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2007年12月18日

 

第31回 世田谷区砧、三軒茶屋、下馬

おおくら大佛とスーパー路地裏

 さて、いきなり大佛である。知ってる人は知ってるが、知らない人はまったく知らない世田谷通りの砧付近に、その大佛はある。東光山妙法寺の墓地の奥に姿を現す大佛は、参拝者がくると、クルリと回る。昼は本堂のほうを向いているが、夕方以降は世田谷通り方向を向き、道路の安全を見守っているそうだ。ハイテク好きの住職が考案したそうだが、残念ながらこの日は、賽銭を投げ入れた吉川を前にしても微動だにしなかった。「動かないねぇ…、故障かな?」。それでも参拝した限りは線香を買って手向ける。それが彼の流儀だ。帰りがけに住職に聞くと、「あれっ?動かなかった?調子が悪いのかな…」。まあそれも愛嬌である。

「あえて大佛が回る必要はないんだけどね(笑)。でも、発想がおもしろいっちゃおもしろい。ここの寺はそれ以外にもしだれ桜が有名みたいだし、ペット霊園もあるから、ペットを供養してほしい人にはありがたいよね」

 寺を出ると雨が強くなってきた。回りそこねた大佛の涙雨…なわけはないが、いったん三軒茶屋まで移動することになった。スタッフの半数は路線バスに乗ったが、吉川は自分の車と合流するまでひとりで歩くという。バスを待つ数分の間に、その後ろ姿は世田谷通りのかなたに消えてしまった。さすがに途中で追い越したが、渋滞でもたもたしている間に追いつかれそうになる。バスの窓から見えた歩く吉川は、やはり異彩を放っていた。

「都心にこんなに大きな団地があったなんて、この界隈に住んでない限り分からないよね」
 三軒茶屋から下馬に入り、案内されるままに住宅街を進むと、広大な都営住宅エリアに出た。案内図を見ると、その数40棟以上。
「今でこそ都心にあるのは珍しいけど、できた当時は高度経済成長で変化する日本の象徴みたいなものだったんでしょ。核家族で団地に住むのがクールみたいなね。今は、高齢者のひとり住まいが孤独だとか問題もあるみたいだけど、若いやつらの中には、この形状が芸術だ、みたいな人もいて、団地の写真集を作ったりしてるから。これも時代の流れだよね」

 そこから世田谷公園に入り、「奥に汽車ぽっぽがある」と案内されて、ミニSLが走る園内のプレイパークのきれいな落ち葉を踏みしめながら、「祐天寺に行く最短ルートを教える」と、蛇崩の交差点に向かった。
「このスーパー路地裏を入るんだよ」。幅2メートルにも満たない路地を前に、吉川は得意気だ。

 場所は目黒ゴルフ練習場とテニス場の間。聞けば、30代にテニスに熱中した時期に発見した路地とのこと。「奥にあるテニスコート用の駐車場から逆に入って見つけたんだけど、表から入ると途中で行き止まりに見えるんだよ。当時はそれこそ時間がある限り毎日でもテニスをやってたからね。高校時代の彼女がテニス部だったりして、練習につきあったこともあったけど、テニスなんて軟弱なスポーツだと思ってたの。でも、取材か何かでやったらハードで、これはすごいと。スポーツに関しては、自分で設定したレベルまで行かないと気が済まないというか、やり始めたらとことんやっちゃう癖があるんだけど、練習につきあってくれる連中が疲労骨折したり膝に水がたまったりして脱落して、俺も足首の腱が切れそうになってやめざるを得なくなって…」。

 そんな話を聞きながら路地を進むと、『蛇崩川支流緑道』という、これまたスーパーな路地裏が現れた。

(つづく)

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ぜひ回るところを見たかった妙法寺の大佛 これもひとつの建築美。下馬の都営住宅群 世田谷公園のミニSLチビクロ号。休業日あり