第12回 江東区北砂 砂町銀座
河商店街は大人の遊園地
街を歩けば小腹が空く。仙台深川公園を抜け、砂町銀座商店街にたどり着くと、吉川は明らかにうれしそうな様子になってきた。「こういうとこに住んでると、買い物、楽しいだろうね」。長い長い商店街には、惣菜屋や焼き鳥屋、八百屋、魚屋などがひしめいている。
「あ、これウマそう!」。店先をのぞきながらまず買い求めたのは『イカの唐揚げ』。100グラム198円はいかにも安い。「フリット食べるならレモン買わなきゃ!」。そう言うや否や、吉川の大きな体は商店街の雑踏に消えていった。追いかけると、すでにレモンを手に「こっちこっち」と手を振っている。「この饅頭、ウマいよ!」。教えてくれたのは、商店街の中ほどにある『小饅寿本舗』の『しっとりもっちり黒糖小饅寿』。1個10円のかわいい饅頭はオヤツにぴったり。やさしい甘さで、皮のもっちり感もイケる。「隣のお茶屋さんが店先でお茶を試飲させてるから、饅頭食べたら、お茶をクイっとやって飲み逃げしちゃう手もある(笑)」と、商店街の達人のようなことを言う吉川だが、もちろんよい子はそんな真似をしてはいけません。
それにしても、一般的には男性は商店街に縁遠いように思うが、彼は違う。安くて旨いものが手に入るだけでなく、商店街にはある種の郷愁とこだわりがあり、そこが彼のハートにささるのだ。
「母親がこういうとこが好きで、近所にスーパーがあってもわざわざ遠い商店街に行って、魚は魚屋で、野菜は八百屋で買ってたんだよね。で、30分後に魚屋に魚を取りに行って来てと言われて自転車の後ろに乗っけて帰るんだけど、ガキのころは嫌だったなあ、格好つかねえというかね、遊びに遅れるしさ。でも、今になるとすごくいい思い出だな、そこの魚ウマかったし。デビューしてからはそういうとこに行きにくい状況もあったけど、麻布十番に住んでたころは十番商店街によく通ったよ。老舗が軒を並べててさ、こだわりを持ったおっちゃんやおばちゃんが生涯を懸けてやってるような店はやっぱりいい。意地とか誇りが感じられるでしょ? 商品というより作品だよねあれは。ファミレスで飯食うのとか便利でいい場合もあるけれど、できればマニュアル化されたものより手作りのほうが美味いしうれしいじゃない。商店街でおでんとコロッケと焼き鳥を買って食べるってさ、それこそ500円も使ったら腹いっぱいになるわけだけどさ、そういうの“豊か”じゃない? 身体にはもちろんだけど、それこそ心にもさ。何が格好良いのか悪いのかどうもねえ~価値観がおかしくなってるよなあ」
商店街散策を終えた後は、近くの公園での買い食いタイム。ベンチの上に『イカのフリット』を広げると、レモンの端を食いちぎり、その上にジュワっと絞る。途中で追加したおでんの袋も開け、「こりゃあ~美味いぜ!」と食べまくる。「何人かで散策に出る時なんかは、店に入るより総菜買い集めて公園で食ったほうが盛り上がって楽しいよ。ハイキング気分だね」。実際この日も彼の言う通りだった。しかし同行スタッフはほとんどが男性。大の男が、小さな公園で、つまみを食べながら盛り上がっている。どうみてもアヤシイ絵柄だが…。「地回りのチンピラみたいだよね。俺なんか、ここいらじゃあ兄貴づらしてっけど、たいした器じゃねえ、みたいな(笑)。酒も飲まずに、イカにしっかりレモンかけて食ってるみたいな(笑)」。そしてその後は、お気に入りの深川の珈琲屋に立ち寄ってコーヒーを2杯飲み、夕暮れの町を終点の木場公園へと向かったのだった。


