第30回 港区虎ノ門~芝
芝公園・淫靡な旅館とアスレチック
「あっ、そうだ、東京タワーの金魚屋に寄っていこう!」
虎ノ門から芝公園に向かう途中、思い出したように吉川は言った。正則高校前の坂を上り、オランダ大使館前を通ってさらに進むと、大きな纏のオブジェのある建物を発見。「これ消防署?あ、鳶の人たちの会館だ!」、なんて話しながら裏道を行くと、こんなところに出るのか、と、思いがけなく目の前に巨大な東京タワーが現れた。“金魚屋”は、1階にある水族館の横にひっそりとあった。しかし吉川が“金魚屋”と呼ぶ場合は、以前紹介した市ヶ谷駅前の店もそうだったが、かなり多くの種類の水生動物がいて、いわゆる“金魚屋”ではなくちょっとしたミニ水族館。見るだけでも十分楽しめる。
そして、いよいよ芝公園のアスレチックへ向かう。タワー下にある有名店『豆腐屋うかい』の前を通り、広場を抜けて階段を下りると、公園内なのに普通の民家があった。「このへんの家、好きでねー」と吉川。確かに都心としては最高の立地条件。公園が庭代わりなんて、まさに吉川好み。四季を感じながら生活するのは、今の東京では贅沢なことになってしまったという現実がそこにはある。
アスレチックには、鉄棒や前屈、バランス、幅跳びなど、さまざまな測定ものがあり、自分のレベルが何歳くらいかを示す表示もついていた。チャレンジ精神むき出しにしながらも、結果にガッカリするスタッフを見ながら、吉川は余裕の表情。思わず「懸垂できますか?」とバカな質問をしてしまった。「さっきやったよ」。見ていなかったと食い下がり、懸垂を披露してもらった。高い鉄棒にひょいとぶらさがると、何なくクイックイッと体を持ち上げる。ライブでのパフォーマンスやシンバルキックを見るにつけ、吉川の体はなぜこんなにキレるのか思っていたが、日ごろの心がけが肝心だということがよく分かった。「アスレチック、たまにやるとおもしろいでしょ。みんな結構体力落ちてるからね。体も動かさないとどんどん錆びついてくるし。だから、ウチの会社でも全員で体力測定をやろうって提案したの。正月明けで体がなまってる時とかにいいじゃない。反復横跳びとか、ちゃんと計ってくれるところがあるんだけど、女子社員に大反対された。絶対に年齢より上の数字が出るに決まってるから嫌だって(笑)」。体を動かした後は公園内にある古墳に登り、会社員風の男性が練習していた横笛の音色を聴きながらしばし休憩。古墳を降りて公園をさらに歩くと、またしても園内に民家が。「ここ、昔は旅館だったんだよね。個人経営で、ちょっと淫靡な感じがよかったんだけど……いや、入ったことはないよ(笑)」。大人なのだから、入ってもいいのでは?「あ、あははは…」。
それにしても今回のルートでは、昔ながらの商店や町並みを多く発見することができた。「でも今後、虎ノ門のあたりが再開発されたら街は変わると思う。商売人が入ってくると、アーティストが出ていく、という図式が街にはあるってことだよね。畳職人の店とか琵琶の店とか、このまま残ってほしいけど、跡継ぎがいないんだろうね。若いヤツらは、ああいうのを受け継げばいいのに。今日、鳶の会館の前を通ったけど、鳶職なんて今は女のコも多いからね。女のコのほうが考え方も柔軟で頑張ってるコが多いよ。街を歩いてると、そういうことも見えてくるのがおもしろいし、いつもは車が混んでても、東京って思ってるほど場所と場所が遠くない。歩くと意外と近いことが分かるのもおもしろいね」
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