【インタビュー】尾上右近が現代劇に初挑戦!「新しい経験にワクワクしています」

撮影・蔦野裕(以下、すべて)
 最近はバラエティー番組などにも出演、人気急上昇中の歌舞伎俳優・尾上右近。勝手が違う世界に戸惑っているかと思いきや…?

「素の自分を出さなきゃいけないので、人間力が試されている気がします。バラエティーでは特に自分をいいタイミングで出す瞬発力が必要だと思いました。出さなきゃいけないけど、出さないという出し方もある。その辺り自由なので楽しいですが、まだ全然慣れませんね」

 彼の名前が一躍有名になったのは、2017年『スーパー歌舞伎II ワンピース』の公演。本番中に負傷した四代目市川猿之助に代わり、同公演に出演していた右近が終演まで主役を務めあげた。

「昨年猿之助さんの代役をさせていただいたことで、多くの方に知っていただけるようになったと思います。その舞台を務めたことで、今までどんなことを感じて何をしてきたのか改めて分かりましたし、その上で今自分に足りないものが何なのかもよく分かった。あのような状況で知っていただくということはあまりない事ですが、自分としてはこれまで通りやっていくだけだと思っています。自分はもともと歌舞伎役者の家に生まれたわけではなく、歌舞伎役者をやりたくて、自分で選んでやっているので、まだまだやりたい事がたくさんあります。大きな夢もあるし、経験してみたい事もいっぱいある中で、自分の事を知っていただき、新しいお仕事ができるのはすごくうれしいと素直に思います」

 右近の家系は華やかだ。父は清元宗家七代目清元延寿太夫で、曽祖父は六代目尾上菊五郎。さらに、従兄弟に十八代目中村勘三郎、祖父に昭和を代表する映画スター鶴田浩二を持つ。

「曽祖父が歌舞伎役者だったので、歌舞伎にはすごく近い環境の中で育ちました。その中で、小津安二郎監督が撮った『鏡獅子』という映画をたまたま3歳の時に見て、それをやりたいと強烈に思ったんです。鏡獅子というのは歌舞伎舞踊で、曽祖父の六代目尾上菊五郎がその映画の中で、それを踊っていた。それやりたいがために舞踊や歌舞伎の稽古を始めましたし、自分が今ここにいるすべてのきっかけが、その曽祖父の踊りを見たことでした。うまくは説明できませんが、本当にすごく強烈にひかれて、その役をやりたいという気持ちになったのを今でもはっきりと覚えています。もともと、清元という邦楽の家でしたので、その稽古も始めて、どんどん古典的なものにものめり込み、子役として歌舞伎の舞台に立たせていただく機会もいただくようになりました。その中で演じる事の楽しさにも目覚め、そこからずっと役者でありたいという気持ちが続いています。右近という名前を襲名させていただいた時は、自分の思いがつながったなと思いました。それに関しては運もあるし、タイミングもありましたが、自分はとても恵まれているなと感じますね」


 歌舞伎の舞台から、さまざまなフィールドに活躍の場を広げている右近が次に挑戦するのが現代劇。7月6日から新宿・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで公演される『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』に出演する。

「現代劇の舞台に初めて挑戦させていただくのですが、すごく楽しみです。まだまだやりたい事、経験したい事がいっぱいある中で、新しい事ができることにワクワクしています。歌舞伎の場合は稽古が4日とか5日間だけなんですね。それは古典でやったことのある演目や、みんなが知っている演目をやることがほとんどなので、全体稽古はちょっとした調整や確認ぐらいの意味なんです。それぞれに土台があるという前提でやるので、そんなに時間は要さない。しかし、現代劇は一から創り上げていくので、1カ月ぐらい稽古時間があります。それだけでも新鮮ですし、まったく想像がつきませんが、その想像がつかない状態も含め、すごく楽しみですね」

 右近が演じるのは幼い頃のトラウマと戦争による負傷が原因で、薬物依存症になった過去を持つ青年・エリオット。

「現代社会におけるネット社会と、コカイン中毒や戦争といった問題を扱った作品です。ネット社会は僕らにとっても身近であり、逆にコカイン中毒や戦争はすごく実生活からは離れているものですが、そこに付随する人間の心というのは不変だと思うんですね。人の心、悩み、思い、そういう部分は誰もが持っているし、共感できる。想像ができないことと共感できることが融合している作品だと思います」

 ピューリッツァー賞戯曲部門賞受賞作である同作の翻訳・演出を手掛けるのは劇作家、演出家として数々の受賞歴を持つG2(ジーツー)。

「G2さんが演出した『東雲烏恋真似琴(あけがらすこいのまねごと)』という新作歌舞伎を以前拝見したことがあって、その印象が強く残っています。人間が作った人形に魂が入り、人間を翻弄していくというストーリーで、ゾッとしたのを覚えています。自分たちが作ったものに、自分たち自身が振り回されるというのは、科学の発達とともに人の心や思いと離れていくということを意味するのですが、やはりそこには常に人の心が普遍的につきまとう。そこが今回の作品と共通するのではないかと感じています。またその作品は、今までにない新しい歌舞伎という印象がとても強かったです。実際にお会いしたG2さんは、すごくとらわれない方だなと思いました。あれもありだし、これもありだし、ドンと来いと。しっかりした軸がある方なので、こちらがぶつかっていくことで、いろいろなものが膨らむんじゃないかと思います。“どうしたらいいですか?”ではなく、“こうしてもいいですか?”と、どんどん聞いていきたい。お芝居に対する思いなどもうかがって、人間としてぶつかっていける方だと感じました」

 歌舞伎のスケジュールも多忙な中、新たな挑戦となる舞台が楽しみだと語る右近に意気込みを聞いた。

「5月は27日まで『スーパー歌舞伎II ワンピース』の公演があったので、6月から稽古に入ります。現代劇も初めてなら、長丁場の稽古も初めて。また女性キャストがいるという状況もなかなかないので、自分自身どんなものができるかとても楽しみです。歌舞伎をご覧いただき、僕を知って下さっている方は、見守るような不安な気持ちもあると思います(笑)。しかし、その声援は僕の支えになっているので、それにちゃんと応えられるように新鮮で真っ直ぐな気持ちで、新たな挑戦として、一生懸命務めたいと思っています。また、G2さんやほかのキャストの方のファンで、僕の事を知らない方もたくさんいらっしゃると思います。その方たちに受け入れてもらえるかどうかは、僕の努力と気持ち次第だと思います。ですからそこにぶつかっていく気持ちで、恐れずに踏み込んでいきたいと思ってます」

(TOKYO HEADLINE・水野陽子)


『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル~ スプーン一杯の水、それは一歩を踏み出すための人生のレシピ~』
【日程】7月6日(金)~22日(日)【会場】紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA(新宿)【料金】全席指定 8000円(税込)/U-25チケット 4000円【問い合わせ】パルコステージ(TEL:03-3477-5858=月~土 11~19時/日・祝 11~15時【URL】http://www.parco-play.com/