第26回 台東区浅草・かっぱ橋界隈
「浅草の人はイタリア人みたい」
場所は、調理器具などの店が軒をつらねるかっぱ橋商店街。吉川が目を輝かせた包丁専門店には、美術工芸品といってもいいほどの美しい道具が並んでいた。
先週に続き、さっそく吉川の包丁談義に耳を傾けよう。
まずは、なぜ家庭で使う出刃包丁は、磨いであるものと、それほど切れないものの2種類必要なのかということ。「魚の頭を落としたりするときには切れるものじゃないとダメだけど、皮をはぐときなんかは、切れ過ぎる包丁だとやりにくいってことがある」
なるほど!
「出刃は重いから普通の主婦の方なんかは使いにくいかもしれないけど、魚の骨を切ったりするにはある程度の重さがないと難しいし、出刃の断面が三角なのも、刃がズバッと入りやすいから。家庭用の包丁は薄くて軽いから、骨まで切るのはまず無理というか、危ないよね。出刃ってのは実は何種類もあって、コハダとかのちっちゃい魚をさばく出刃は、ものすごい小さくてカワイイよ。それに対して刺し身用の柳刃は、例えばヒラメを切るときなんかひと引きで刺し身にならないといけないから長さが必要だとかね。でも切る魚によって短い柳刃も使うから、本格的にやりたかったらいろんな包丁が必要になってくる。まあ、家で食べる刺し身なんて何とでも切ればいいんだろうけど、なんというか、粋を気取りたいわけなんだね。すーっとひと引きで上手く切れたらうれしいってのがあるから。肉や野菜は押して切るけど、魚はそうすると細胞をつぶして水っぽくなるから、全部引いて切らなきゃいけないからね」
包丁使いもひとつの職人技である。職人に惹かれる吉川は、寿司屋や料理屋のカウンターで板前が調理する姿を見るのが好きだという。
「人によって包丁の使い方が違ったりして、おもしろいよ。飾り包丁ってのがあるんだけど、見てると真似したくなっちゃう。イカにパパっと切れ目を入れて、湯をかけた瞬間にガメラの背中みたいになったりとか、こりゃおもしろいって思っちゃうんだよね。野菜の切り方もいろんな種類があるから、そういう本を買ってきたりしてね。イカなんか、普通みんな横に切るけど、繊維に対して縦に切って干したスルメなんて、ポリポリ食べられちゃう。おばあちゃんの入れ歯でも十分食えるくらいね。だから魚も肉も、繊維に対してどう切るかが問題でさ…」と、話は尽きることがないのであった。
包丁屋から大通りに向かうと、コーヒー道具屋、フライパンやタコ焼きなどの調理器具屋、食器屋、台所小物屋などがずらりと並び、一軒一軒入っては興味津々なまなざしを向ける。「ちょっとウロウロしてきていい?」。おもちゃ売り場を前にした子供のような笑顔で、彼は道具街に消えていった。しばらくして戻ってくると、皿を買いたいのだという。この日購入したのは、「刺し身を盛りたい」という真っ白な長方形の焼き物の皿。購入後、店の入り口付近にあった小さな薬味入れを見つけると「おじさん、いい皿買ったから、これおまけに付けてよ!」と交渉。「ああ、いいよ、持ってきな」。吉川は“やったね”とばかりにうれしそうな顔をした。
かっぱ橋というだけあって、路地には金色に輝くカッパの像が立っていた。大笑いしながらを携帯の写メに納め、帰路につく途中で見かけたのは、おじいさんが2階の窓からヒモをつけたカゴをたらし、下にいる娘さんに買い物を頼む光景。「イタリア人みたい。やっぱりこういう人のにおいのする街は楽しいってことだね」
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