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2007年01月23日

 

第12回 江東区北砂 砂町銀座

河商店街は大人の遊園地

  街を歩けば小腹が空く。仙台深川公園を抜け、砂町銀座商店街にたどり着くと、吉川は明らかにうれしそうな様子になってきた。「こういうとこに住んでると、買い物、楽しいだろうね」。長い長い商店街には、惣菜屋や焼き鳥屋、八百屋、魚屋などがひしめいている。

「あ、これウマそう!」。店先をのぞきながらまず買い求めたのは『イカの唐揚げ』。100グラム198円はいかにも安い。「フリット食べるならレモン買わなきゃ!」。そう言うや否や、吉川の大きな体は商店街の雑踏に消えていった。追いかけると、すでにレモンを手に「こっちこっち」と手を振っている。「この饅頭、ウマいよ!」。教えてくれたのは、商店街の中ほどにある『小饅寿本舗』の『しっとりもっちり黒糖小饅寿』。1個10円のかわいい饅頭はオヤツにぴったり。やさしい甘さで、皮のもっちり感もイケる。「隣のお茶屋さんが店先でお茶を試飲させてるから、饅頭食べたら、お茶をクイっとやって飲み逃げしちゃう手もある(笑)」と、商店街の達人のようなことを言う吉川だが、もちろんよい子はそんな真似をしてはいけません。

 それにしても、一般的には男性は商店街に縁遠いように思うが、彼は違う。安くて旨いものが手に入るだけでなく、商店街にはある種の郷愁とこだわりがあり、そこが彼のハートにささるのだ。

「母親がこういうとこが好きで、近所にスーパーがあってもわざわざ遠い商店街に行って、魚は魚屋で、野菜は八百屋で買ってたんだよね。で、30分後に魚屋に魚を取りに行って来てと言われて自転車の後ろに乗っけて帰るんだけど、ガキのころは嫌だったなあ、格好つかねえというかね、遊びに遅れるしさ。でも、今になるとすごくいい思い出だな、そこの魚ウマかったし。デビューしてからはそういうとこに行きにくい状況もあったけど、麻布十番に住んでたころは十番商店街によく通ったよ。老舗が軒を並べててさ、こだわりを持ったおっちゃんやおばちゃんが生涯を懸けてやってるような店はやっぱりいい。意地とか誇りが感じられるでしょ? 商品というより作品だよねあれは。ファミレスで飯食うのとか便利でいい場合もあるけれど、できればマニュアル化されたものより手作りのほうが美味いしうれしいじゃない。商店街でおでんとコロッケと焼き鳥を買って食べるってさ、それこそ500円も使ったら腹いっぱいになるわけだけどさ、そういうの“豊か”じゃない? 身体にはもちろんだけど、それこそ心にもさ。何が格好良いのか悪いのかどうもねえ~価値観がおかしくなってるよなあ」

 商店街散策を終えた後は、近くの公園での買い食いタイム。ベンチの上に『イカのフリット』を広げると、レモンの端を食いちぎり、その上にジュワっと絞る。途中で追加したおでんの袋も開け、「こりゃあ~美味いぜ!」と食べまくる。「何人かで散策に出る時なんかは、店に入るより総菜買い集めて公園で食ったほうが盛り上がって楽しいよ。ハイキング気分だね」。実際この日も彼の言う通りだった。しかし同行スタッフはほとんどが男性。大の男が、小さな公園で、つまみを食べながら盛り上がっている。どうみてもアヤシイ絵柄だが…。「地回りのチンピラみたいだよね。俺なんか、ここいらじゃあ兄貴づらしてっけど、たいした器じゃねえ、みたいな(笑)。酒も飲まずに、イカにしっかりレモンかけて食ってるみたいな(笑)」。そしてその後は、お気に入りの深川の珈琲屋に立ち寄ってコーヒーを2杯飲み、夕暮れの町を終点の木場公園へと向かったのだった。

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砂町銀座商店街。とにかく楽しい! 人気の『小饅寿本舗』。お土産にも最適だ イカと小饅頭。外で食べると余計にウマい!



2007年01月08日

 

第11回 江東区 木場公園~親水公園

河童とハードボイルド

 木場公園は広大な公園だ。東京都現代美術館もあれば、植物園や子供用アスレチックや広々とした芝生もある。その芝生の上でバック転をやっている男がひとり。誰かと思ったら吉川だった……ということもたまにはあると彼は教えてくれた。「ツアー前とかね。俺がやってると子供が珍しそうに見てて、“オレもできるぜ”的なのが集まってきて真似するの。負けてらんないから俺も意地になってやったりして(笑)」。

 今どき外でバック転などやる大人はいないだろうから、子供たちが興味津々なのは当然だろう。しかし誰でもできるものではない。『よい子は真似しないでください』といったところか。

 今回の散策ルートは、木場公園から仙台深川公園、親水公園を通り、砂町銀座商店街を抜けて木場公園に戻るという2時間強のコース。歩きながらお地蔵さんに出くわすと、ポケットから小銭を取り出し賽銭箱に入れる。「よろしく!みたいな感じ」ということだが、その一連の動作があまりにもスマートなのに驚く。東京には意外と地蔵が多いと以前も言っていた。家を出る時に賽銭用の小銭を何枚か入れてくるのだそうだ。右のポケットには、挨拶用の小銭がジャラジャラ。何気なく粋である。

 仙台深川公園から親水公園と続く遊歩道をテクテク歩いていくと、水路に佇む河童の置物が見えてきた。「最初に来た時はちょうど夕暮れ時で、河童がすっごい寂しそうに見えたの。ああ、この河童は明日までひとりで冷たい水の上にいるんだな…って、背中がいい芝居してたんだよね。思わず写メで撮っちゃった」。人はそうやって何かに感情を重ねるものだ。言葉にならない優しさだったり、孤独だったり。その河童は、一昨年末に書いた小説『エンジェルチャイムが鳴る夜に』の中でも、あるカップルの思い出の風景として描かれていた。

 水路には鴨もたくさん泳いでいた。「この時期は鴨がウマいね。もし捕っていいのなら、オレなら食うね(笑)」なんてことを言いながら、どんどん先へと進む。「こっちこっち」と呼ばれたほうに向かうと、公園の中に移築された古民家が建っていた。「海苔を作っていた民家で、土間があって、いろりがあって、なかなか面白いよ。前に来た時、係のオヤジが説明するのを“へぇー”とか言いながら聞いてたら、すごい喜ばれて、庭になってたみかんをもいで“これ食べてよ”ってくれたの。肥料を与えてないから甘くはないけどって。でも旨かったよ。すっぱい甘いみたいな、自然な昔のみかんの味がした」。普段は説明に耳を傾ける人も少ないのだろう。みかんはオヤジさんからの「ほんの気持ち」のプレゼントだったのだ。


 さて、2007年である。休憩をしながら、新年の抱負などを聞いてみた。「猪年だから、猪突猛進。道なき道をかき分けて、みなさんワイルドに行きましょう!というところかな。この連載もそうだけど、俺としてはさらにレトロにいきたいね。生き方もね。合理的なのはくそ食らえだと思ってるから。そんなに便利に短縮して急いで生きて、先に何かあるのかよって。中国の古典では“近道するやつほど遠回りになる”という言い方があって、近道ばかり探して楽しようとするやつは、結局人生遠回りして本筋には帰れないという戒めなんだけど、まさにそれだなと。いろいろ経験しないと積み重なっていかないからね」

 そういう意味では、街歩きだって小さな経験の積み重ね。『路地裏ダイヤモンド』というタイトルも、思えばそんなところからつけられたものだった。

(つづく)

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地蔵尊に遭遇したら挨拶代わりに賽銭を 暖かいうちはボートや“渡し”にも乗れる 古民家(旧大石家住宅)は公開日時が限られているので要注意