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2008年01月29日

 

第33回 目黒区下目黒

公園の猫で考える動物の幸せ

 吉川の路地歩きに特別な法則はないが、「この先に何もないなと思ったら、とりあえず脇道に入ってみる」のが彼の流儀。今回の最初の“曲がり”は、目黒警察の先だった。山手通りを目黒に向かって歩き始めたとたん、カクっと脇道に入る。しばらく歩いて出たところは目黒川。

「ここは品川の先まで桜並木で、咲いてるときはきれいだよ。散り際がまたよくて、雨が降った次の日なんか川面がピンク色の花びらで埋まるんだよ」。冬の川沿いは寒い。桜の季節が待ち遠しい。

 区民プールの脇を通り、目黒通りを越え、柳通りを歩きながら「目黒不動に行こう!」と吉川。山手通りを渡ると、赤い鳥居の参道入り口が見えてきた。

 商店街を入ると、まず左手に現れたのは『たこ薬師』。「俺は1週間に2回くらいのペースでタコを食ってるから、参らないといけないね」。吉川はいつものスマートな仕種でポケットから賽銭用の小銭を取り出し、賽銭箱に入れた。しかし“週2でタコ”とはよほど好きなのだろう。「タコは旨いよ。身近で買えるのはほとんど茹でた後に一度冷凍してある外国産のタコだけど、国産マダコの茹でたてを食べるとホントに旨くて、今まで食べてたタコは何だったんだと思うよ」。そう言われると確かに旨そうである。

 商店街には「来ると立ち寄る」というおでん屋、「いつも行列ができてるうなぎ屋」もある。店先で焼いている蒲焼きを買い食いするのがいいという吉川だ。目黒不動はなかなか見ごたえのある神社だった。裏手には『甘藷先生』として有名な青木昆陽の墓もあった。「徳川吉宗の時代に、飢饉を救うためにさつまいもの栽培に成功したってことは覚えてたけど、歴史ってのは頭で覚えるだけじゃなく、自分で歩いて体と一緒に記憶すると忘れないね」。路地歩きはアウトドア脳トレの時間でもある。

 次に向かった林試の森公園では、『出会いの広場』と名付けられた広いエリアでお年寄りたちがゲートボールに講じていた。自販機で暖かい飲み物を買い、しばしベンチに座って見学。「お年寄りになっても性格って出るね。ぎゃーぎゃー言ってるじいさんとか見ると、もうちょっとのんびりやればいいのになと思うよ。俺もそうならないように人のふり見て我がふり直せだね(笑)」。

 公園内では、猫たちも悠然と闊歩している。「みんなが餌をあげてるから、まるまる太ってるのよ」と、通りがかりのおばさんが説明してくれた。「ノラじゃ可哀想だからって連れて帰る人もいるけど、鳴いてダメなんだって。やっぱり自由がいいのよ。人間だってそうでしょ」。のどかな午後の公園で聞くには、なかなか含蓄のある言葉だ。「おっしゃる通りだよね。女のコとか、ノラ猫を“可哀想”って言う人もいるけど、餌をくれる人はいるわけだし、彼らにしてみたらパラダイスでしょ。一番哀れなのは動物園にいる動物だって俺は思ってるからね。それを見て“かわいい”って言うのはイカレテると思うし、かわいいなら逃がしてやれよって。動物園の動物たちから見たら、人間のほうが檻の中に入ってるように見えるんじゃないの」。何かを見たときにどういう視点で考えるか。それに関しては、ぶれない熱さをなくさない人である。

 五反田まで歩き、TOC(東京卸売センター)を見学。初めての場所に吉川もワクワク気味だ。卸し専門店が並ぶ中で小売りOKのモロッコ小物の店を見つけ、きれいな色の小鉢を数個購入。「刺し身を食べるときに、しょうゆ、ポン酢しょうゆ、レモン塩とかを入れるのにいいね」。どこを歩いても、街はさまざまに楽しめる。

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たこ薬師は絵馬もたこ柄。「福をすいよせる」の文字 商店街のおでん。ちょっと買い食いが楽しいのだ
TOCで見つけたモロッコ小物店『モロッコスタイル』

2008年01月22日

 

第32回 世田谷区上目黒~祐天寺

石屋とドロップキックの思い出

 街を歩いていて吉川がよく言うのは、「川に蓋をするのは絶対に反対」ということだ。護岸工事で岸や川底をコンクリートでかためるのも反対。自然には自然の浄化作用があり、自然のままでいてこそ川は美しい流れを保つ。人間がゴミを捨てなければの話だが、この日も『蛇崩川支流緑道』を歩きながら、そんな話をした。環境問題に関しては先見の明があった吉川である。

 五本木と上目黒の間を抜け、東横線の高架下に入ると、珍しい自販機があった。「ちょっとおもしろいでしょ」と、得意気な吉川。それは使い終わった缶を入れるといくらかの小銭が出てくる機械で、これまたエコな一品。そこから高架を戻り、道を左へと進むと、吉川セレクトの本日のメインイベントが待っていた。

「都心で、これだけの敷地でやってるってことがまずすごいよね」。目の前に現れたのは、巨大な石だった。自然の石ではなく石屋さん所有のものなのだが、道の両側に石、石、石、石! しかしこれ、本当に売り物なのだろうか? 商品だとしたら、雨風にさらされていては形も崩れようってもんだ。

「それが違うんだよ。石ってのは、雨風にさらされてこそ味が出てくるもんで、石好きにとっては、川原で拾った普通の石でも、ちょっと何かの形に見えただけで結構な値段がつくんだよ。だからこれだけの石が並んでるってのは、石好きにしてみたらたまんないね。まあ、これを飾れる庭を持ってる人が東京にどれだけいるのかってことになると、実際売れるかどうかは分からないけど、これが趣味だったら逆にすごい。“ただの石好きなんですよ、エヘヘ”なんて言われたら、大物だね。俺が小さいころ、家の近くに石屋があってよく遊んでたから、そういう懐かしさもあるけどね」。それではぜひ、吉川家のリビングにも石を一個、いかがでしょう?

「おける庭が欲しいけどね。庭が1畳しかないのに、1畳分のでっかい石がひとつだけあるってのも、またバカでいいかもね(笑)」。

 名残惜しい石屋を後に、次に向かったのは、夜中しか開いていない地域名物のパン屋『キクヤベーカリー』。クリームパンがおいしいということで、夜中に行列ができるそうだ。「昔、友人が食べたいっていうから、一度だけ並んで買ってあげたことがあるよ。しかし東京の人は並ぶのが好きだよね。で、どんなモノでも並んで食べると“意外においしい”って言うでしょ。前向きな人が多いよね(笑)。関西から以西はまず並ばないから」。

 祐天寺に向かう道すがら、昼から込んでる焼き鳥屋『忠弥』を発見。立ち寄りたい気持ちを一時封印し、動輪のある幼稚園に差しかかったところで、幼稚園時代の話で盛り上がったりした。

「俺はそのころからやんちゃだったね。隣りの家のコがブランコを横取りされた敵討ちとかいって、近所の小学生にドロップキックしてブランコを取り返してたからね。蹴ったらそいつがブランコに頭ぶつけちゃったんだけど、俺は“悪いのはこいつだ”って言い続けて、母親に“謝りなさい”って言われたことを覚えてる。いつも正義感だけは強いから。昔から不正は許せない。それで母親がいつも謝りに行ってたよ」

 昨年の12月30、31日には、代々木国立競技場第2体育館で、スーパーミュージシャンを従えての素晴らしいセッションライブを繰り広げた吉川。2008年もドロップキック・マインドで、味のある路地裏を突き進む。

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「この辺にいるはず…」と言われ、振り返ると猫 夜中しか開かないけど行列のできる、キクヤベーカリー 吉川推薦の和装小物店。「面白いモノを売ってるよ」