第14回 港区高輪~自然教育園
棕櫚の寺からタイムスリップエリアへ
泉岳寺からの帰り道、老舗の和菓子屋『松島屋』で名物の豆大福を購入。食べる場所を探していると「いい寺がある」と吉川から提案が。行ってみると、寺に続く下り階段の両脇に、ここは南国か?と思われる亜熱帯系植物が高々と茂っていた。
寒さに強い『棕櫚』と思われるが、寺とのミスマッチがなんともおかしい。「俺はこういう妙なところに引っかかっちゃうんだよねえ」
棕櫚の寺から高輪消防署に向かった右側には、またしても「引っかかる!」路地があり、通る人はほとんどいないと思われる不思議な階段の下に古い民家があったり、今では猫しか通らないような軒下があったり。それ以外に見るべきものは何もないが、「こういう家の外観を残して中だけ作り変えて事務所にするとか、いいよね!」なんて言いながら話しが弾む。路地には郷愁だけでなく、想像力をかき立てるモノも落ちているのだ。桜田通りに出ると、彼は馴染みの古本屋『石黒書店』に入り、先日取り置いてもらっていた分厚い本を数冊抱えて出てきた。
「ここから先はタイムスリップ・エリアなんだよね」。桜田通りを渡って池田山公園に向かう道を歩きながら、吉川は一軒の昔ながらのお茶屋を紹介してくれた。「つい先日も買ったんだけどね。たぶん一番高いのが100グラム1500円のやつで、それ下さいって言ったら、オヤジさん驚いた顔してさ、“若い人がお茶をねえ”なんて言われて、あんまり若くはないんだけどさって(笑)。で、ブリキ?の茶箱から葉っぱを皿に取り、秤で計って紙袋に入れ、袋の口を細い紐で結んでくれる。やっぱり違うんだなこれがさ。スタジオにこもって曲作りしてる時期の楽しみなんていったら酒か珈琲か、お茶入れるかぐらいのものでね。そんならやっぱりちょいとこだわってる老舗店の美味いやつをやりたくなるわけですよ。そのまま飲めるわけじゃないし持って帰ってから手間もかかるんだけどね」お茶屋さんの先には、吉川曰く「すずめ御殿」がある。「お屋敷なんだけど、樹が茂ってて、すずめのマンションになっている」のだそうだ。通りかかると、チュンチュンとのどかな鳴き声が聴こえてきた。「手を叩くと一瞬黙ってから一斉に飛び立つよ!」。さっそくパンパンと手を鳴らす吉川。残念ながらこの日は不発だったが、そんなことも楽しい街歩きである。
池田山公園に到着し、日本庭園を見ながら東屋でしばし一服。この公園は「静かできれいなのに、桜の季節だって人が少ない(ので、あまり教えたくなかった!)」という、吉川お勧めの都心の穴場。そして帰路、白金台の自然教育園に立ち寄り、今回のウォーキングを振り返った。
「魚藍坂のあたりは本当に坂が多くて、坂好きの人たちにとってはすごくいい場所。昔からの名前が残ってたりして、ちょっといい感じだよね。『松島屋』の豆大福も、豆とアンコに微妙に塩が効いててウマかったし、泉岳寺でおにぎり食べてた女性がいたけど、そういうのなんか粋だね。業界人やファンの一部には、ウォーキングなんか格好悪い。ロックだぜえ~よろしく!みたいな風貌でオープンカーかなんか乗ってブリブリいわせてるほうがいいっていう連中もいるわけですよ。まあたまに気取ってる程度ならいいけどさ、それが地だと俺にはつまんないな。天気が良くて時間のある日なんかは、弁当持って来て食べれば華やぐっていうか、そういうほうが豊かなんじゃねえの? エコですよエコっ!っと思うな」
そして吉川は再びスタジオへ、音楽の場へと戻って行った。





