松下浩二チェアマンに聞くここまでのTリーグの手応え

 卓球の新リーグ「Tリーグ」が2018年10月24日、ついに開幕した。2008年に構想が浮上してから10年という月日を経てのものだが、この間、日本での卓球人気は大きくアップ。大きな注目を集める中での船出となった。構想時から携わり、Tリーグ実現に奔走した松下浩二チェアマンにここまでのTリーグを振り返ってもらった。

昨年10月24日に行われた開幕戦のセレモニーの模様(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

世界ランク一桁の選手が負け越すレベルの高さ

 リーグがスタートして約2カ月半が経ちました。

「10月24日に開幕して、今日現在(編集部注:取材は12月21日)まで38試合を消化しました。開幕戦は24日に男子、25日に女子の試合を両国国技館で行ったんですが演出も良かったんじゃないかと思います。お客さんも2日間で1万人以上来場いただきました。開幕戦は良かったんですが、その後のレギュラーシーズンの試合で最初のうちはお客さんが少ない試合もありました。でもここ最近はちょっとずつ認知度が高まってきた感じがあります。木下マイスター東京の試合などは満員になる試合が増えてきました。沖縄の琉球アスティーダの試合もですね。徐々になんですが認知度が高まってきて盛り上がりが出てきているかな、というのは今感じています。選手については思った以上に一生懸命やってくれている。世界トップの選手が集まっているので、レベルの高い試合はしてくれるだろうとは思っていたんですが、私が思っていた以上にかなりいいプレーが多い。選手が一生懸命やってくれているので、そういったいいプレーが出ている。お客様が近くにいて、ある程度会場を埋め尽くしているという環境でプレーしているんですが、そういった中でやるとパフォーマンスも上がるんだなということも感じています。本当にレベルが高くて世界ランク一桁の選手が負け越しているし、全勝の選手もいない。4チームしかないんですが、上と下の差がそれほどない。男子は木下が1位なんですけど、勝つにしてもすごく接戦。簡単にさらっと終わる試合は本当に少ないですね」

 試合のレベルの高さがうれしい誤算とすると思っていたようにいっていないこともあるのでは?

「それは試合時間ですね。お客様とかテレビのことも考えて、2時間〜2時間15分で試合を終わらせるということを考えた中でレギュレーションを作りました。1番のダブルスでは3ゲーム制にして2ゲームを取れば勝ち。2〜4番のシングルスは最終ゲームは0−0ではなく6−6からスタートする、最後の5番は1ゲームしかしないといったことですね。マルチボールを採用して、ボールを拾いに行かずに副審がボールを渡してプレーの進行をスムーズにさせるようにしましたし、選手は審判がボールを渡してから20秒以内にサーブを打たないといけない。そういったルールを作ったのですが、長い試合になると2時間50分くらいになってしまったりしています。そうするとお客様も後半はちょっと飽きてしまったりする。また午後7時スタートの試合が多いことから、どうしても帰りの時間を気にして途中で会場を後にしなければいけないお客様もいるようです。放送に関しても試合途中で切れてしまって、最後まで放送できなかったということもありました。そういったところはもう少し考えないといけないところです。あとは試合時間をもっと短くしないといけないということにも関係してくるんですが、ハーフタイムをもっとうまく活用しないといけないと思っています。本来だと15分くらい時間を取って、そこでなにかしらのイベントなどもやっていきたいんですが、現状ではなかなかその時間を使うことができない。あとは変な言い方かもしれませんが、ファンがまだ根付いていないので、応援の仕方がバラバラになってしまっている。それは先導する人が出てくると変わって来ると思うので、今後解決してくると思います。あとは盛り上げ方もバラバラなところがある。そこも定まって行けるように導いていかないといけないかなとは思っています」

 松下チェアマンは現役時はドイツのブンデスリーガで長くプレーした。ドイツの応援などは参考になるのでは?

「ドイツは組織的に応援します。応援団みたいなものがあって、先導する人がいる。そしてその人の掛け声で周りのファンも同じようなかけ声とか動きをやっていくという感じでした」

 リーグは10月〜2月にレギュラーシーズンが行われ、3月にその上位2チームによるファイナルが行われる。カレンダーは来期以降もこのような感じ?

「だいたい秋から冬、春前までを考えています。どうしても春先は世界選手権というビッグゲームがあるので、そこにはかぶらないように、何とかその前には終わらせて世界選手権に選手には集中してもらいたいので、数年はこういう形を取っていくと思います」

松下浩二チェアマン(撮影・蔦野裕)

試合時間の長さが誤算!
プレー以外の時間の短縮を

 試合時間は2時間〜2時間15分というのがベストなんでしょうか? 長い試合でも会場は盛り上がっていますが。

「卓球をやられている方は長くても見ていられると思うんですが、一般の方は難しいですよね。いい試合をやっているから試合時間が長引くいうのは確かなんですが、時間が長くなっているところは、例えば1ゲームが終わると選手が監督のところに戻って1分間のコーチングを受けるわけです。その時間が長い。1番の選手の試合が終わって、2番の選手が入ってくるんですがその時間もまた長いんです。というようにプレーしている時間は長くはないんですが、コーチングを受けている時間や試合に入るまでの時間が少し長い。テニスみたいに1ゲームが終わって、コーチングなどを受けることなくそのまま2ゲームに進むような形であれば、もう10分くらいは確実に短くなると思います」

 11月25日に青山学院大学の体育館で開催された「木下マイスター東京vs岡山リベッツ」戦は3時間近くかかっていましたが、それほど長さは感じませんでした。でも確かに、終わった後に3時間だったと気づくと、次に来るのをはばかる人もいるかもしれませんね。

「そうなんです。開催する場所にもよりますけど。青山だと交通の便がいいのであまり気にしなくていいかもしれませんが、立川で開催する場合は午後10時を過ぎると特別快速がなくなるといった問題も出てくる(笑)。そうなると千葉のほうから来てくださっているお客様などは電車のことを考えると来にくくなりますよね」

 今シーズンは全国各地のいろいろな会場で試合を行っている。

「いろいろな方々に興味を持ってもらわないといけないですし、Tリーグというものを知ってもらうということで全国各地で開催させていただきました」

 来年以降は大都市での開催も?

「来季も今季と同じような形でいろいろなところでやります。試合数は2020年の東京オリンピックが終わってから増やしたいという考えは持っています。ある程度認知度なんかが高まったらホームゲームが中心になると思うんですが、ホームゲームが多いほうが運営などもスムーズになると思います。地方巡業をやると、どうしても設備とか設営に時間もお金もかかってしまうし輸送にも時間がかかってしまう。また新しい体育館でやると勝手が分からないので、視察や打ち合わせに行かなくてはならず、そこでも時間を取られてしまう。ホームだとそういった細かい煩わしさはなくなるので、ホームゲームを増やしたほうが、手間とか費用とかは押さえられるというのは確かなんですよね」

 チームに関してはしばらくは4チームで?

「これもオリンピックが終わってから増やしていきたいです。特に男子は世界ランクの高い選手が試合に出られていないので、チーム数を増やさないともったいない。上のレベルが高すぎて30〜40位の選手が普通にベンチに座ってあまり試合に出られない状況なんです」

 T1、T2とリーグを縦に伸ばしていくパターンと、T1を大きくと横に伸ばすパターンがあると思うがこれは同時に着手していく?

「まずは1部を増やしていくという感じですね。でも2025年くらいまでには3部くらいまでは作りたいと思っています」

 3月にファイナル終わった後、来シーズン開始まで時間が空く。認知拡大のための施策は?

「考えています。ファンに対してのイベントだったり、Tリーグ主催のスポット的な大会を合間に入れて、ファンが離れないようにして2シーズン目につなげていくということは考えています」

 松下チェアマンは2009年まで現役生活を送った。海外のプロリーグで活躍したが、日本では当時、プロリーグはなかった。片やサッカーはJリーグで盛り上がっていた。どういう気持ちで見ていた?

「うらやましいなと思いましたね。僕が最初プロになったときに日産自動車に移籍したんですが、その独身寮が横浜マリノスと一緒でした。なのでその変わりようは目の当たりにしていました。すごかったですよね。自転車に乗っていた選手が車に乗るようになり、国産車に乗っていた選手が外車に乗るようになった。寮の前に来るファンがどんどん増えて行って、“すごいな。卓球もこういうのがあったらいいな”っていうことは思っていました」

 昔に比べて注目度も上がり、人気も出てきた。これはひとえに強い選手が出てきたからだと思うんですが、Tリーグは育成にも力を入れていくようですね。

「Tリーグのように下から上までつながっているようなところは確実に強くなっていくと思います。やはり今、日本の卓球は強いですけど、親御さんたちなんかが頑張って、家に卓球台を置いたり卓球場を経営したりという方が頑張って子供を育てて強い選手にしている。でもそこはそこの世界で完結している。これがTリーグとなると上から下までが一緒なので、そうするとポテンシャルがある小学生がジュニアの選手にまじってすぐに練習ができたりということができるようになる」

(撮影・蔦野裕)

一貫した指導・育成体制で世界で活躍する選手を輩出

 ちょっと強い選手とやることで実力が伸びる?

「卓球は強い選手とやることによって自分の課題が見つかりやすくなる。“こういう技術が足りないんだな”とか、“自分より強い選手はこういう技術を持っているんだな”というのが肌で分かる。それを感じ取ったり、トップの選手の練習を見ることによって、真似をしたり得るものは大きいので、Tリーグのようなチームとかクラブが一貫した指導・育成体制を作れば継続的に世界のトップで活躍できる選手が育成できるのではないかなと思っています」

 卓球は技術の進化がものすごいと聞きました。

「昔まではどちらかというとサービスが有利でレシーブに回るほうが不利といわれていたんですが、今はレシーブから攻め込む技術がある。そういうのは昔にはないことですね」

 水谷選手クラスが、張本選手ら若い選手のチキータといった技術に手こずっているとも。

「手こずります。レシーブの技術は全然違いますね」

 チェアマンは42歳まで現役だった。これは特に長いのだが、普通は選手寿命はどれくらい?

「30歳くらいでピークを迎えると思うんですが、今はプロの卓球選手が多くなってきたので多分35〜36歳くらいまではやるのではないでしょうか。中には40歳くらいまでやる選手もいるかもしれない。国際的に活躍できるかどうかは別にして国内のリーグでプレーする選手はいると思います」

 今までは国際大会で活躍できなくなると“そろそろ引退かな”と思っていた選手がTリーグに参戦することも出てくる?
「そういう選手の受け皿にもなると思います。今までトップの選手は日本代表で活躍して、そこから外れたらもうプレーするところがなかった。目指しているところもないし。だからナショナルチームを外れたら辞めますよね」

 今後はテレビの解説なんかも強化しないといけない。解説ができたり記事を書いて伝えるということができる人が増えてくることが望ましい。

「昔は卓球に関係する仕事がそんなになかったので、卓球を辞めたら別の仕事に就かなければいけなかった。今は監督、コーチといった指導者からリーグの運営、メディアで解説をしたり記事を書いたりと、卓球というスポーツから仕事が増え続けているので、これからは卓球に携わる人がどんどん増えてくるんじゃないかと思います。それは卓球を引退した選手も含めてなんですが」

 日本代表が強いスポーツは国内リーグも人気が高いのは歴史が証明している。Tリーグは始まったばかりだが、代表の強さについては申し分なく、育成にも明確なビジョンがある。残された課題は周知徹底。松下チェアマンの手腕に期待が集まるところだ。(TOKYO HEADLINE・本吉英人)