【徳井健太の菩薩目線】第11回 徳井健太に“ラジオの魅力”と“人間の魅力”を再確認させた空気階段

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第11回目は、2018年徳井的事象ランキング2位として、人間らしさが爆発する後輩芸人・空気階段について語る――。



 「やっぱりラジオっていいな」って、改めて思う機会があってさ。吉本の後輩に、空気階段ってコンビがいるんだけど、『空気階段の踊り場』(TBSラジオ)って冠ラジオを持っているの。

 彼らのことを知らない人もいるだろうから説明しておくと、ボケの鈴木もぐらが真性ダメ人間で、彼のダメっぷりを活かしたコントが魅力の面白いコンビなんだよね。もぐらは、昨年末にTBSで放送された『人生逆転バトル カイジ』にも登場していたから、なんとなく覚えている人も多いんじゃないかな。

 俺は空気階段のラジオが好きで良く聞いているんだけど、あまり日の当たることのないツッコミ・水川かたまりにまつわるエピソードが、今年の俺的ベスト・オブ・ラジオだった。

 こいつらのラジオのすごいところは、普通、若手の30分ラジオ番組なんて、用意してきた鉄板トークを披露するもんだけど、ダラダラとまるでベテランみたいにしゃべるんだよね。その日もいつものようにどうでもいい身の上話が始まったんだ。どうやら、かたまりは結婚を考えていた彼女と同棲していて、そのための資金を貯めていた……んだけど、様子がおかしい。

 「プライベートな話はしたくない」と拒否し続けるかたまりに、もぐらが業を煮やして「彼女と別れたんだよな? もう言っちゃえよ」と迫る。かたくなにかたまりは、「俺はそういう笑いはしたくない」と言う。すごいでしょ? 30分の貴重なラジオ番組で、笑いを差し引いて、どうでもいい話しかしないんだから。こいつらは売れると思うよ。

 話を戻そうか。

 もぐらの圧に屈して、かたまりは破局したことを認めるんだけど、フラれる形で終止符が打たれた、と。今年のキングオブコントにかけていたかたまりは決勝進出が叶わなかったその日、初めて酒に呑まれ、自暴自棄になった……らしい。“らしい”というのは、彼自身まるで記憶がなく、翌日目覚めると、そこには荒れた部屋と泣き続けている彼女の姿が飛び込んできた、と述懐する。寝起きの彼に、彼女は一言だけ「別れよう」と告げたんだって。

 かたまりは、ラジオでそのことをひどく後悔していると、号泣しながら言うんだよ。
結婚も考えるほど長年付き合ってきた大好きな彼女に、何を言ったかも覚えていない自分を責め、どうしてそんなことになったのか分からないと、ただただ泣くの。何度も言うけど、これって若手の貴重なラジオ番組だからね。もう人間劇場だよ。

 もぐらは、「今からでも遅くないプロポーズしろ。それをこの番組で流せ」って言う。さすがクズ。正真正銘の鬼畜。当然、かたまりは「ふざけるな」と怒る。結局、プロポーズをするんだけど、俺は途中から何を聴かされているのか分からなくてさ。何を聴かされているのか分からないけど、とにかくすごい熱量の人間感情が爆発してるの。

ああ、こいつ人間やってんなって姿は人に伝わるよね

 この結末は、今から『空気階段の踊り場』を聴く人もいるだろうから、自分の耳で確認してほしい。ラジオの魅力がほとばしっている。一般的には名の知れていない若手芸人が、地球の片隅で人間をやってんだなっていうことの尊さ。
聞き手が行間を想像してしまうラジオの面白さを、後輩に教えてもらった感じだよね。ありがとう、空気階段。

 やっぱり人間臭さって大事。闘争本能だって立派な人間感情だと思う。負けたくないって気持ちって伝わるじゃん。俺たちが賞レースに熱狂するのはそういうこと。ただ、「競争意識が必要なのか?」って言われるとちょっと難しいと思うんだよね。戦うってことに関しては、他者がいなくたっていいわけじゃん。負けたくない相手は自分でもいいし、よく分からない不気味なものでもいいと思う。爆弾とか作らない限りはさ。

 人間らしさが伝わることって、すごい大事なことだと思う。立ち向かっていく姿勢は必要だけど、立ち向かう=競争みたいに考えちゃうから疲れちゃうと思うんだよなぁ。人間らしさと競争は切り離していいんじゃないかなって思うよ、俺。

 俺は、人に興味はわかないけど、その人が人間やってるときのエネルギーって素晴らしいと思うの。感情が爆発してるじゃん? ああいうのを見ると、若返った気分になる。天然の皇潤、それが人間だよ。

 たとえとして正しいか分からないけど、ターメリックとかクミンとかコリアンダーとか細かいことはどうでも良くて、カレーそのものが好きみたいなさ。悲しいとか悔しいとかスパイスの分量はどうでも良くて、「うめぇ!」「辛ぇぇ!」ってことが伝わることが肝なんだよね。これはクミン多めで……みたいな、したり顔でクソ分析している奴らは無視して、感情を爆発させればいい。

 だから俺が蒙古タンメン中本が好きっていうのは、そういうことなのかもしれない。細かいことはどうでも良くて、爆発してるもん。甲子園とか警察24時とかザ・ノンフィクションって、蒙古タンメン中本だったんだよ。うん、何を言ってるのか、俺も分からないよ。

※「徳井健太の菩薩目線」は毎月10、20、30日に更新予定です!