紀平梨花が圧巻の初優勝【グランプリファイナル レビュー 】

写真:YUTAKA/アフロスポーツ

圧巻の初優勝だ。紀平梨花が、ショートプログラムとフリースケーティングともに1位となり、初出場のグランプリファイナルで頂点に立った。

紀平はショートでは今シーズンの世界最高得点を記録、アリーナ・ザギトワの自己ベストを2点近く塗り替えた。冒頭の3回転半ジャンプに始まり、プログラムの最後まで美しい演技の流れが途切れなかった。1位で折り返し、迎えたフリー。1本目の3回転半はダウングレードで降り手をついた。それでも挑戦を諦めず、2本目の3回転半はコンビネーションにして綺麗にリカバリー。これまでの戦い方からすれば、ここのジャンプは2回転半に変えて着実に得点を取りに行くことも考えられたが、ファイナルというシリーズ最後の大舞台であることが紀平を突き動かした。

技術点のみならず、演技構成点の側面でも成長が顕著だ。演技構成点トップのザギトワには、ショートであと0.68点、フリーであと0.3点のところまで肉薄。特にフリーでは5項目中4つに9点台を並べた。「ジャンプだけではない」紀平の強さが、世界の舞台でも認められてきた証拠だ。

写真:YUTAKA/アフロスポーツ

ザギトワは2位。フリーに組み込んだコンビネーションジャンプでひとつ着氷が乱れた以外は、ほぼミスのない演技を揃えたが惜しくも及ばず。紀平との差は、3回転半の有無による基礎点の差や各要素の出来栄えにおけるわずかな点差が積み重なったもので、この大会がファイナルの名にふさわしいトップレベルを極めた戦いだったことがわかる。いつものザギトワの演技に比べると、今大会は技術や演技力の高さというよりも、プログラム構成の難しさからくる動きの忙しなさのほうがやや表に出てしまった。レベルの高い構成を最高の出来栄えで滑りきるには、技術的にも精神的にも安定して臨むことが不可欠。五輪女王はまた新たな試練を乗り越えようとしている。

3位には同じくロシアのエリザヴェータ・トゥクタミシェワが入った。一時は封印した3回転半を再装備して挑んでいる今シーズンは、これまでの不安定さを払拭するような好演技が続いている。ロシアでは若くして引退を決断する選手も多いなか、スランプを乗り越えた元世界女王が見せる貫禄や余裕ある演技は、後進にとって良いロールモデルになるだろう。これからも長く滑り続けてほしいと願わずにはいられない。

ファイナル初出場の坂本花織は4位。大舞台を前に緊張しながらも、どちらも自己ベストに迫る得点を記録。ショート70点・フリー140点の大台にきっちり載せた。五輪に出場して入賞を果たしても、現状の日本女子の厚い選手層の中でトップを張りつづけることは難しい。その意味で、今シーズンは坂本にとって踏ん張りどころだ。あと一歩だっただけに表彰台を逃したことは悔やまれるが、フリーでミスがあっても安定して得点を出せたことは収穫。実力は確実に上がっている。

続く5位はロシアのソフィア・サモドゥロワ。シニア1年目ながら、ノーミスを揃え自己ベストを叩き出した。スケーティングにはスピードがあり、パワーみなぎる個性的な演技が魅力。ただ、各要素の出来栄え点や演技構成点には伸びしろも見られ、今後の成長を見守りたい選手のひとりだ。

日本のエース・宮原知子は6位。ジャンプ改造を模索している真っ最中だが、今大会においては回転不足判定を複数とられ、得点が伸び悩む結果となった。ジャンプの質向上は継続して宮原の重要課題だ。それでも、プログラムをひとつの作品として美しくまとめあげる実力や、そんな演技に対するひときわ大きな会場の盛り上がりには決して劣りがない。フリーの最後に組み込む得意のレイバックスピンは、全ジャッジから満点評価を得た。今シーズンは、いよいよ年末に控える全日本選手権をターゲットに据える。勝負はまだまだこれからだ。

(文・尾崎茉莉子)