栄冠は誰の頭上に輝く? 仏大会レビュー&ファイナルのポイント【フィギュアGP 2018】

紀平梨花(写真:ロイター/アフロ)

フランス大会:冷静な紀平、逆転優勝のネイサン・チェン

 グランプリシリーズ最終戦の今大会。男子ではアメリカのネイサン・チェン、女子では紀平梨花が2戦連続の優勝。両選手ともグランプリファイナル進出を決めた。
 
 紀平は冷静だった。ショートプログラムでは冒頭に予定した3回転半ジャンプが抜け1回転半とされて、その要素は無得点に。それでも、コンビネーションジャンプや後半に入れた3回転フリップは綺麗に降り、ミスを最小限にとどめた。翌日のフリースケーティングでも冒頭の3回転半はやや傾いた着氷になる。その次も3回転半からのコンビネーションを予定したが、ここは切り替えて2回転半にすることを選択した。最初に高難度の要素を組み込めば、そこだけに気持ちが集中してしまうことも少なくない。3回転半に縛られずに最後までまとまった演技ができる、紀平の強みが生かされた大会となった。

 三原舞依はショート1位で折り返すも、フリーで一歩及ばず2位。フリーで最後に跳ぶ3回転サルコウが2回転になるなど、細かいミスが足を引っ張ってしまった。ファイナルに進むには優勝が必須であっただけに、この順位は悔しい結果。けれども、今シーズンは初戦からコンスタントに総合200点台を記録、実力をつけてきた。次は年末の全日本選手権で、四大陸や世界選手権をかけた戦いに挑んでいく。

 3位はアメリカのブレイディ・テネル。昨シーズンの全米女王が、今シーズン2大強国である日露に割って入った。長い手足を生かしたダイナミックでスピード感のある演技が持ち味で、昨シーズンに全米を制して以降トップ選手への階段を駆け上がっている。

 平昌五輪銀メダル、ロシアのエフゲニア・メドベージェワは4位に。今シーズンからカナダに拠点を移し、ブライアン・オーサーコーチの指導を受ける。ロシアとカナダではスケートにおける流派が異なり、環境にすぐ順応するのは難しい。これまで表彰台の頂点に君臨してきたメドベージェワの成績が伸びにくいのも、その変化の真っ最中であるからにほかならない。ファイナルを逃したショックは大きいが、これまでエッジエラー判定に悩まされた3回転ルッツをフリーで正確に降りるなど、成長点は確実にある。

 本田真凜は6位。こちらも今シーズンは新天地・アメリカで練習を重ねる。前戦のアメリカ大会で足を痛めたことが心配されたが、今大会ではショートとフリーともにシーズンベストを更新する出来で復調をアピール。もとからの魅力である滑らかなスケーティングもパワーアップしている。今後の伸びにも期待だ。

ネイサン・チェン(写真:AP/アフロ)

 男子は、ショートでアメリカのジェイソン・ブラウンが1位に。ショートではプログラムに4回転ジャンプをあえて組み込まず、3回転半までのジャンプや質の高いスピンといった要素で戦う選手だ。特にキャメルスピンでは男子には珍しい柔軟性が光る。昨シーズンのオフ、女子のメドベージェワ同様にカナダのオーサーコーチのもとへ移籍。スケーティング技術やプログラムの完成度をより高め、ショートの得点は今大会で96点台へ乗せた。4回転がなくともトップ選手と十分張り合えることを証明している。

 チェンは、ショートでブラウンにトップを譲ったが、フリーでしっかりと巻き返し、逆転優勝を果たした。軽微のミスはあれども全てのジャンプを降り、3つのスピンでも最高難度のレベル4を揃えて意地を見せた。ファイナルではいよいよ、宇野昌磨と直接対決する。羽生結弦や宇野に比べ、チェンは演技構成点にやや伸びしろがある。シーズンも中盤になり、プログラムがどこまで仕上がってきたかに注目だ。

 田中刑事は8位。今シーズン、ジャンプがなかなか揃わない。要素が着実にはまりさえすれば、演技全体を個性的に魅せる力は持っているだけに、ここまでややもったいない試合が続く。ただ、フリーでは2.63点の出来栄え点のついた綺麗な流れある3回転半ジャンプも決めていて、光明は指している。この調子で復活の手ごたえを得たい。

宇野昌磨(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

いよいよ、グランプリファイナル! 栄冠は誰の頭上に輝く?

《グランプリファイナル 男女シングル出場選手》

◆男子シングル◆
宇野昌磨(日本)、ネイサン・チェン(アメリカ)、ミハル・ブレジ(チェコ)、セルゲイ・ヴォロノフ(ロシア)、チャ・ジュンファン(韓国)、キーガン・メッシング(カナダ)

◆女子シングル◆
宮原知子(日本)、紀平梨花(日本)、坂本花織(日本)、アリーナ・ザギトワ(ロシア)、エリザベータ・トゥクタミシェワ(ロシア)、ソフィア・サモドゥロワ(ロシア)

第6戦フランス大会を終え、グランプリファイナル進出者がこのように確定した。

 男子は、宇野、アメリカのチェンがそれぞれグランプリ2戦とも優勝してファイナルを迎える。高難度の4回転ジャンプを備え、平昌五輪前からファイナルや世界選手権の舞台でしのぎを削ってきたふたりは、各シーズンベストも他選手に比べて突き抜けている。その頂点に立つには、ジャンプのみならず、スピン・ステップやスケーティング、技と技のつなぎまでを磨いた演技が必要になる。今シーズンの世界最高得点(総合得点)は羽生がもつ297.12点。総合300点台を目指すトップレベルの戦いになりそうだ。ここへ、チェコのブレジナやロシアのヴォロノフ、韓国のジュンファンがどこまで食らいつけるか。これらの選手も、着氷の美しいジャンプや雄大なスケーティングなど魅力にあふれる。ジュンファンもまた、カナダを拠点にオーサーコーチのもと練習している17歳。初めてのファイナルだ。

 羽生は、ロシア大会で痛めた右足首の影響で欠場を発表。怪我と向き合う時間が決して無駄でないことは、五輪で連覇した羽生自身がこれまで示してきた。復活を待つのみだ。ファイナルには羽生に代わり、繰り上げでカナダのメッシングが出場。地元カナダでの躍動なるか。

 女子は日本とロシアからそれぞれ3選手が進出して、またしても大混戦が予想される。ここまでグランプリ2戦で優勝したのは紀平と、平昌五輪女王のザギトワ。しかし、グランプリで記録した得点合計を比較すると、この2選手を宮原(アメリカ大会優勝、NHK杯2位)が上回る(※)。各大会でジャッジが異なるとはいえ、実力が極めて拮抗していることがこの事実から垣間見れるだろう。フリーの4分間を全員滑り終えるまで、誰が表彰台にのぼるのかまったく予想がつかない。少しでも上位を確実にするには、紀平やトゥクタミシェワが持つ3回転半の成否や、回転不足やエッジエラーのないクリーンな演技ができるかどうかが鍵。安定した演技を前提にして、プログラム全体の細かいところまで神経を使えるかが運命の分かれ目になる。紀平に坂本、ロシアのサモドゥロワはファイナル初進出となった。サモドゥロワは紀平と同い年の16歳。同じくシニア1年目で大飛躍のチャンスをつかんだ。

※宮原、紀平、ザギトワのグランプリ2戦における得点合計
宮原:アメリカ大会 219.71点+NHK杯 219.47点=合計439.18点
紀平:NHK杯 224.31点+フランス大会 205.92点=合計430.23点
ザギトワ:フィンランド大会 215.29点+ロシア大会 222.95点=合計 438.24点

(文・尾崎茉莉子)

◆グランプリシリーズのスケジュール(日本時間)、出場予定選手

第1戦アメリカ大会(10/20〜22):宮原知子、坂本花織、本田真凜
第2戦カナダ大会(10/27〜28):宇野昌磨、友野一希、樋口新葉、山下真瑚、松田悠良
第3戦フィンランド大会(11/3〜4):羽生結弦、田中刑事、坂本花織、本郷理華、白岩優奈
第4戦日本大会《NHK杯》(11/9〜11):宇野昌磨、佐藤洸彬、山本草太、宮原知子、三原舞依、紀平梨花
第5戦ロシア大会(11/16〜18):羽生結弦、友野一希、松田悠良、山下真瑚、白岩優奈
第6戦フランス大会(11/23〜25):田中刑事、三原舞依、本田真凜、紀平梨花
グランプリファイナル(12/7〜10):第1〜6戦を終えた段階で、各カテゴリーのポイント上位6名が出場する