シェアエコノミーの先駆者が語るシェアリング事業の展望と成功術

「起業特論Aトップリーダーマネジメント」第6回講師:重松大輔氏『大企業→スタートアップ転職→スペースマーケット創業について』(2018年5月18日実施)

文部科学省が推進する「グローバルアントレプレナー育成促進事業」に選定されている「WASEDA-EDGE人材育成プログラム」の一環として、早稲田大学では毎回、注目のトップリーダーを講師に招く特別講義「起業特論Aトップリーダーマネジメント」を開講(全8回)。第6回目の講師は、新規事業を起こすためにNTTを飛び出し、現在では株式会社スペースマーケットの代表取締役社長を務める、重松大輔氏。



私が起業のアイデアを見つけるまで
「私は早稲田大学法学部を卒業し、2000年にNTTに入社しました。今年は航空会社と金融系が就職ランキングの上位にいるそうですが、私が早稲田を卒業した当時はNTTが最も人気があった会社でした。なぜ私がNTTに行こうと思ったかというと、簡単に言うと、不安だったからです。私が学生だった時代はめちゃめちゃ就職をするのに苦労した、いわゆる就職氷河期の時代でした。また、ベンチャーだとかスタートアップなどは怖いと思っていました。

 NTTに入って最初にびっくりしたのは、平均年齢が55歳くらいだったことです。社員のバックグラウンドも、元船乗りの方などさまざまな人がいて面白かったです。また、定時にみんな必ず帰っちゃうような超ホワイト企業だった記憶があります。NTTでは主に法人営業企画やプロモーションなどを担当していました。面白かった仕事は、お相撲さんのプロモーションを担当して、ブログをやった仕事でした。当時、芸能人ブログというのはまだなく、私が作ったブログが芸能人ブログの走りということで、かなり話題になりました。大企業でよかったと思えたことは、20代前半の人間でも億単位のお金を動かせるという、かなりダイナミックな仕事ができたことです。
 ただ、NTTにいて思ったことは、大企業はどうしても自分の肌に合わないな、ということでした。やっぱり新しいことをどんどんやりたかったんですね。NTTをはじめとする大企業は出世したい人にはお勧めなんですが、新しいことをしたいという人には別のステージで活躍した方がいいと私は思います。

 そうしてNTTを退職して、フォトクリエイトというベンチャー企業に参画しました。その会社で新規事業をバンバン立ち上げました。その中で、結婚式の写真販売ビジネスを立ち上げたんですが、そこでの体験が起業につながっています。まず、なぜ結婚式の写真販売ビジネスかというと、結婚式業界では、式場による写真ビジネスに大きく改善の余地があると思ったからです。例えば昔は、自分で知り合いのカメラマンや希望のカメラマンに撮影してもらいたいと式場に言うと、お持込料10万円いただきますなどと言われ、式場指定のカメラマンにそのまま依頼すると20万円、30万円もかかるといった状況があったんです。しかも20万円30万円も払ったのに、そのお金の多くは式場が収めて、カメラマンにはほとんど行かないところもありました。そしてこのインターネットの時代に、撮った写真が届くまで2カ月も3カ月もかかるという、デジタル化がかなり遅れた業界でもありました。なので、業界のゆがみを直すことができればかなりのビジネスになると確信していました。

 このビジネスを立ち上げた時に、さまざまな式場に行って話を聞いたりしてました。そこでインタビューをしていた時に、式がない時間、式場がもったいないんだけど何か方策はないかなどと相談されました。また、会社の会議室が普段使われてないのを見てもったいないなと思っていました。からっぽで使われていない場所って、もったいないな、と思いながら周りを見てみると、廃校や空き家が増えていることに気づきました。少子高齢化でこれからこういう空きスペースもどんどん増えてきます。そこで使っていない時間、空いている場所を活用できるようにしたいなと思うようになり、スペースマーケットを立ち上げることにしました」



シェアリングエコノミー参入は今からでも遅くない
「スペースマーケットでは、レンタルスペースのマーケットプレイスをやっています。簡単に言うと、スペースの貸し手と借り手をマッチングさせるプラットフォームです。Airbnbのレンタルスペース版だと考えてもらえばわかりやすいと思います。スペースマーケットでは、ロケーションや時間単位、目的などでスペースを検索して、決済まで行うことができます。私がスペースマーケットを立ち上げる前は、会議室検索サイトみたいなものが何十サイトもありましたが、検索して予約・決済までできるものがありませんでした。ですが、世界的には、検索して予約・決済まで行え、利用者のレビューも見ることができるプラットフォームという波が確実に来つつありました。日本にはそのようなプラットフォームの波がまだ来ておらず、例えると穴が開いていた、というような状況でした。そこでスペースマーケットを立ち上げたわけです。

 私が属している業界はというと、大きい括りで言うと、シェアリングエコノミーということになります。シェアリングエコノミーと一口に言ってもプレイヤー(事業者)はいろいろあり、シェア×空間、シェア×スキル、シェア×モノ、シェア×移動、シェア×お金といった分野に分けることができます。
 空間のシェアには、我々の空きスペースやAirbnbの民泊、あとは駐車場のシェアなどのビジネスがあります。現在、空間のシェアではさまざまなプレイヤーが出てきてしのぎを削っている状況です。スキルのシェアで行くと、クラウドワークスやココナラ、AsMama(アズママ)、タイムチケットなどがあります。クラウドワークスなどで仕事を受注して働いている学生も最近増えてきていると聞いています。
 物のシェアの領域では、ついに私と同世代のメルカリの社長がついに上場したというニュースを聞きました。メルカリを使った人はかなりいると思います。起業をこれからやってみようかなと思う人もこの中にいると思いますが、もし起業することに少し不安がある方は、まずメルカリで100万円売り上げることをやってみるといいと思います。メルカリで100万円売り上げられれば商売をするスキルは十分身につくと思います。ハードルが低いのがシェアリングの長所なので、何かしらの商売をシェアリングのプラットフォームを使ってやるといいと思います。

 移動のシェアでは、Uberをはじめたくさんのプレーヤーが出てきつつあります。お金のシェアでは、クラウドファンディング事業をやっているMakuake(マクアケ)などがあります。シェアリング業界の外観としてはこんなところだと思います。
 実は私は、シェアリングエコノミー協会という業界団体を立ち上げて、代表理事を務めています。新しい分野でビジネスをするためには、ルールのないところにルールを作る、ということが大事になってきます。そのルールを作るときに、同じ分野の人たちで集まり共同でルールを作ることで、それぞれ自分の立ち位置がわかったりします。シェアリングの社会は、確実に近づいてきています。まだ協会が立ち上がってから4年しかたっていないので、シェアリングに興味がある人は、今から入ってきてもシェアリングの専門家になれると思うので、興味のある方には、ぜひ飛び込んできてほしいと思っています」



いい企画を実現する営業・人脈術
「最後に学生の皆さんに、いい企画を成し遂げるための心得をお伝えしたいと思います。今日は2つお伝えしておきたいと思います。いい企画を成し遂げるために大事なことは、“営業”と“人脈”です。

 まず、営業についてですが、いい企画を実現するためには、初めに大手、トップ企業からさえていくことが重要です。大手、トップ企業を抑えるためには、その業界のことを深く理解し、経営者の視点に立つ必要があります。業界を深く理解すると同時に、時流を読むために業界関連ニュースを徹底して観察していくことも重要です。そして、大手、トップ企業にアプローチするときは、そこのトップ、決裁権者と直接コンタクトを取ることにこだわりましょう。最終的に営業の成否を左右するのは、執念深さです。とにかくしつこく、やれることをすべてやり、24時間考え続け、勝ちにこだわり、なりふり構わず動き続けることが一番大事です。そこまで必死に実現しようとすれば、必ずその企画は成功すると思いますし、実現しようと色々と試行錯誤する中でその企画もブラッシュアップされ、素晴らしい企画になっていくと思います。

 次に人脈です。この講座を取っている皆さんは、人とのつながりがどれだけ大きなパワーを持っているのかを理解していると思います。つながりを保つためには、会社の仲間・先輩だけでなく、外の友人も大事にしましょう。どれくらいの塩梅で交流すればいいかというと、4:6くらいがちょうどいいんじゃないかなと思っています。また、つながりの維持だけでなく、つながりを広げることも忘れないようにしましょう。スポーツや地元、音楽、趣味など何でもいいので、仕事以外のネットワーク・活動を積極的にもちましょう。今はソーシャルメディアが十分に普及しているので、定期的に発信するのもいいかもしれません。思わぬところから意外な人脈が広がるんです。上司、先輩、先生、兄弟などのメンターを持つことも重要です。経験のある人、やりたいことを理解してくれる人から定期的にアドバイスをいただける関係性を持ち、企画をブラッシュアップする手伝いをしてもらいましょう。

 人脈を考えるうえで一番重要なのが、義理人情浪花節です。面倒を見たり見られたりするのが人生です。後輩、仲間の面倒はきちんと見、受けた恩義は忘れないことは、基本ですが、重要です。まさかの時に本当に頼りになれる、そんな懐の深い人物になっていってほしいなと思っております。皆さんの活躍を願っています」

重松大輔(しげまつ だいすけ)
株式会社スペースマーケット代表取締役社長
1976年千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒。2000年NTT東日本入社。2006年、株式会社フォトクリエイトに参画。一貫して新規事業、広報、採用に従事。国内外企業とのアライアンス実績多数。2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、株式会社スペースマーケットを創業。一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し代表理事に就任。Japan night2015優勝など受賞歴多数。