赤坂で思い出す“激流下り”と青春時代
「東京に来て、ちょっとしてからあそこに行ったことがあるね」。赤坂見付の弁慶橋から紀尾井坂を上ると、右手にはホテルニューオータニ。吉川が行ったというのは、その上に帽子のように乗っている回る展望レストラン。映画『人間の証明』で印象的に使われた場所だ。
「『人間の証明』を映画館で見たのは広島にいた子供のころだったけど、それからもテレビの再放送で何度も見て、映画に出てきた絵柄を見ようと思って行ったんだけど、その景色は中じゃなくて外から見ないとダメだった(笑)。でもまあ、回るレストランにも行きたかったしね。広島にも小規模なのはあったけど、これだけ大きいのはなかったから」。そんな話をしながらさらに進むと、首都高速の上にかかる橋に出た。その脇には緑が茂り、急勾配の森のようになっている。「子供なら絶対、柵を乗り越えてここに入って遊んじゃうよ。危険だけど、俺も子供だったらやってる。ガキのころ、2、3回川で流されたこともあったからね。大雨が降った時、発砲スチロールみたいなデカイやつに乗っかってウワーッって激流を下ってたら、自分ん家の前を通り過ぎて海の近くまで流された。最後に鉄の柵みたいなのにぶつかって止まったんだけど、それがなかったらそのまま海を漂流するとこだった。ホント、子供って危ないよ。今だったらこの茂みの中に、1億の札束が入ったボストンバッグが落ちてるかも、なんて考えたりしてね(笑)」。吉川はそう言うと、いかにも無邪気に笑った。
紀伊国坂に突き当たり、通りを渡って左に折れるとなだらかな下りになる。吉川はシャドーボクシングのように手を構え、ステップを踏みながら軽やかに坂を下りていく。その先を右に折れ、弾正坂を進むと、左手にブドウの蔦をはわせたワイン屋があった。「このブドウ、にせもの?」。興味津々で一粒つまむと、「あっ、これ本物だよ!」。こちらの様子を見て、店からご婦人が出てきた。聞けば、数種類のブドウを栽培しているのだという。熟れたころにはトリが食べに来るからなかなか収穫できないとのことだが、「がんばってほしいね」と吉川。そしてご婦人との立ち話に別れを告げ、懸案の甘酒を飲みに豊川稲荷へと向かう。
ところで「甘酒は夏の飲み物」という吉川説だが、それは歴史小説を読んで知ったそうだ。「パソコンで調べたら甘酒は夏の季語で、暑くて食欲がなくなった時に栄養を取るために飲んだらしいんだよね。お茶の水のほうに江戸時代からやってる甘酒屋があるんだけど、江戸に仇を追いかけてきた武士が、とりあえず日々の糧を調達するために甘酒屋を始めて、仇が見つからないまま本職になっちゃったって(笑)。知り合いから聞いた話だけど、ホントかよって。だから今度はそれを確かめに行きたい」。境内にある茶店で飲んだ甘酒はコクのある甘さで、確かに元気になるような味だった。
その後は通称コロムビア坂(薬研坂)を下り、坂の途中を右折して、力道山が作った『リキマンション』に向かった。かつて赤坂の高級マンションとして名を轟かせた物件は、時が経っても相変わらずの存在感を見せていた。「20年以上前になるけど、ここの一室にこもってライブビデオの編集をしたことがあるよ。ディレクターに“吉川くん、居なくてもいいよ”って言われても、“俺は出来上がるまで絶対通う”と言い張って、廊下で寝たりしてたね」。そこには懐かしい思い出も転がっていた。建物も人も、歴史があればこそ美しいと、こんな時にふと思う。
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