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2007年11月13日

 

第29回 港区飯倉~虎ノ門

愛宕の山と、ロックな家

 飯倉のロシア大使館付近に来ると、東京タワーが目の前にそそり立っている。吉川がデビュー当時所属していた渡辺プロダクションは以前この近くにあった。10代の後半、この界隈をよく歩いたそうだ。「ずいぶん街は変わっちゃったけどねぇ…」と言いながらも、慣れた足取りでひょいと裏道に入り込む。「ちょっと寄り道」と言われて後をついていくと、霊友会の巨大な本堂の奥にある細い石段を通り、八幡神社の境内に出た。

「ここは結構穴場。あんまり人がいないから、よく休憩に使ったりする。ほら、ザクロの木に実がついてるよ。なぜか神社にはザクロの木が多いんだけど、今は買うと高いよ。1コ600円とかするからね」

 神社の表の石段を下って左に行くと、『中野畳店』という古い畳屋があった。いかにも職人風の構えに、吉川は足を止める。店主に畳のことを聞くと、いろんなことを話してくれた。畳製の小物が並ぶ中から、畳で作った花瓶敷を吉川はお買いあげした。うれしそうだ。

「昔は小物なんか売ってなくて、畳一本の店だったんだよ。それだけじゃ商売にならないから考えたんだろうね。でも、“あっちとこっちとなんで値段が違うの”って聞いたら、“あたしが作ってるのとそうじゃないのがあるから”って(笑)。そんなこと黙ってりゃ分からないのに、プライドなんだろうね」

 もし自分が家を持つとしたら、絶対に畳の生活をしたいと吉川は言う。

「夢だけど、木造で平屋で畳の家に住めたら最高だね。音楽以外はどんどん日本的なものに傾倒していってるからね。畳だけ買ってフローリングの床に敷くのもいいと思うけど、残念ながら我が家はカーペット。知り合いのパーカッショニストのスティーブ・エトウなんか、畳にパソコンをそのまま置いて、正座して打ってるんだって。きっと日本的なものが好きなんだろうね」

 愛宕神社に向かう途中、古い民家が何軒か残る場所があった。猫が通るような家と家の間の路地を見つけて入り込んだが、吉川の肩幅では体を斜めにしないと通れないほど狭い。戻ってくると思い後ろ姿を見ていると、そのまま路地の角に消えた。あわててスタッフ全員がぞろぞろついていくと、「ここは通れないよ!」と住人から注意が! すいませーん、と言いながら路地を抜ける。いい年をした大人が子供みたいに叱られるのもたまには楽しかったりして。

 愛宕神社の石段は超急勾配で登りは辛い。先日のペルーロケ前には、山歩きの練習にこの階段を何往復もしたそうだ。「途中で下見ると怖いから、一気に上って!」と、ガイドのようにスタッフに声をかける。この神社にはその急階段以外にも何通りかのルートがあり、いろんな方法で登りを楽しめる。「全部登る?」と提案されたが、今日はひとまずやめておいた。愛宕の山は、今も23区内で最高地なのだそうだ。

 料理屋や、田崎真也氏のワインサロンもあり、ちょっとした都心の名所である。山を下りてからは、日本でただ一軒残るという琵琶製作の『石田琵琶店』の前で琵琶の美しい音色を聴き、虎ノ門の再開発用地の中にガンとして残る喫茶店『般若』と、吉川が「ロックな家」と呼ぶ超細長い建物を見学。「あのロックな家は最高だよね。資金があったら俺が買い取って、絶対に売らないで残したいね。俺の事務所とかスタジオを全部そこに移動して、“これを売ったら俺の抵抗も終わったと思ってくれ”って(笑)」。本当にそうなったらおもしろいのだが…と思いながら、芝公園のアスレチックへと向かった。

(つづく)

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畳のことをいろいろ聞かせてくれた『中野畳店』 吉川の肩幅よりも狭い路地。お邪魔してすみませんでした! 「ロックな家」。ビルの谷間に意気を感じる細長さだ