第24回 台東区浅草~墨田区長命寺
桜もちの甘酸っぱい思い出
浅草、雷門。浅草寺へと続く仲見世は平日でも人でごった返していた。「1本裏道がおもしろいよ」。吉川に促され脇道を歩き始めたところ、スタッフのひとりから「ここ、初めて来ました」の声が。「えっ、そうなの? じゃあせっかくだから中を歩こうか」。さりげなく優しい肩幅の広い男は、率先して観光地の人ごみに入っていった。
焼きたて煎餅屋や揚げ饅頭屋をのぞきながら、浅草寺で賽銭をあげて手を合わせ、まずは『花やしき』へと向かう。『花やしき』といえば、名物は軒先をかすめるジェットコースター。しかし「俺は乗らない」と吉川は言う。「あれは乗るもんじゃなくて見るもんだよ。ジェットコースターって、免許取り立ての女の子の助手席みたいで、脚に力が入っちゃってしょうがない。ないブレーキを一所懸命踏んでるからね」。要するに怖いわけですね。「いや、俺は自分が運転できないものには乗りたくないから…」。言い訳をするので次に向かうとしよう。
それにしても、裏道を歩く吉川が反応するものはおもしろい。まずは『初音小路飲食店街』と書かれたひっそりした商店街。「夜とか来たら、おもしろい店がありそうだね~」。続いて「懐かしい!」と声をあげたのは古銭屋。「母親にお土産を買おうかな」とつぶやいたのは、ツゲの櫛の専門店。骨董品屋で古い火鉢を見つけると「ベランダに置いて、水をはって金魚を入れたい」と興味を示し、江戸切子の専門店では、涼しげな模様が掘り込まれたグラスを手にとり「キレイだね」としばらく見ていた。そうして浅草寺の周りを一周して雷門に戻ると、吾妻橋の向こうにアサヒビールのビルが見える。そのユニークな造形から“うんこビル”とも呼ばれるビルだ。「初めて見たときはゲラゲラ笑ったよね。これはウケ狙いだと思って。でも、すごくいいと思うのは、頭の固い社長なら“これは絶対にウンコって呼ばれる”って反対すると思うわけ。それを、むしろいいと判断したその大器、寛容な感じがいいよね」
そこから吾妻橋を渡り、ある場所を目指し川沿いを歩いた。「確かこっちだったと思うけど…」。記憶をたどりながら吉川が進む。「俺、ちょっと見てくる」。そう言うと小走りに駆け出した。しばらくすると、遠くのほうで両手で大きな丸を作って合図している。記憶に間違いはなかったらしい。案内された入った店『長命寺・桜もち』の桜もちは、ほどよい甘味がとてもおいしい逸品だった。
「昔、女の子と来て食べたことがあったんだよね。歩いて、疲れると甘いものが欲しくなるじゃない。で、ちょっと食うかって入ったんだけど、当時はヘビースモーカーだったから、店内禁煙ってことで、外の壁に寄りかかって食べた記憶がある。俺は1個で、その子は2個。そのときもすごいウマくて、実は歴史のある有名な店だって聞いたのはその後。何か印象深かったから覚えてたんだけど、場所はうろ覚えだった。でも人間っておもしろいよね。ある景色か何かが目に入った瞬間に、ぶわーっと記憶がつながって、あのときはこうだったとか思い出すからね」。目の前の隅田川の土手は桜の並木。花見シーズンは景色も最高だろう。「こういう場所を覚えておくと、桜が咲いたら食いに行こうって、またここまで歩けるわけよ。昔は一切そういうことは考えなくて、ただ飲んでるだけだったからね。どこかに行こうって言われても、ウルサイ!みたいな(笑)。だから俺は、今のほうが女性には優しいかも。自分でそう思ってるだけかもしれないけどね(笑)」
(つづく)
※写真をクリックすると拡大画像が見られます。拡大写真の右側にマウスを重ねると「NEXT」ボタンが現れ、次の写真を見ることができます。