早稲田政経が入試で数学必修化のインパクト【鈴木寛の「2020年への篤行録」第60回】

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 少し前のことですが、早稲田大学が政治経済学部の入試で数学、記述式、英語スピーキングを含む4技能の必修化を発表しました。同学部の入試はこれまで外国語(英語等から選択)、国語、選択科目(日本史、世界史、数学)の計3科目で受験してきました。

 これは、まさに日本の私立大学の文系入試の典型的な仕組みです。現行の入試制度だと数学が苦手な高校生は文系科目だけで受験し、早稲田のような名門の私立大学にも合格できました。しかし、2021年度入試からは、高校1年生レベルの数学Ⅰ・Aは受験しなければいけません。受験生はもとより学校関係者、予備校関係者に大きく衝撃を持って受け止められました。

 数学必修化を主導した政経学部の須賀晃一学部長は、「数学を多用する経済学はもちろん、政治学でも統計・数理分析など数学が求められている分野が増えており、数学的なロジックに慣れ親しみ続けてほしい」と、改革の狙いを述べられています(7月22日・東洋経済オンライン)。

 私は4年前、ダイヤモンドオンラインの連載で、過去に数学を課さない早稲田の入試形態について、「マークシート型の知識偏重入試の象徴」と厳しく批判申し上げました。日本史や世界史の入試では、さながら“科挙”のように用語集のマニアックな内容を暗記していないと解けない難問・奇問もありました。実際に早稲田の総長にも苦言したこともありましたが、この度の早稲田政経の数字、論述、英語スピーキングの3点セットの改革は、両手を挙げて大賛成し、関係者に心から敬意と謝意を表したいと思います。

 学びというのは、先ごろの学習指導要領で掲げたように「知識や技能の習得」「思考力・判断力・表現力の育成」「主体性・多様性・協働性といった学びに向き合う力」の3要素が重要です。数学と論述があれば、思考力や判断力、表現力を問うことができますが、これまでの慶應を除く私立文系入試の多くが「知識の習得」を促すマークシート方式に偏重しすぎていました。

 数学、論述が必修化されれば、敬遠する受験生も当座は出てくるでしょう。しかし、何のために何を学ぶのか?よく考えてください。人工知能に最も仕事を奪われるのは、暗記人間なのです。前例のない社会の難題に向き合い、未来を描くことのできる人材を育てる上で、学際的な視点、思考力を養う重要性はますます高まります。早稲田政経の英断の意味と意義を、すべての受験生、教育関係者に深く考察していただきたいものです。

(文部科学大臣補佐官、東大・慶応大教授)

東京大学・慶應義塾大学教授
鈴木寛

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。

山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。

2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。

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