第10回 文京区 小石川植物園~護国寺
「人の感動に触れると影響されるね」
小石川植物園に着いた。午後の日差しは気持ちよく眼前の紅葉が散歩心を誘う。
サクサクサク。落ち葉を踏みしめながら一路『精子発見のイチョウ』に向かう。果樹エリアで見たことのない柑橘類を発見して「これ何?」と説明を読んだり、「こっちに変わった花が咲いてる!」と声をかけられたり、吉川と歩く園内は寄り道の連続だ。
「あれはプラタナス。デカイねぇ」。それにしてもなぜ木の名前をよく知っているのだろう?
「だって9年も歩いてるから。歩いてると木についてる名札をなんとなく見るし、仲間たちと歩いたりすると、誰かが自分の家の庭にあった木とか、小学校の校庭に植えられてたのを思い出したりするんだよね。人って懐かしいものを見ると“あーっ!”って言うじゃない。その人間の感動に触れると影響を受けるし、思い出を語り始めると人間ってテンションがあがるから、“へぇー、そうだったんだ”って覚えたりするよね」
感動に触れると影響を受ける。いい言葉だ。芝生には、昼寝する人や並んで座るカップルの姿も見える。
「俺は公園ってデートコースに最適だと思ってるの。流行りの店とか行くより全然しゃれてるよね。日曜日に早起きして、お弁当作って、弁当はここで食べようとか。こういうとこにふたりでいると、何も話さなくていい時間があるじゃない。清涼剤というか、洗われる感じ。何人かで歩く時に若い女の子たちも誘ったりするけど、最初はディズニーランドのほうがいいとか言いながら、キャッキャッ喜んでるからね。東京の人は、そういうの知らなさ過ぎ。消費するものが多すぎて追いつかなくなっちゃうのかね」
こっちこっち、と誘われて行くと、さまざまなシダが見本のように植えられていた。「俺はシダが苦手なんだけど…」。と、そこに野良猫が登場。吉川の足元に擦りより「にゃぁ」と鳴いた。彼の側には水道が。「何?お前、水飲みたいの?」。ちょぼちょぼっと水を出すと、猫は水道から直接水を飲み始めた。「うわっ、可愛い、シャッターチャンス!」。シダが苦手な理由を聞くのも忘れ、大人たちが全員携帯を取りだしてバシャバシャバシャ~ッと猫の撮影会。どんな大スターも動物に勝てないというのは本当なわけだ。
精子発見のイチョウは、園の中ほどに堂々とした姿を見せていた。「俺の精子も発見してほしいね(笑)」。さらに園内を進むと、今度はメタセコイアのエリアに出た。思ったより小ぶりだが…。「メタセコイア、ちょっとセコイア、みたいな(笑)」。こういうダジャレは聞き流したほうがいいだろう。
植物園の後は護国寺へと向かう。小石川の裏道に昔ながらの豆腐屋を発見して「こういう店の豆腐って旨いんだよね」とのぞいたり、筑波大学付属校の敷地内にある『占春園』の坂を登りながら「学校にこんな自然があるなんていい環境だよ」と感服したり、拓殖大学の古い講堂に「こういう建物、好きだなー」と感想をもらしたりしながら、鼠坂を通って音羽に出ると、護国寺は目の前。「尾崎(豊)の葬式をやった場所だから、このへんに来ると寄るんだよ」。木造りの本堂の風情はいいが、継ぎ足した新しい部分が残念そうな吉川である。
六義園からスタートした“都会のオアシス”を満喫する約2時間の散策コースはとりあえずここが終点。「冬もまたいいよ。東京に雪が降ったら六義園に行こうとか、思い出してくれたらうれしいよね」


