第9回 文京区駒込 六義園~小石川植物園
楽しもうと思う気持ちが見せてくれるもの
「中に入って反時計回りに進むとあるよ。鯉の餌売り場が」
六義園に入る前から吉川は場所の説明を始めていた。さっそく袋に入った麩を買い込み、餌やり場へ。それにしても食らい付く鯉の形相はすごい。グロテスクなのが逆に笑いを誘い、吉川も大笑い。見学していたオバサマたちも「キャッキャ」と童心に返っている。初冬の公園には平和な時間が流れていた。
「やっぱりね、コンピューターなんかに囲まれて仕事してると、違うものに触れたいという欲求が出てくる。外の光を浴びて、自然に触れることでリセットしたいと思うのは、人間の本能だよ。海外だと、ちょっとした公園や丘なんかでも、天気のいい日はランチボックスを持ってピクニックしてる人たちが多いけど、東京の人はそういうことあまりやらないよね。緑の率はNYよりロンドンより実は東京都のほうが大きかったりするのだが、持ち腐れだね。若い連中にとっては爺臭いイメージなんだろうけど、そんなこと言うの、粋じゃないねえ。お婆ちゃんたちに交じって写生会してみたり、草木や鳥の名前教わったり。野郎同士で来たってなかなかオツなもんさ。一度来ると、けっこう皆さんリピーターになってさ、ミュージシャン連中なんかも、漏れなく“今度は女のコを連れてこよう”って(笑)。見せたいと思わなきゃ言わねえよねえ~」
紅葉自体は、ぼちぼちといった感じだが、「秋がこないまま冬になりそうな気配もありで、このまま春まで飛ばして夏が来ちまうようじゃ、嫌だね。温暖化の影響か知らんけど、六義園は四季を刺し身で味わえるような楽園なんだから」。
ゆく秋を惜しみつつ、にぎわう園内を歩きながら話を続ける。
「この間銀杏を拾ってたら、おばさんが“あっちのほうがたくさん落ちてるわよ”って言うのよ。落実山盛り状態なんだけど、皆さんやり過ごしちゃうからって。そりゃそうだわ、あっちのは実が小さいから誰も採らないわけで、俺を追い払おうたってそうはイカのナントカだ!てなことを言ったら、おばさん“あら、ばれちゃった”って(笑)」。そんなやりとりを、面白おかしく話す吉川である。
六義園を後に、次に向かうのは小石川植物園。詳しい地図はないが「迷いながら行きましょう!」と、彼は率先して歩きだす。わざと曲がった路地で昔ながらの看板を見つけたり、静かな住宅街で『晃寿司』という店を発見して思わず写メを撮ったり、彼と歩く街はいつもの街とは違う面白味を感じる。見えるものに、見えない楽しさを発見する。見たいと思えば、いろんなものが見えてくる。
小石川植物園の裏側に到着した。木々の間から吹き抜ける風が心地いい。「裏っていうのは、あやしい感じの建物とかあっておもしろいよね。路地歩きも我々クラスになると一風変わったのが好きでね、ただ壁が続いてるだけの路地とかにそそられる(笑)。だもんでここに来る時は、必ず裏から回るの」
壁にはりついていたカマキリに「おまえ交尾できずに終わったか、残念だったなあ~。生まれ変わったら次は頑張れよっ!」なんて声をかけながら、正門にまわる。(このカマキリ、実際できなかった雄らしい。なんでそんなことがわかるのか? と聞くと、「交尾をすると死んじゃうの」だそうだ。昆虫博士か!?)。植物園でまず見せたいのも、「世界で初めて精子が発見されたイチョウの木」。つくづく妙なものが好きな人である。
(つづく)


