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2006年11月28日

 

第9回 文京区駒込 六義園~小石川植物園

楽しもうと思う気持ちが見せてくれるもの

「中に入って反時計回りに進むとあるよ。鯉の餌売り場が」
 六義園に入る前から吉川は場所の説明を始めていた。さっそく袋に入った麩を買い込み、餌やり場へ。それにしても食らい付く鯉の形相はすごい。グロテスクなのが逆に笑いを誘い、吉川も大笑い。見学していたオバサマたちも「キャッキャ」と童心に返っている。初冬の公園には平和な時間が流れていた。

「やっぱりね、コンピューターなんかに囲まれて仕事してると、違うものに触れたいという欲求が出てくる。外の光を浴びて、自然に触れることでリセットしたいと思うのは、人間の本能だよ。海外だと、ちょっとした公園や丘なんかでも、天気のいい日はランチボックスを持ってピクニックしてる人たちが多いけど、東京の人はそういうことあまりやらないよね。緑の率はNYよりロンドンより実は東京都のほうが大きかったりするのだが、持ち腐れだね。若い連中にとっては爺臭いイメージなんだろうけど、そんなこと言うの、粋じゃないねえ。お婆ちゃんたちに交じって写生会してみたり、草木や鳥の名前教わったり。野郎同士で来たってなかなかオツなもんさ。一度来ると、けっこう皆さんリピーターになってさ、ミュージシャン連中なんかも、漏れなく“今度は女のコを連れてこよう”って(笑)。見せたいと思わなきゃ言わねえよねえ~」

 紅葉自体は、ぼちぼちといった感じだが、「秋がこないまま冬になりそうな気配もありで、このまま春まで飛ばして夏が来ちまうようじゃ、嫌だね。温暖化の影響か知らんけど、六義園は四季を刺し身で味わえるような楽園なんだから」。

 ゆく秋を惜しみつつ、にぎわう園内を歩きながら話を続ける。
「この間銀杏を拾ってたら、おばさんが“あっちのほうがたくさん落ちてるわよ”って言うのよ。落実山盛り状態なんだけど、皆さんやり過ごしちゃうからって。そりゃそうだわ、あっちのは実が小さいから誰も採らないわけで、俺を追い払おうたってそうはイカのナントカだ!てなことを言ったら、おばさん“あら、ばれちゃった”って(笑)」。そんなやりとりを、面白おかしく話す吉川である。

 六義園を後に、次に向かうのは小石川植物園。詳しい地図はないが「迷いながら行きましょう!」と、彼は率先して歩きだす。わざと曲がった路地で昔ながらの看板を見つけたり、静かな住宅街で『晃寿司』という店を発見して思わず写メを撮ったり、彼と歩く街はいつもの街とは違う面白味を感じる。見えるものに、見えない楽しさを発見する。見たいと思えば、いろんなものが見えてくる。

 小石川植物園の裏側に到着した。木々の間から吹き抜ける風が心地いい。「裏っていうのは、あやしい感じの建物とかあっておもしろいよね。路地歩きも我々クラスになると一風変わったのが好きでね、ただ壁が続いてるだけの路地とかにそそられる(笑)。だもんでここに来る時は、必ず裏から回るの」

 壁にはりついていたカマキリに「おまえ交尾できずに終わったか、残念だったなあ~。生まれ変わったら次は頑張れよっ!」なんて声をかけながら、正門にまわる。(このカマキリ、実際できなかった雄らしい。なんでそんなことがわかるのか? と聞くと、「交尾をすると死んじゃうの」だそうだ。昆虫博士か!?)。植物園でまず見せたいのも、「世界で初めて精子が発見されたイチョウの木」。つくづく妙なものが好きな人である。

(つづく)

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将来『晃司寿司』を目指す吉川のライバル店出現か? 残念ながら紅葉はまだ一部。四季よ戻ってこい! 餌に群がる、鯉、鯉、鯉!ぬめっとした口がすごい!

2006年11月13日

 

第8回 文京区駒込 六義園(その1)

見所は…ホラー映画のような鯉!?

「この間、銀杏拾ってきましたよ」
 路地裏歩きの達人は、拾いものの名人でもある。
「BARの呑み友達とふたりで運動をかねて六義園に行き、ベンチで昼寝してたらボコッと何かが落ちてきた。あれっ、銀杏じゃん!ってことで周囲を散策、落ちてる連中を拾って持ち帰り、殻を割って塩水につけ、しばらくなじませたら、乾かして炒って、BARの常連たちでウイスキーのつまみにした」

 今どき拾って食べる人もいるんだ…と思いながらも、銀杏拾いのノウハウを聞いてみた。食べている部分は種子の中身なこと、外側の臭い部分はしばらく土に埋めると分解されること、ただし有料公園で土を掘ると咎められるので注意が必要だ!など、携帯の写メで撮った銀杏の写真を見せながら説明してくれる。「良い銀杏は炒ると透明になってエメラルドみたいだよ」。聞いていると食べたくなる。自然の描写はいつもながらお見事だ。

 彼は公園を愛している。路地歩きを始めたころ東京都のデカイ地図を買って公園に印をつけ、「全部行こうと思った」。もちろんちゃんと理由があるのだが。
「公園には土があるからね。歩いても疲労度が全然違うから。舗装の道路を全部ひっぱがせと思うよね、歩道をね、歩道。俺は左足に爆弾抱えてるせいもあるけど、コンクリートから土に出たとたんに痛みがなくなる。人間、便利になることによって何かを失うんだって事を痛感するわけだな。昔の人はあたりまえに1日20~30キロ歩いてたわけでしょ。物質文明の進化は生き物としての人を退化させるばかりだな」

 土に触れると体が喜ぶ。ということは、都会で数十年生きた後も“はじめ人間ギャートルズ”感を残してるってことかも。秋の陽気の中、六義園に向かう道を歩きながら話を続ける。

「友人と来た時は、そいつが筑波大付属高卒で、この辺の地理には詳しいから任せろって、六義園から小石川植物園をまわった後、イチョウ並木がきれいだから東大に行こうって言い出したの。植物園の近くだからって。東大は小石川じゃないんじゃねえ?って言ったんだけど、近辺だと言い張る。“コウちゃん、着いたよ!”って行ってみたら東洋大学だとさ。まあ確かに略せば東大だから間違ってないと言えなくもない。っていうオチだったんだけどね(笑)。その後は護国寺に向かう途中で道に迷ったおかげで“鼠坂”という坂を見つけた。もしかして森鴎外の小説にあった坂じゃねえか!? 奴は“あれぇ…”とか言ってたけど、俺はちょい感激。迷ったからこそ出会えるモノがある。ってのが歩く楽しさでもあるわけだからね」


 六義園の緑が見えてきた。江戸時代に柳沢吉保の下屋敷として造成し、その庭は和歌の世界を表現したという都内でも屈指の名園だ。

「ここは春夏秋冬素晴らしいよ。春は桜、秋は紅葉、新緑の時期も、冬の雪景色もいい。冬だけはまだこの眼で見てないんだけど。何処を切ってもなんかかんかの構図になってね、スケッチブックとクレヨンを持って絵を描きに来るのもいい。鳥も多いよ、この間はカイツムリと川鵜が池の魚を食ってた。そうそうデカい鯉がうじゃうじゃいてね、餌をやると面白いよ、鯉が重なってバジャバジャバジャ~って水面にぶわ~っと出てくる。これはもうホラー映画。うわ~っ、気持ち悪い!とか言いながら、女の子たちが餌づけしてたり(笑)」

 ということで、次回は吉川による鯉の餌やりから、公園散策はさらに続く。

(つづく)

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本当はこれが見たかった!? 本郷・東大の銀杏並木 六義園の入り口付近。入ったとたんに日本情緒が 鯉以外に鴨も餌にむらがる池。一見の価値アリ