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2007年11月28日

 

第30回 港区虎ノ門~芝

芝公園・淫靡な旅館とアスレチック

「あっ、そうだ、東京タワーの金魚屋に寄っていこう!」
 虎ノ門から芝公園に向かう途中、思い出したように吉川は言った。正則高校前の坂を上り、オランダ大使館前を通ってさらに進むと、大きな纏のオブジェのある建物を発見。「これ消防署?あ、鳶の人たちの会館だ!」、なんて話しながら裏道を行くと、こんなところに出るのか、と、思いがけなく目の前に巨大な東京タワーが現れた。“金魚屋”は、1階にある水族館の横にひっそりとあった。しかし吉川が“金魚屋”と呼ぶ場合は、以前紹介した市ヶ谷駅前の店もそうだったが、かなり多くの種類の水生動物がいて、いわゆる“金魚屋”ではなくちょっとしたミニ水族館。見るだけでも十分楽しめる。

 そして、いよいよ芝公園のアスレチックへ向かう。タワー下にある有名店『豆腐屋うかい』の前を通り、広場を抜けて階段を下りると、公園内なのに普通の民家があった。「このへんの家、好きでねー」と吉川。確かに都心としては最高の立地条件。公園が庭代わりなんて、まさに吉川好み。四季を感じながら生活するのは、今の東京では贅沢なことになってしまったという現実がそこにはある。
 アスレチックには、鉄棒や前屈、バランス、幅跳びなど、さまざまな測定ものがあり、自分のレベルが何歳くらいかを示す表示もついていた。チャレンジ精神むき出しにしながらも、結果にガッカリするスタッフを見ながら、吉川は余裕の表情。思わず「懸垂できますか?」とバカな質問をしてしまった。「さっきやったよ」。見ていなかったと食い下がり、懸垂を披露してもらった。高い鉄棒にひょいとぶらさがると、何なくクイックイッと体を持ち上げる。ライブでのパフォーマンスやシンバルキックを見るにつけ、吉川の体はなぜこんなにキレるのか思っていたが、日ごろの心がけが肝心だということがよく分かった。「アスレチック、たまにやるとおもしろいでしょ。みんな結構体力落ちてるからね。体も動かさないとどんどん錆びついてくるし。だから、ウチの会社でも全員で体力測定をやろうって提案したの。正月明けで体がなまってる時とかにいいじゃない。反復横跳びとか、ちゃんと計ってくれるところがあるんだけど、女子社員に大反対された。絶対に年齢より上の数字が出るに決まってるから嫌だって(笑)」。体を動かした後は公園内にある古墳に登り、会社員風の男性が練習していた横笛の音色を聴きながらしばし休憩。古墳を降りて公園をさらに歩くと、またしても園内に民家が。「ここ、昔は旅館だったんだよね。個人経営で、ちょっと淫靡な感じがよかったんだけど……いや、入ったことはないよ(笑)」。大人なのだから、入ってもいいのでは?「あ、あははは…」。
 それにしても今回のルートでは、昔ながらの商店や町並みを多く発見することができた。「でも今後、虎ノ門のあたりが再開発されたら街は変わると思う。商売人が入ってくると、アーティストが出ていく、という図式が街にはあるってことだよね。畳職人の店とか琵琶の店とか、このまま残ってほしいけど、跡継ぎがいないんだろうね。若いヤツらは、ああいうのを受け継げばいいのに。今日、鳶の会館の前を通ったけど、鳶職なんて今は女のコも多いからね。女のコのほうが考え方も柔軟で頑張ってるコが多いよ。街を歩いてると、そういうことも見えてくるのがおもしろいし、いつもは車が混んでても、東京って思ってるほど場所と場所が遠くない。歩くと意外と近いことが分かるのもおもしろいね」

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畳のことをいろいろ聞かせてくれた『中野畳店』 園内に残る、吉川好みの風情ある家。背景は高層ビルだ 寒桜にも早いが、どう見ても桜と思える花が咲いていた

2007年11月13日

 

第29回 港区飯倉~虎ノ門

愛宕の山と、ロックな家

 飯倉のロシア大使館付近に来ると、東京タワーが目の前にそそり立っている。吉川がデビュー当時所属していた渡辺プロダクションは以前この近くにあった。10代の後半、この界隈をよく歩いたそうだ。「ずいぶん街は変わっちゃったけどねぇ…」と言いながらも、慣れた足取りでひょいと裏道に入り込む。「ちょっと寄り道」と言われて後をついていくと、霊友会の巨大な本堂の奥にある細い石段を通り、八幡神社の境内に出た。

「ここは結構穴場。あんまり人がいないから、よく休憩に使ったりする。ほら、ザクロの木に実がついてるよ。なぜか神社にはザクロの木が多いんだけど、今は買うと高いよ。1コ600円とかするからね」

 神社の表の石段を下って左に行くと、『中野畳店』という古い畳屋があった。いかにも職人風の構えに、吉川は足を止める。店主に畳のことを聞くと、いろんなことを話してくれた。畳製の小物が並ぶ中から、畳で作った花瓶敷を吉川はお買いあげした。うれしそうだ。

「昔は小物なんか売ってなくて、畳一本の店だったんだよ。それだけじゃ商売にならないから考えたんだろうね。でも、“あっちとこっちとなんで値段が違うの”って聞いたら、“あたしが作ってるのとそうじゃないのがあるから”って(笑)。そんなこと黙ってりゃ分からないのに、プライドなんだろうね」

 もし自分が家を持つとしたら、絶対に畳の生活をしたいと吉川は言う。

「夢だけど、木造で平屋で畳の家に住めたら最高だね。音楽以外はどんどん日本的なものに傾倒していってるからね。畳だけ買ってフローリングの床に敷くのもいいと思うけど、残念ながら我が家はカーペット。知り合いのパーカッショニストのスティーブ・エトウなんか、畳にパソコンをそのまま置いて、正座して打ってるんだって。きっと日本的なものが好きなんだろうね」

 愛宕神社に向かう途中、古い民家が何軒か残る場所があった。猫が通るような家と家の間の路地を見つけて入り込んだが、吉川の肩幅では体を斜めにしないと通れないほど狭い。戻ってくると思い後ろ姿を見ていると、そのまま路地の角に消えた。あわててスタッフ全員がぞろぞろついていくと、「ここは通れないよ!」と住人から注意が! すいませーん、と言いながら路地を抜ける。いい年をした大人が子供みたいに叱られるのもたまには楽しかったりして。

 愛宕神社の石段は超急勾配で登りは辛い。先日のペルーロケ前には、山歩きの練習にこの階段を何往復もしたそうだ。「途中で下見ると怖いから、一気に上って!」と、ガイドのようにスタッフに声をかける。この神社にはその急階段以外にも何通りかのルートがあり、いろんな方法で登りを楽しめる。「全部登る?」と提案されたが、今日はひとまずやめておいた。愛宕の山は、今も23区内で最高地なのだそうだ。

 料理屋や、田崎真也氏のワインサロンもあり、ちょっとした都心の名所である。山を下りてからは、日本でただ一軒残るという琵琶製作の『石田琵琶店』の前で琵琶の美しい音色を聴き、虎ノ門の再開発用地の中にガンとして残る喫茶店『般若』と、吉川が「ロックな家」と呼ぶ超細長い建物を見学。「あのロックな家は最高だよね。資金があったら俺が買い取って、絶対に売らないで残したいね。俺の事務所とかスタジオを全部そこに移動して、“これを売ったら俺の抵抗も終わったと思ってくれ”って(笑)」。本当にそうなったらおもしろいのだが…と思いながら、芝公園のアスレチックへと向かった。

(つづく)

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畳のことをいろいろ聞かせてくれた『中野畳店』 吉川の肩幅よりも狭い路地。お邪魔してすみませんでした! 「ロックな家」。ビルの谷間に意気を感じる細長さだ