裏を理解するのは相当な語学力が必要ですからね。でも感情自体は世界共通のものだから、そこに言葉の壁を感じることはありません。だから私は映画が好きなんです(笑)」


撮影・蔦野裕
 今後、役で挑戦してみたい言語は。

「日本語と言いたいところだけど、…たぶん無理だわ(笑)」

 本作でメガホンをとったのはベルリン、カンヌ、ヴェネチアという世界三大国際映画祭すべてで主要賞受賞経験を持つドイツの名匠ファティ・アキン。自身もトルコにルーツを持つだけに、監督もまた本作に並々ならぬ情熱を注いでいた。

「かなり演出が厳しかったので、私はとにかく監督についていくのみ、でしたね(笑)。俳優としての虚栄心や自意識は一切捨てろと常に言われていました。監督は生の私を見たかったんです。私も、心身ともに準備をして現場に臨んだつもりでしたけど、それでも髪を振り乱し精神的にも丸裸にされていくのは簡単なことではありませんでした。もちろん本当の私自身は安泰だということは頭では分かっているんです。でも年をとればとるほど自分自身をさらけ出すのは難しくなるんですよね。自分のすべてを人前にさらけ出すというのは人間として本来、不自然なことでもありますし」

 観客はカティヤが想定もできないことに次々と直面し、ショックを受け狼狽し、傷つく姿を、まるでその場に立ち会っているかのように見つめることになる。一度目、そして二度目の“決断”まで…。

「私も最初に脚本を読んだときはショックでした。どうやってこの境地に至ればよいのか、とも思いました。でも確かなのは、役者は自分の演じる役を断罪してはならないということです。自分自身が人物の正否を決めてはいけない。そう思った時、自然と受け止めることができました」

 東京は本作のツアー最終地点。

「そう思うと感慨深いですね。本作は私にとって特別な作品になりましたから。ツアー当初は非常に感情が揺さぶられがちでした。というのもカンヌでの上映があったのは、マンチェスターでの爆破事件があった2日後でしたから。それでも、この作品は良い“映画人生”を送ったと思います。さまざまな舞台で賞を頂いたことで、多くの人の心に残る作品となることができました。そういう意味でも評価していただいたことは感謝しています」
 決断は“二度”あった。それが意味するのは、カティヤが本来テロや殺人などとは無縁の、我々と変わらない女性だったということ。それがダイアンを通してリアルに伝わってくる。  
(本紙・秋吉布由子)
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『女は二度決断する』
監督:ファティ・アキン 出演:ダイアン・クルーガー、デニス・モシットー、ヨハネス・クリシュ他/1時間46分/ビターズ・エンド配給/4月14日よりヒューマントラストシネマ有楽町他にて公開 http://www.bitters.co.jp/ketsudan/