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2007年03月27日

 

第16回 千駄ヶ谷・瑞園寺~明治神宮

ターザンの戦闘準備

 「あれえ、今日はいないな」。高徳寺にたどり着き、境内を見回した吉川はちょっと残念そうな様子だ。「足の白い猫がね、いつも置物みたいに本堂の階段のところに座ってるの。それが可愛くて写メでは撮ったんだけど…」。

するとどこからともなく「にゃぁ~」の声が。見ると、その猫が庭を横断してきた。これまさに以心伝心?なわけではなさそうだが、猫一匹との出会いもなかなかうれしい。

「じゃあ、梅を見に行こう」。次に訪れた瑞円寺の庭では、ピンクの梅の花が満開。まさに“路地裏に春”の趣だ。

「みんな花見は桜だっていうけど、俺は梅のほうが好きになっちゃってね。梅には白やピンク、赤、黄色っぽいのとかいろんな色があって、梅園に行くとそのグラデーションがきれいだよ。桜も悪くはないし、奈良の吉野なんかは200種類以上の山桜の群だからそれぞれに色も違えば花形も違ってるんだけど、ソメイヨシノってのは江戸時代だったっけかな? 職人さんが接木で掛け合わせて作ったいわゆる遺伝子操作の賜物だからさ、俺の中ではあんまりありがたくなくなっちまいました。で、またへそ曲がりなんで、やっぱり梅のほうがいいやとね。しかしながら“みんなで梅の花見をしよう!”って言ってみても皆さん“は?”って(笑)。昔は日本も梅だったんだけどね。まあ~そうはいっても満開の下で美味い酒を一杯!これはやめられないねえ~」

 次に向かった鳩森八幡宮にはちいさな能舞台があり、ここにもまた古き良き日本の風情があった。たまにフリーで能舞台をやっているそうだ。「通りかかると“何月何日にやります”って予定が張り出してあるから、仕事がないときはちょっと見に来たりとか。縁日もやってるし、休むのにもいい場所だよ」。境内には富士山を模した小山もある。「俺は何度も登ってるから、みんなも登ってみたら?」。そう言われたらやらざるをえないが、登ってみるとなかなか楽しい。面白いことは意外と身近にもあるもんだ。

「みんなで回して」と、吉川のポケットから『ハイチュー』が出てきた。それを食べながら北参道を抜けて明治神宮に入る。撮影スタッフに園内の“オシドリ見学スポット”を教え、「たまに本を持ってきて読んでる」芝生に座り込んで休憩し、竹林を通ったときには「竹の薀蓄(うんちく)言っていい? この竹は何本でしょう?」とクイズを出す。(答えは1本。竹は地下茎でつながっている)。途中、参宮橋側に一度出て立ち寄ったのは、「たまに馬を見に来る」という東京乗馬倶楽部。「馬は見てるとなごむよね。いつもはこの後代々木公園に入って少し運動するの。小さいボールを持ってきてるんだけど、公園でボールを投げると、どっかの犬が取りに来る(笑)」

 しかしこの日はどうしても紹介したいものがあるらしく園内に逆戻り。それは明治神宮の有料公園にある加藤清正が掘ったといわれる井戸だった。行ってみるとなんてことはない井戸だが、その辺りの静けさときたら、ひと気のない軽井沢か蓼科といったところ。思わず大きく息を吸い込み、表情も和らぐ。
 帰り道は「原宿駅からできるだけ人に会わずに明治通りまで行ける道がある」という吉川に従い、路地から路地を経由して次の仕事場へ。現地ではラジオ収録のスタッフが到着を待っていた。

 現在吉川は、3年8カ月ぶりのアルバム『TARZAN』(4月11日発売)のリリースに向け多忙な日々を送っている。都会のターザンにとって、路地歩きは戦闘準備のための心のリセットにもなるのだ。

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瑞円(禅)寺。庭内の梅は見ごたえ十分 鳩森八幡宮。新しめだが、ゆかしいたたずまい こじんまりとした気持ちの良い能舞台
富士山を模した“千駄ヶ谷の富士塚 明治通りを抜けると、そこは神宮だった――。意外と東京が狭いことをこんなときに知る 明治神宮のオシドリ。色がキレイすぎ
休憩するときは、ここで一服。本を読みながらってのもオツだ 神宮の竹林。これが1本とは… 乗馬倶楽部のポニー。吉川曰く「戦国時代の日本の軍馬はこれくらいの大きさだった」
神宮内の有料公園「明治神宮御苑」。拝観料は大人500円、こども200円 清正井戸へと続く道は東京とは思えない。畝には菖蒲が植えられている 橋をはさんで菖蒲の反対側には池が広がる
清正井戸の水質と豊かさは今も変わらない 今も南池の水源として機能している清正井戸 「できるだけ人に会わずにいける」という路地裏。確かに会いません

2007年03月13日

 

第15回 港区南青山~渋谷区神宮前

都心で見つけた心意気

 天気のいい午後だった。南青山の路地を入ると、岡本太郎氏の記念館があった。「岡本太郎さんは尊敬する人間のひとりだからね、たまに行ったりしてる」と吉川。

「好きだな~。岡本さんの本を読んでみたりもしたな。太陽の塔は伝説だし、“グラスの底に顔があってもいいじゃないかあっ!”のアイデアとCMにゃ子供ながら、このおっさんすげーぞ、っと思ったもんですわ。大阪万博のシンボルを依頼されたとき、他の芸術家連中からは“身売りした”なんて非難されまくったらしいけれど、結局は自分の意思を譲らなかったわけでしょ。違う設計図を渡しておいて出来上がるまで見せなかったという逸話もある。完成した塔を見たお堅い人たちは“なんじゃこりゃ?”と頭から湯気出したらしいけどさ、インパクト絶大なシンボルになったわけで、そういう在り方というか、モノを作る人間はそうじゃなきゃいけないっていう象徴的なところがあるよね。人間長く生きてくると浮き世なんざ妥協するのが当たり前だと冷めちゃうじゃない? それ違うよな。自分に何かが足りないから妥協せざるをえないわけで。結局、岡本太郎さんはヤッカミも多くて晩年なんか孤独だったみたいだけれど、それでも媚びたりはしなかったわけでさ。それをずっと支えながら一緒にいた女性がまた素敵だったよね」

 この近辺には、吉川おすすめの「根津美術館の庭」もある。裏道にはユニークな門構えの家が点在し、撮影ポイントを案内しながら青山墓地へとたどり着く。
「墓地っていうのはさ、散歩するのにすごくいいの。夏は涼しいしね」
 そうなのか…。ちょっと不謹慎な気がしないではないが…。
「いや、逆にたくさん人が訪れたほうが喜んでもらえるんじゃないの? 2時間くらいかけて格子状に全部歩いたこともあるよ。野良猫の集落になってたりもしてさ、鶏肉5パックくらい買っても足りないよ。好物はね、鶏肉と皮!これ間違いないよ。人なつこいのはよく食うし、気持ち良さそうに昼寝してるよ。猫の避難キャンプだよね、こんな都会じゃさ」

 途中、高台の墓地と外苑西通りにはさまれて古い住宅が残る一角に下りてみた。「あれ、おもしろいでしょ」。見ると、こんなところに井戸のポンプが。ガチャガチャ動かすとちゃんと水が出る! 都心のど真ん中とは思えないのどかさだ。
「ここの壁は、ナメクジ好きには天国だよ」。墓地の石壁を指して、彼はまた変わったことを言う。「梅雨時とかになると凄いよ~ナメクジの大行進でさ。みんな気持ち悪いっていうけどさ、カタツムリの仲間だからね。殻がついてないだけだから」。…大きな違いだと思うが。「それは人間がそう思ってるだけで、カタツムリは嫌がらないのに、なんでナメクジだと嫌がるの?」。つかむところがないからです。「あっはっは、なるほど(笑)」。

 青山通りに出るとちょうどランチタイムになっていた。オフィスビルから溢れ出すスーツ姿の大群の中に、肩幅の広いウォーキングスタイルの男がひとり。その後ろ姿もまた何かの象徴のように見えた。
 青山通りを渡り、キラー通りを下り、千寿院にたどり着くと、「ちょっと寄って行くかな」と、渡辺プロダクションの社長であった渡辺晋さんの墓に参った。線香を手向け、「ここのイチョウの銀杏は、おそらくは都内で一番デカい!しかもウマイ!」と追加情報も教えてくれた。
「梅がきれいな寺があるよ」
 その言葉に誘われ、脇道を通りさらに千駄ヶ谷へと向かう。

(つづく)

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岡本太郎記念館。1度は足を運びたい 住宅街にあるオブジェ。この家の方の所有物ですが… 青山墓地の近くで既に実をつけていた桜…?
同じく青山墓地の近くで早くもほころびはじめた桜 墓地の中でも道は続くよどこまでも 青山の一角に、こんなポンプがあるとは! 現役です
オフィスからスーツの大群が吐き出される昼時の青山通り。深い海の底のようにも見える んんん?? あれは… キラー通りで吉川が見つけた“ビックリ人形”。どこにあったか分かるかな?
仙寿院の近くにある高徳寺。境内に仏の群れが 仙寿院。狭いエリアの中に社寺仏閣が多い 都内で一番デカくてウマイ(であろう)仙寿院の銀杏